127 幽霊くんの贈りもの
腐ちゃんが大興奮していた、男の子たちの遺体が転がっていた部屋。
そこには、めっちゃ大きな頭蓋骨が浮いていた。
部屋一面頭蓋骨って言ってもいいくらい。
お陰で遺体がほとんど見えない! あたしラッキー!
頭蓋骨さんのアゴがガクガク動いて、カカカって乾いた笑い声が響く。
そうして、頭蓋骨さんの目の穴やら鼻の穴やら口やら、穴という穴の真っ暗な空間から男の子の幽霊が出てくる出てくる。
「この部屋、雑魚が出てくるのがボスからゆえ、拙者も前に出て良さそうでござるな。空、こはる殿、拙者の3人で雑魚のタゲを拾えばよいのであろう?」
「ええ。それでよろしくてよ」
「3人とも一カ所にかたまっていてくれればぁ、魔法も打ち込みやすくて楽ぅ」
「んじゃ行こっか~。どっせーいっ!」
空さんが大きな頭蓋骨さんの方に突進していった。
お伴の雑魚幽霊さんたちがある程度空さんに攻撃し始めたら、あたしとタマさんも頭蓋骨さんの方に移動。
タマさんは頭蓋骨さんの周囲をぐるぐる回りながら側面から攻撃してる。
これなら、タゲ拾っちゃった雑魚さんからの攻撃もある程度避けながら攻撃できていいかも。
あたしは思いっきりジャンプして、頭蓋骨さんの頭のてっぺんに着地。
足元に広がる骨をひたすらに殴る。
幸運なことに頭蓋骨の上側って穴が無いから、雑魚幽霊さんのタゲ、あたしの所まで来る前に空さんかタマさんに拾われてる。
床に転がってるはずの遺体は見えないし、壁にぶら下がってる遺体は目を向けないことで、見たくないものは見ないですむ状態を確保。
それにしても。
ただただ骸骨を殴り続けるって結構暇。
気分を変えて、リズムを付けて殴ってみるとか?
タンタタ タタタタッ タン タン
タンタタ タタタタッ タン タン
「笑○のテーマが流れてきてるぅ」
即バレた。
「わんこ。曲を奏でるついでに、1人大喜利までしてくれてよろしくてよ」
姫様の「してくれてよろしくてよ」。それは、「やれ」だよね。
大喜利って言われても。
あれでしょ? ~とかけて、~ととく。その心は。みたいな。
オバカなあたしにできるわけないじゃん!
少しは考えろって言われるかもしれないけど、考えなくても結果がわかることは考えない!
「無理でーっす!」
無理難題おしつけんな! とは言えないから、気持ちを拳に込めてあたしは頭蓋骨さんを殴りつけた。
ガイコツにピキピキとひびが入って、パカっと穴があく。
しかしあたしは事前にその場から動いていた。
穴には落ちなかった! セーフ。
だったのに、空さんが頭蓋骨さんに突進した勢いで頭蓋骨さんが揺れた。
あたし、バランス感覚いいから、その程度で体勢崩しはしないんですけどね。
悲しいかな。
骨って意外と滑る。
ブーツがつるんと滑ったあたしは、できたての穴にまっさかさまに落ちた。
ああ、このまま頭から床に激突して、あたしもこの部屋の遺体の1つになるのでしょうか。
え? 下には大量の遺体があるから、それがクッションになって死なないだろ?
そのパターンには当たりたくないから、言ってはいけない。
それ以前に、この程度の高さから落ちた程度の落下ダメージじゃ死なないんだけどね。
そんな、絶賛落下中のあたしの体がふんわり何かに包まれた。
これってあれですか?
下のブツがほどよく腐敗してて、やわらかなクッションになったとか。
嫌すぎる。
現実を見たくないからぎゅっと目を閉じてたんだけど、状態はぜんぜん変わらない。
いつまでもそうしていても仕方ないから目を開く。
そうしたら、予想外に周囲は真っ暗。
今更気付いたんだけど、戦闘中のはずなのに何の音もしない。
あたしは床に激突したんじゃなくて、空中にふわふわ浮いていた。
体の自由はきくみたいだから、寝転がった姿勢から立ちあがる。
「お姉さん気が付いた?」
周囲の空間から男の子っぽい声が聞こえてきた。
真っ黒な空間にうすぼんやりした靄が出てきて、それが固まって男の子の姿になる。
半透明だから、やっぱり幽霊さんだよね。
HPゲージが出てないから、敵ではないのかな。
「お姉さん、何日か前にもこの城に来たよね」
「うん、来たよ」
「紫の髪した、トンガリ帽子のお姉さんと一緒だったよね」
「うん」
「あのね。そのお姉さんがね、ブローチを忘れて帰ってたんだ。これなんだけど、返してあげてくれない?」
男の子くんの横から見たことのあるブローチがゆらゆら飛んでくる。
あたしの前でピタリと止まったから、あたしはそれを手に取った。
これ、腐ちゃんがスカーフ留めに使ってるブローチの気がするようなしないような。
「そのお姉さんね、ブローチで飾ったらもっと綺麗になれるって、僕たちの横にそれを置いてスクショを撮ってくれたんだ。こんな僕たちなのにね。嬉しかった」
ささやかだけど、お礼の加護込めといたから。
そう言って幽霊くんはいなくなった。
あたしには再び重力がかかるようになって、みごとに床まで落下。
けどまぁ、あたし、狼の獣人なんで?
体が勝手に受け身をとってくれて、なんか普通に着地できました。てへ。
なんて、1人で照れているあたしの頭の上に、骨の欠片が降ってきた。
そこそこ大きな音がしてあたしの頭にタンコブができる。
「いったぁあああああい!!!」
あたしは頭を押さえて床ゴロゴロするために床にダイブした。
けども、そこにも骨の欠片が散乱していた悲劇。