13 わーるどくえすと4
「きゃぁああ! 火事火事、あたしの尻尾が火事ぃっ!」
あたしの大切な尻尾の先に火がついていた。必死で尻尾を地面に叩きつけたり手で叩いたりして消火に励む。
ジャンヌさんの作った魔法陣から炎の柱が吹き上がった時、残念ながら尻尾が少しだけ逃げきれていなかった。
それで毛に火がついて、冒頭の状態に至る。
幸いすぐに火は消えた。
毛はちょっと焦げたけど、パーマにはならないでくれた。良かった。HPちょっと削れたみたいだけど。
「こはる気を抜くな! ジャンヌが来るぞ!」
お姉ちゃんから警告が飛ぶ。
ああ、そうだった。ジャンヌさんのタゲは今あたしに向いているんだった。次の攻撃が来るよね。
あたしに耐えられるのかなーとか、避けられるのかなーとか。ハラハラしながら構える。
魔法攻撃を終えたジャンヌさんが剣を構え直した。
重心が低くなって剣攻撃に移ろうとしている。踏み込んで刃が突き出された。
けど、相手はあたしじゃなくて、空さんに。
「あれ?」
予想と違う流れに、あたしの頭の上にはてなマークが浮かぶ。
お姉ちゃんと腐ちゃんも不思議顏。
空さんはそれどころじゃない。
とりあえずジャンヌさんへの攻撃を再開させながら、不思議顏3人で会議。
「タゲ、空さんが強引に取ってくれたとか?」
「いや、そうじゃないみたいだな。〈挑発〉のモーションもエフェクトも見てないし。たぶん、ヘイト順位通りの攻撃に移っただけだと思う」
「どゆこと?」
「たぶんねぇ。さっきの〈地獄の業火〉とかいう魔法ぉ、ターゲット条件がヘイト順位じゃないんだよぉ」
喋りながらも戦闘は続く。
そうしていたら、2次クエストに参加出来なかった人たちからヒールや強化魔法が飛んでくるようになってきた。
「ジャスティスゼロ、ジャンヌの討伐急げ! お前達は元気でも、他の戦況が悪化してきてるぞ。周囲の雑魚までなだれ込んできたら、さすがにお前達でも圧殺コースだろ!!」
なんていうご意見も。
それとなく周囲を見てみたら、確かに最初よりPC減ったような。
あ、誰かが死んで泡になった。復活してすぐに戦線に戻ってきたけど、お供モンスターにダメージが入れられなくなったみたい。
「これ、ひょっとして、死んじゃったらクエストから強制退場?」
「っぽいな。死に戻り不可とか、ちょっと厳しくないか、このクエ! モードチェンジ〈攻撃集中〉!」
お姉ちゃんの体から赤い靄が立ち昇る。なんか格好いい! それなんですか!?
「アサルトモードになるとスキル威力が1.2倍になるんだよ。代わりにバフやヒール系の弾が使えなくなる。観客達、信じてるからな! 私たちを殺すなよ!!」
「任せなさい! 〈聖属性付与!〉」
比較的近くにいるヒーラーさんの1人が杖を掲げた。
そうするとあたし達4人の武器が淡く光る。
聖属性付与って言ってたし、攻撃に聖属性が乗るようになったってとればいいのかな?
「ていっ」
とりあえず〈連打〉。
おぉ! ダメージの通りが良くなった! 属性付与魔法って凄い! それになんか尻尾の焦げも消えてる! ヒーラーさんって天使!!
そういえばうちのギルドにヒーラーっているのかな? いるなら会ってみたいな。それでお近付きになりたいな。
調子に乗って攻撃していたらジャンヌさんが振り向いた。
あ、あれですか? さっきあたしの尾先を火事にしてくれたアレ。あ、剣が上がって赤く光ったね。アレだね。火柱パーティーだよね。
先が読めたあたしは猛烈ダッシュ。魔法陣が出たら外に向けて一直線に走った。
すでにスピードに乗ってたから、今度は余裕を持って回避に成功。
「これぇ。ターゲッティングの時にジャンヌの一番近くにいる人にタゲが向くようになってるのかもねぇ」
魔法を打ち込みながら腐ちゃんが言った。
ジャンヌさんの近くって言ったら空さんがずーっと張り付いてるけど。なんであたし?
疑問に思いながらもとりあえず戦線復帰。ジャンヌさんを殴る。
あ。
空さんとジャンヌさんの距離=2人が剣を打ち合わす距離
あたしとジャンヌさんの距離=あたしの腕の長さ
うん、あたしの方がジャンヌさんの近くにいそう。
まぁ、回避方法はもう解ったから怖くないけどね! むしろ、魔法発動中はジャンヌさんが動かなくなるから、あたし以外の人の攻撃チャンスというか。
空さんは殴られる。お姉ちゃんと腐ちゃんはひたすら攻撃。あたしも攻撃、たまに避難を繰り返しながらジャンヌさんのHPを削る。
残り1割くらい。もう少し。
気合いを入れ直してジャンヌさんを殴ろうとしたら、彼女から衝撃波がきて吹き飛ばされた。
あたしだけじゃなくて、空さんやお姉ちゃん、腐ちゃんも弾かれている。
「負けぬ、こんな所で私は負けぬぞ! 大天使様、僕たる私にご加護を!!」
ジャンヌさんが叫んだ。
剣を空へと掲げた彼女から眩い光が溢れてきて、目を開けているのが辛い。
空にも光の筋が出来ててジャンヌさんを照らす。
照らされるジャンヌさんはというと、鎧の継ぎ目から漏れていた火が消えていって、それどころか、焦げた鎧がどんどん綺麗になっていっていた。
「形態変化ってことは、ここから耐性や攻撃パターンが変わるな」
さすが、ボス戦に小慣れてるお姉ちゃんは鑑定眼鏡に手を添えている。
変化が終わるのを待つあたし達の前で、ジャンヌさんの兜が消えた。兜の下から出てきたのは短い金の髪をした少女。
肌白い。しかもなんか美人! というか、神々しい? ていうか、背中に翼まで生えてきたけど!?
「飛行系に変化とかマジか」
空へと上がっていく彼女をぽかんと眺めているしか出来ないあたし達。
さぞかし間抜けヅラをしているであろうあたし達に、ジャンヌさんが剣を向けた。さっきまでの禍々しいのじゃなくて、見るからに良い品ですねって感じの剣。
「神は私に応えてくだされた。正義は我にあり。異教徒よ、己が罪を悔いながら地獄へ落ちるがいい」
神々しくなったジャンヌさんが厳粛に言う。
異教徒とか言われてもちょっと困るんだけど。それより何より、ジャンヌさんのHPが全快して見えるのは気のせいですか?