121 侵入、ティフォージュ城
「ティフォージュ城に行った神官さん、2週間も帰ってきてないんですか? 実は風邪で寝込んでて、出勤できないでいるとかは?」
「それはありません。我々神官は神殿に部屋を持っていて、そこで寝泊まりしておりますから。寝込むならそこで寝込むでしょう。所在不明にはなりません」
「おうふ」
リアル社会なら、いわゆるばっくれっていう、職場から脱走という可能性もあるけれど。
ゲームの中でそんなことしないよね~。
「というか、なんなんですかね? ティフォージュ城。たかだが1城主の分際で神殿にたてつくとは」
神官さんがぽつりとこぼした。
あれ? あれ?
一時的に落ち着いていた神官さんだったのに、部屋の中をイライラ回っていた頃の雰囲気に戻ったような。
「あなたを介して穏便にことを進めようかとも思いましたが、止めましょう。みたところ、あなた、冒険者ですね? レベルもそれなりにお高い」
「はぁ。まぁ」
「あなたに捜索委任状を託します。これがあればティフォージュ城に力ずくで入れますので、神官を探してきてください。抵抗してくる衛兵も倒して大丈夫ですよ。神殿につばを吐いたあちらが悪いのですから」
明らかにお怒りな神官さんは笑顔で立ち上がると、机から紙とペンを出して何か書き始めた。
そうして出来上がった紙をくるくる丸めてあたしに渡してくる。
〈捜索委任状〉を手に入れた。
ありがとうございます。
【特殊クエスト(ギルド)】神官の捜索 なんていうのも一緒に貰いました。
ギルドクエストなんだ。
へぇ~。
あたしにクエストを発行したら神官さんは落ち着いた感じに戻る。
あたしは挨拶をして部屋を出た。
神殿を出ながらあたしは訊ねる。
『西のお城のクエスト貰ったよ~。ギルクエなんだけど、みんなにも発行されてる? それで、一緒に行く人いる?』
『私も貰ったよぉ。行く行くぅ』
『この前言ってたイベント、クエストになったんでござるな。もちろん拙者も行くでござる』
ちょうどINしていた腐ちゃんとタマさんが即食いついてきました。
ログインしているギルメンの参加率100%って凄いね。
『それじゃ、街の西門で集合ね~』
腐ちゃんとタマさんにPT申請を飛ばしながら西門に向かう。
西門にはあたしが1番乗り。
すぐに腐ちゃんとタマさんも来た。
合流早々、2人がトレードを申し込んでくる。
「回復スキル使える人が誰もいないからぁ、ギルド倉庫から回復アイテム多めに持ってきたよぉ。こはるちゃんが使うと効果が上がるからぁ、こはるちゃんに渡しとくねぇ」
「1度に渡してしまうとこはる殿のインベントリが埋まってしまうであろうから、ある程度は拙者と腐殿の方で予備として持っておく。物品が不足してきたらまた渡すゆえ、言って欲しい」
あ、そっか。
確かにこの3人だと誰も回復スキル使えないね。
持ってるスキルの効果で、錬金で調合できるアイテムならあたしが使うと効果が上がるから、あたしが回復に回るのが効率的な役割分担。
いつものお姉ちゃんのポジション、今日はあたしが頑張ります。
お喋りしながら、半分ピクニック気分でティフォージュ城に到着。
城門には、前と同じように兵士さんが立ってる。
「こんにちは~。こちらのお城に始まりの街の神官さんがいると思うんですけど、帰らせて貰っていいですか~?」
兵士さんと顔を合わせてすぐ、あたしは直球でお願いしてみた。
「始まりの街の神官? そんな奴おらぬ! いてもお主らには関係のないこと! 帰れ!」
今回もうむを言わさず帰れコールきました。
けれど、今回のあたし達はこの前のあたし達とは違うのです。
ひかえよろひかえよろ。
この、捜索委任状が目に入らぬか~!
あたしは委任状をインベントリから取り出して兵士さんの目の前に掲げる。
目を点にしている兵士さんを、無言でタマさんが斬り捨てた。
「神官帰還に非協力的であれば、力ずくでもよいのであろう?」
「あ、はい」
「道は開かれたぁ。ごぉごぉだよぉ。つっこめタマぁ!」
「承知」
頑丈そうな木の城門までタマさんが斬って、ティフォージュ城の防御はもろくも崩れ去った。
ぽっかりと開いた入口からタマさんが城内へと突っ込んでいく。
その後ろを駆けていく腐ちゃん。
あ、待って。あたしを置いていかないで~!
いざ、ティフォージュ城の探索開始!
城門を斬った騒音で兵士さんが大挙してくるかもしれないけど、ジャスティスゼロの誇る火力陣のあたし達3人だから、相手できるはず!
って、気合い入れて玄関ホールを走ってるんだけど、兵士さん、ぜんぜん駆けつけてこないんだよね~。
というか、人がいない。
メイドさんの1人もいないってどういうこと?
「あのさ~。こういうお城って、メイドさんとか警備の兵士さんとか執事さんとか、その他もろもろ、人が溢れてるもんじゃないの?」
「そうだと思うんだけどぉ。おかしいねぇ」
「ダンジョン扱いになっていて、ここはセーフルームなのかもしれぬな」
「タマ賢いぃ。それありそうだねぇ」
っていうことは、階を移ったり、他の部屋に入ったらモンスターがいるとかあるのかな?
「で、どこから行く?」
「そこに下る階段があるでござる。人を捕えるといえば地下に幽閉が定番でござるし、とりあえず下ってみるでござるか」
地下了解~。
って、あたしと腐ちゃんが返事する前に階段駆け下りていかないで、タマさーん!