125 お化けと接触するとひんやりするんです
「番犬は定番として。幽霊と悪魔は、城の中でも異質な部分の属性の敵が出てきてる感じでござるな!」
タマさんの刀が次々と犬と悪魔を斬り裂いていく。
けど、幽霊さんたちだけは、どうしてもダメージの入りが悪いみたい。
けども魔法がよく効くから、腐ちゃんが幽霊専門みたいになって頑張ってる。
幽霊といえば、姫様が聖属性の攻撃魔法持ってるんだよね。
それが特攻になるはずなんだけど。
幽霊さんの数が多くて、しかも範囲攻撃でデバフを振りまいてくるものだから、そっちの解除とみんなのHP維持で手いっぱいみたい。
あたしは、タマさんやお姉ちゃんと一緒に、実体がある敵さんの処理頑張りまっす!
アオーン!
ころん。
勢いよく暴れていたら、ジャンヌさんがあたしの頭の上から転げ落ちた。
って、ジャンヌさんの頭上にHPゲージが出てる。
デバフのアイコンもついたり消えたりしてるね。
「ねぇ、姫様。これひょっとして、ジャンヌさんにも範囲攻撃のダメージ入ってきてる?」
「入ってますわよ。彼女が死んでしまうとクエスト失敗になりそうな気がしますから、絶対に死なせませんけれど」
はぁああ。
あたしの頭の上にいる人のことだったので、ぜんぜん気付きませんでしたぁああ!
「ジャンヌさぁああん! あたしの頭の上無し無し! ちょっとキツイかもだけど、エプロンの中に入ってて!」
あたしは慌ててジャンヌさんを回収して、エプロンの胸の中に放り込んだ。
絶壁キャラのあたしのエプロン、胸元には余裕がありますゆえ。
これで、うっかりジャンヌさんを落としてしまう危険はなくなるはず。
絶壁だって正しく使えば役にたつのです。
「おい、タマ、こはる! お前たち、城の中に変な部屋があったって言ってたな!? そこに案内してくれ! とりあえずでもどこかに動かないとクエが進まん!」
周囲に銃弾をばら撒きながらお姉ちゃんが叫んだ。
「それなら地下から行くでござるか。わかりやすい場所にある部屋でござるからな。空、そこの下り階段から降りて、広い廊下を真っすぐの突き当たりの部屋へ!」
「あいよ~!」
空さんが下り階段に向けて走り出した。
あたしとタマさんも空さんに続く。
空さんが周囲の敵を集めてくれてるから、集まってきた敵を倒す係もいなきゃね。
あたしとタマさんが倒し切れなかったり、後ろからついてきてる敵はお姉ちゃんと腐ちゃんが掃除。
姫様は集団の真ん中で大切に守ります。
ひと塊りになって、玄関ホールのモンスターの群から脱出。
階段を駆け下りて地下の廊下を走る。
うぅ。
玄関ホールを抜けたら犬さんはいなくなったんだけど、進めば進むほど、悪魔と幽霊さんの密度が上がってきてる。
幽霊さんさ、すれ違う時に当たっても物理的接触は全くないんだけど、首筋がひんやりして嫌なんだよね!
「そこの突き当たりに、悪魔を崇拝しているらしき部屋があったでござるよ!」
「おっけー!」
突き当たりのドアに空さんが突っ込む。
鍵がかかっていたようで、すんごい音を立てて跳ね返されてきた。
「おぃいいい。鍵ぃいい」
「そんな言われても。この前来た時はすんなり開いたのでござるよ。そうであろう? こはる殿」
「うん」
「でも開かないんだけどこれ!」
空さんがドアノブをガチャガチャしてる。体ごとドアにぶつかってドーンってやってみてるけど、ドアはびくともしない。
「腐、〈解錠〉頼むわ!」
「はいほぉいぃ。〈解錠〉ぅ!」
腐ちゃんは魔法を唱えた!
しかし何も起こらなかった!
いやほんと。
カチリともなんとも言わないの。
空さんがドアノブをガチャガチャやってみるけど、やっぱりドアは動きません。
「開いてないんだがぁああ!?」
「魔法で開けちゃ駄目なドアなんだろうねぇ。城のどこかに鍵があるかぁ、仕掛けがあってぇ、動かさないといけないかぁ。中ボスを倒したら開くタイプの可能性もあるねぇ」
うわ~。
お約束のパターンだけど、レパートリーいっぱいあるねぇ。
「おいナナ。この城の場合、どのパターンが採用されてるんだよ?」
「私に聞くな。初めての場所のギミックなんてわかるはずがないだろ」
「うふ。言ってみただけ♡」
「殴られたいのか」
「とても!」
「じゃあ殴らん。しっかり盾しとけ!」
「はぁああん。戦場での貴重な癒しを求めただけなのに、与えられないこの悲しさ!」
袋小路で壁をすり抜けてくる敵に囲まれまくってるあたし達なんだけど、空さんもお姉ちゃんも無駄口をたたく余裕はあるみたい。
まぁ、たしかに。
敵さんの物量は凄いんだけど、戦況としては安定してるんだよね、あたし達。
ただ、こっちのMPが切れたら、一気にピンチに陥るんだけどさ。
ていうか、ここのドアを開くためのギミックかアイテムか中ボスかを探しに行くんだったら、また、この、モンスターでぎっしりの廊下を突っ切らないといけないんだよね?
地味に面倒くさいよぉ。
そしてお化け嫌だよぉ。