117 タックルおばさん再び
翌日。
ギルメンの誰もINしてなかったのをいいことに、あたしはさっさと始まりの街の散策に逃げた。
昨日のカオスはまだしっかり覚えてる。
空さんに捕まったら面倒くさいお願いをされるのがわかりきってるから、顔を合わせないですんで良かった。
ギルドハウスから脱出するために、とりあえずで始まりの街に出てきたんだけど、何しようかな。
オークションでも眺めてみる?
お姉ちゃんいわく、たま~に、すんごい貴重品が激安で流れてたりするとかなんとか。
普段から商品の流れを見てない私にはまったくわからないんだけどさ。
なんて考えながらプラプラ歩いているあたしにぶつかってくる恰幅のいいおばさんがいるわけですよ。
例によって、ぶつかるというかタックルされた。
考え事してる時にタックルしてこないでよ!
またもろに吹き飛ばされたよ。
あたしにタックルしてきたおばさんは、あたしの方は見もせずに「うーんうーん」唸ってる。
はっ!
このおばさん、前にあたしにタックルして「子供たちが帰ってこない」って言ってたおばさんに似ている! 気がする。
NPCって同じような見た目の人が多いから、特徴的な人以外見分けがつきにくいんだよね。
あたしの頭がザルすぎて覚えられてないっていう案は受け付けません。あしからず。
「おばさんどうしたの? お子さんがまだ帰ってこないとか?」
「そうなんだよ。子供はまだ帰ってこない。帰ってこない子供たちは、どうも、西にあるティフォージュ城の近くに遊びに行くって言ってた子ばっかりだっていう話は聞けたんだけど」
「それじゃぁ、そのお城に保護されてるんじゃない?」
「かねぇ。でも、おうかがいをたてに行って、もしも子供たちがいなくて、それでお貴族様のご機嫌を損ねてしまったら、あたし達庶民は困ってしまうし」
お? お?
これは来るんじゃないですか?
子供たちを探してって感じのクエスト。
子供たちがいなくなったと思われる場所の情報も貰えたし。
よーし、来い! クエスト!
……。
……。
って、あれ?
クエスト受注してないのに、おばさんがふらふらどこかに去っていく。
しばらくその場でぼーっとしてみたけど、クエストは降ってこない。
マジか。
なんて、ちょっと肩すかしをくらっていたら、姫様がログインしてきたよって通知が流れてきた。
『姫様~! クエストが貰えそうで貰えないんだけど!』
『いきなりですわね。何のことやらさっぱりですから、きちんと説明なさい』
『あのね。始まりの街のおばさんがね、子供たちが帰ってこないって言ってるの。でね、その子たち、西のお城のあたりに行くって言ってた子たちばかりらしいの』
『それで?』
『それでおしまい!』
姫様から返答は無い。
『姫様?』
『それ、現地に行ってみたら続きの話が聞けて、クエスト受注するタイプなのではなくて?』
返事があったーーー!
しかも、正解っぽい答えきたーーーー!
『姫様ありがと! さっそく行ってみるね!』
『お待ちなさいわんこ。その、あなたに情報をくれたおばさま、西の城と言ったのは確かですの?』
『うん? 言ってたと思うよ。ログ確認するからちょっと待って』
過去ログを遡ってその会話を読み返してみる。
うん、確かに西の城って言ってる。
『西にあるティフォージュ城だって。危ない所?』
『危ないというか、今まで聞いたことのない所ですわ。wikiにも載ってませんわね』
『そうなんだ~』
ゲームオープン当時からやってる古株姫様が知らない場所って珍しいね。
『狼獣人が実装されてから、今まで無かった施設も増えたりしてますわ。その1つかもしれませんわね』
『そうなんだ? でもさでもさ。狼獣人が実装されてからもう結構経ってるじゃん? 人の多い始まりの街の近くの施設なのに、今まで存在知られてなかったって不思議だね?』
『クエストの開始条件を満たしたから出てきたのではなくて? ジャンヌやサン=ジェルマンのと同等の、わんこのステータスか何かが開始トリガーになっているクエだと思いましてよ』
『かなぁ?』
『だって、あなたが今言っていたクエスト、わたくしやったことありませんわよ。今ざっと見ているだけですけれど、wikiにも載っていませんわ。きっと、狼獣人にしか始められない新しいクエストですわよ』
『なるほど』
『なのでわたくしも一緒に行きますわ。始まりの街の西門で合流しましょう』
姫様からPT招待が飛んできて、それっきり彼女は静かになった。
うちのギルドのカンスト組って、ゲームをほとんどやりつくしてるからか、新しいことへの食い付きがいいなぁ。
まぁ、今回の場合、西のなんとか城に強い敵さんがうようよいたら危ないから、姫様がいてくれる方が安心できていいけど。
待たせて姫様がへそを曲げたら嫌だから、さっさと西門に行って、彼女が来るのでも待ってよ~っと。