12 わーるどくえすと3
「雑魚のレベル80〜120だし、こはるちゃんのレベリングにちょうどいいかもな」
あたし達の方に走ってきたモンスターの群れを空さんがタウントで捕獲する。
そこに腐ちゃんが範囲魔法を叩き込んだ。
使ったのがアンデッドに特効のある火属性魔法だったのもあって、レベル100以下のモンスターは一瞬で吹き飛んでる。
残っているものにしても、残りHPは極わずか。魔法って強いな〜。
「こはるちゃん~。ぼーっとしてないでトドメぇ。ナナがお代わり持ってくるからぁ、どんどんいくよぉ」
「あ、うん」
腐ちゃんに言われたあたしは魔法の炎が燃えるフィールドに飛び込んだ。
これが敵さんからの攻撃だったら熱いんだろうけど、自分達の魔法だから熱くなーい。
炎に巻かれて死にかけているアンデッドさんにパンチ。倒したら次にキック。
「おらー! お前らこんなクエ中にレベリングするんじゃねぇ! 真面目に攻略しろ!!」
えとー。
周囲のみなさんから批難の声が上がっているみたいなんだけど。
「ヨソはヨソ、ウチはウチ。気にする必要無し!」
そう言って、お姉ちゃんはモンスターの大群を引っ張ってきて空さんに押し付けていく。
それを腐ちゃんが範囲魔法で削ってあたしと空さんがトドメ。
気楽に流れ作業をしているあたし達だけど、他の人達は敵さんとレベルが同じくらいなせいか苦戦気味みたい。
うち、レベルカンスト3人いるからね。レベル差万歳すぎる。
そして、凄い勢いで上がっていくあたしのレベル。
パワーレベリングってエグいよね。
目の前でそんなの見せられたら気分も悪いよね。止めないけど。
だってねー。
お姉ちゃん、あれで、あっちこっちから敵さん間引いてきてて、レベル低めの参加者さんでも戦いやすいようにしてるっぽいんだよね。
これこそwin-winって奴じゃない?
「お前ら取って行き過ぎだ! 俺らが食えねーじゃねーか!!」
苦情も聞こえる気がするけど、きっと気のせい。
クエストなんて無視してレベリングに励むことしばし。あたしのレベルが130になった頃に空さんが呟いた。
「なー。これって、雑魚無限湧きなんじゃね? 他の連中がボス倒してくれる気配ないし、そろそろ倒しに行かないとMPキツくね?」
「倒す気が無いわけないだろ! 倒せねーんだよ!!」
「あぁん? 折角ボス譲ってやってたのに根性の無い奴らだな」
「ボスを見てから言えーーっっ!!」
周囲から怒号が飛んだ。
ジャンヌさんそんなに強そうだったかなぁ? クエスト開始の時にきちんと見なかったからよく分かんないや。
「ま。こはるのレベルも上がりにくくなってきたし、そろそろ終わってもいいか。回復アイテム使わないで済むならそっちの方がいいしな」
お姉ちゃんの釣りが終わる。
空さんが抱えてくれている雑魚まで片付けたあたし達は、ボスのジャンヌさんの所に向かった。
途中の雑魚敵は他のクエスト参加者さん達が引っ張ってくれている。
たまーに漏れてこっちに流れてくるけど、お姉ちゃんに瞬殺されていた。
で、進んだ先で再度まみえたジャンヌさん。よく見てみたらレベル150だった。
このクエストに参加しているプレイヤーさんって、あたし達以外だと精々レベル120くらいだったから……。
「不死者ジャンヌダルク。Lv150。闇、火属性無効。物理耐性。弱点は冷と聖属性っと。レベル差補正も入ってくるし、そりゃ、私たち以外だと手が出せないわな」
眼鏡に手を当てたお姉ちゃんがジャンヌさんの情報を読み上げる。
お姉ちゃんの眼鏡って、ファッションだけじゃなくて鑑定機能が付いてるんだって。
錬金で作ったって言ってたかな。便利だよね。
「正しき神の在り処すらわからぬ愚か者め。よかろう。まずはお前達から剣のサビにしてくれる」
ジャンヌさんが剣を抜いた。
かと思うと、あたし達との距離を一気に詰める。
キィインって音をさせて、空さんの盾がジャンヌさんの剣を受け止めた。
「おふ。さすがに攻撃力高いわ。それに、攻撃に闇と火属性が乗ってるんだな」
そんな事を言いながら、空さんはジャンヌさんと正面から斬り結ぶ。
彼がタゲを固定してくれている間にあたし達は攻撃に回る。
お姉ちゃんは冷気弾で攻撃しながら回復弾で空さんをたまに回復。
腐ちゃんはひたすらに冷気魔法を打ち込んでいた。
あたしはなるべくジャンヌさんの後ろから攻撃。物理耐性のせいであんまりダメージ入ってないだろうけど、攻撃しないよりはマシだからね。
「ウザいな」
呟いたジャンヌさんがふり返った。そうして、あたしをじっと見つめてくる。
な、な、な、なんでございますか?
与ダメ量少ないからヘイト1位になるとは思えないんだけど。
なんとなーく嫌な予感がしたあたしはジャンヌさんから跳びのいた。
そんなあたしにジャンヌさんの剣が向く。
刀身が真っ赤に染まった。と思うと、あたしを中心に大きな魔法陣が現れた。
えとー。
えとー。
これ、なんかよろしくない気がする。とっても。
考えるより先に身体が動いていた。
半径5メートルはある方円の外目指して走る。お姉ちゃん達も魔法陣から一斉に逃げていた。
方円の外まで残り1メートル。ってところで足元が光った。
きゃぁあ、これって魔法が発動するんじゃない!?
ぴぎゃぁああ!
魔法陣から炎の柱が吹き上がった。