128 ピュアな幽霊くん達
あたしの頭の上に頭蓋骨の大きな欠片が落ちてきた! そして当たった!
痛い上にタンコブまでできたものだから、あたしは頭を両手でおさえて床ゴロゴロするために床にダイブした。
だったのに、床にまで小さな骨の欠片が散らばっていた悲劇。
「いったぁああああああい! 頭が痛いのをごまかすために床ゴロゴロしたのに、体まで痛い!」
床ゴロゴロどころじゃなくて飛び上がる。
体にまとわりついている骨の欠片を必死に払って、綺麗そうな床を見つけてそこでゴロゴロした。
はぁ。落ち着く。
「わんこ、1人遊びが楽しそうですわね」
遊びじゃないよ。
本能が転がれと命じているの。
って、あ。
今戦闘中……っていうか、ボス戦中だった。遊んでる場合じゃなかった。
と思って大きな頭蓋骨さんが浮いているはずの空間を見てみると、そこにはもう頭蓋骨は無くて。
床に、大、小の骨の欠片がガラガラ落下していっているところだった。
「これ、ボス戦終わった感じ?」
「こはるちゃんが頭蓋骨を割ってすぐに倒せたよん」
そうなんだ。
幽霊さんを吐きだしていたおっきな頭蓋骨さんがなくなったからか、雑魚幽霊さんも湧かなくなったね。
ふぅ。
お城に入った時には雑魚の多さに圧殺されそうだったけど、この階ではひとまず落ち着いた感じかな。
あたしは腐ちゃんの横に行って、幽霊くんからの預かりもののペンダントを彼女の前に出した。
「腐ちゃん、ここの幽霊くんがね、この前腐ちゃんが来た時に忘れていったから返すって、これくれたよ。加護付きだって。幽霊くん達を飾ってスクショ撮ってくれたお礼だってさ」
「ほわぁ? そういえばぁ、ここにペンダント置いたんだったねぇ。失くしたかと思ってたよぉ。こはるちゃん~、ありがとうねぇ」
にこにこと腐ちゃんはあたしからペンダントを受け取った。
そうして、首元に巻いているスカーフにペンダントを着ける。
「加護があるんだったっけぇ? あー、これだねぇ。ええとぉ、こうしてこうしてぇ、これでいいのかなぁ?」
腐ちゃんがブツブツ言いながら空中で指を動かす。
むむ。
スキルとして発動する系の加護なのかな?
なんて見ていたら、腐ちゃんの隣に幽霊くんが1人現れた。
あたし達がぽかーんと見ている間に、幽霊くんがさらに増えていく。
「召喚獣みたいにぃ、幽霊くんを呼び出して使役できるみたいだねぇ」
「紅き炎はたぎる正義の心! ピュアファイア」
「蒼き氷でたぎる者に平静を! ピュアアイス」
「きらめく稲妻、迅雷の時! ピュアサンダー」
「誰もを癒す優しき光! ピュアライト」
「全てを黒く塗りつぶす闇! ピュアダーク」
腐ちゃんの周囲にふわふわしている幽霊くん達が口々に名乗った。
なんか日曜朝に放送されているアニメが一瞬脳裏によぎったんだけど、気のせいだよね。
んまぁ、幽霊くんたち、うっすらだけど色付いてるから、誰がどの属性かわかりやすくていいかも。
「呼び出せるのは5体がマックスか?」
「そうみたいだねぇ。それぞれ操作もできるみたいだけどぉ、一度に5体も呼び出すとぉ、操作大変かもねぇ。自動で動くのにまかせて放置になるかもぉ」
指揮をするかのように腐ちゃんが両手を動かす。
幽霊くんの中の2体が手を取り合って、きゃっきゃうふふしだした。
待って。
召喚獣って、戦闘のお手伝いをしたり、ペット代わりに連れ歩くっていうのが普通の使い方だよね?
まさか、煩悩を満たすための劇要員にするつもり?
「あー。腐。幽霊くんで劇団を作って上演するのは、みんなの前では禁止だ。1人の時、誰にも見られない場所限定な」
「ええぇ!? せっかく有望な男員を手に入れたのにぃ。イケメンだったりカワメンだったりなのにぃ」
男員って。
それに、幽霊くん、腐ちゃんに召喚されてる姿、某映画のカオナシみたいで、お顔の造形はあたしには全くわからないんですが。
「ギルドのルールは多数決! 人がいる所での腐劇団の上演は禁止、戦闘でのお手伝いはOK! 賛成のやつ挙手!」
言いながら、お姉ちゃんが勢いよく手を挙げた。
腐ちゃん以外全員の手があがる。
腐ちゃんが泣いた。
あたし達は胸をなでおろした。
あ。
泣いている腐ちゃんにお姉ちゃんが薄い本をあげている。
満面の笑みでくいつく腐ちゃん、立ち直り早いね。
早く中身を見たいからか、さっさとこの城クリアしに行こうって言いだしてるし。
やる気が出たのはいいことです。
そこそこ大きなリスクを背負った気がするんだけど、腐ちゃんが新たな力を手に入れたわけで。
PTの戦力が上がったのはいいことだよね。