129 ジャンヌとジル・ド・レ
巨大頭蓋骨さんの討伐が終わったあたし達はお城の探索を再開した。
黒ヤギ頭の悪魔さんと巨大頭蓋骨さんがいなくなったら、地下で出てくるモンスターはとても減ったよ。
凶暴化したネズミさんがたまに出てくるんだけどね。
悪魔と幽霊に圧殺されそうだった状況に比べれば天国天国。
それで、他の部屋も調べていこうって話になった。
腐ちゃん達と来たときに見つけた変な部屋だけ巡るだけでも、このお城でやらないといけないことは済ませられそうな気はするんだけど。
そこはほら。
お宝が設置されている可能性があるから、ね。
片っ端から城を回って、めぼしい物はいただいて。
所々にいるボスを殴り飛ばして最後にたどりついた1つの部屋。
たしか、もともとは神様を祀ってたんだけど、その像とかが壊されてた部屋だったような。
空さんが観音開きのドアを押すと、ギィィと重い音を立てながらドアが開いていく。
部屋正面に、胸から上が崩れた神様の像が横倒しに転がっている。
そこに、右手側のステンドグラスを通してさしこむ光が色を添えているんだけど、なんかとっても寂しい感じ。
そんな像に座っているジルさんは、いつもギルドに遊びに来ている時の陽気さは無くて、すさんで見えた。
あたしのエプロンの胸部分から、黒猫ジャンヌさんがぴょんと飛び出る。
この部屋、モンスターいないから、ま、いっか。
ジャンヌさんはゆっくり部屋を前進していって、ジルさんのちょっと前で止まった。
彼を見上げて言う。
「ニャー」(城のありさまは、全てあなたの指示か?)
「ああ、そうだよ」
「ニャー」(冗談はいらない。本当は、留守の間に誰かに城を荒されたのだろう? 良き領主の見本のような男であったあなたが、こんなことをするはずがない)
「良き領主ね」
小さくジルさんが笑った。
「そうだね。私は、救国の乙女である君の横にいるのにふさわしい男であろうと、いい男であろうとしてきた。だが、君は殺されてしまっただろう? 君を、神の使者だとまつりあげた神殿にさ」
「ニャー」(だからどうした?)
「君を失って私は気付いてしまったんだよ。自分がかけらも信仰心を持っていないことに」
信仰が詰まっていると思っていた心にぽっかりと穴があく。
その穴を埋めるために散財して芸術に費やしてみたけれど、心の渇きは癒えず。
戯れに、穢れない少年を虐待してみたら、なにゆえか心がすっとした。
背信の素晴らしきかな。
ジャンヌさんを失った心の穴を埋めてくれたのは、世間から後ろ指をさされる行為ばかり。
けれどそれでしか心の隙間を埋められないから、ジルさんは闇の沼にどんどん沈んでいった。
「君の復活を信じて儀式をしたり、悪魔を崇拝したり、子供達を使って実験をしたり。その時だけは全てを忘れられた。生きている喜びを感じられた。私の本質は悪なのかもしれないな」
夢うつつな表情をしていたジルさんの瞳がジャンヌさんを捉える。
ゆっくりと彼は立ちあがって、ジャンヌさんに手を伸ばした。
伸ばされた手をジャンヌさんはひらりとかわす。
そうして、輝く鎧に身を包んだ人型になった。
人型になったジャンヌさんは静かに剣を抜き、ジルさんに剣先を向ける。
「あなたが神を捨てようと、それだけなら、私はあなたと良き友のままでいれただろう。だが、あなたは罪のない子供まで手にかけた。それだけは許せない」
「許せない? ならばどうする」
「罪を犯した者には罰を。これだけの罪を犯したあなたに与えられる罪は極刑以外ありえない。せめて、元相棒である私の手で生を終わらせてやろう」
「嬉しいことを言ってくれる。ならば、私はそれに全力で抗おう。あの少年たちと同じように君の首も落として、防腐処理して、毎日口付けよう」
ジルさんが強烈な圧を放ってきた。
同時に、まがまがしい空気が彼へと集まっていく。
周囲の空気がピリピリするよ。
ジャンヌさんも、腰を低く落として剣を前に掲げて、防御姿勢になっているように見える。
ジルさんの目が閉じて、また開いたと思ったら、眼球は真っ黒。
彼の頭上にHPバーが表示された。
ボス戦開始だね。
「ジルぅうううう!!!!」
肩の高さに水平に剣を持ち、ジャンヌさんがジルさんに突っ込んでいく。
ジルさんは軽やかにジャンヌさんの突撃をかわして、かわしたばかりの彼女の背中に手を置いた。
ジルさんの掌から黒い魔力が溢れて、ジャンヌさんを吹き飛ばす。
「ぐっ」
あああ。
ジャンヌさんのHPが削れたぁああ。
しかもかなり。
「こりゃやばいな。痴情のもつれを本人たちが解消してくれんのを待ってたら、ジャンヌちゃんが死ぬわ」
はっとしたように空さんが走っていった。
ジャンヌさんをかばうようにジャンヌさんとジルさんの間に割って入って、ジルさんに斬りかかる。
「私とジャンヌの仲を邪魔するのか?」
「そりゃするっしょ。ジャンヌちゃんは俺も狙ってんの。みすみす他の男に渡すかよ」
「ふ。ジャンヌの良さがわかるとは、良い目を持っている」
「だろ?」
って、そこ。
微妙に心を交わせようとかしてない?