115 プレゼントの贈り主判明しました
真っ青な生地に純白のレースがあしらわれているドレス。
ところどころに真っ赤なビーズ? 宝石? みたいなのが縫いつけられていてキラキラ光ってる。
「青白赤でぇ、みごとにフランス国旗色だねぇ」
そういやジャンヌさんっておフランスの偉人だったっけ?
フランス国旗色のドレスをサイズピッタリでって、やっぱりこれジャンヌさんに贈られた品だよね。
あたしが着ようなんてしたら、間違いなくドレスに着られる。悲しい。
特に、お胸のところがガバガバになること間違いなし。
なんであたし絶壁キャラ作ったんだろう?
「これで満足してもらえたか? では着替え――」
「ええええ!? もったいないよ! すぐに着替えなんて駄目だよ!」
あたしはジャンヌさんを先回りして、倉庫の入り口ドアの前を陣取った。
絶対にこの先には行かせないマンになる。
「1日くらいその格好でいてもいいのではなくて? そのうち空やおタマも来るでしょうし。着飾ったあなたの姿を見たら喜ぶと思いますわよ」
「そうだろうか?」
「そうだよぉ。はぁ~いぃ、ジャンヌちゃん~、今日はドレス姿で生活が決定で~すぅ!」
腐ちゃんがジャンヌさんを倉庫の近くから離れさせるように押しやる。
押されたジャンヌさんは仕方ないように窓際に行って、1人かけ用の椅子を持ってきてそこに座った。
ジャンヌさんのいる場所ね、出窓になっててね、猫姿のジャンヌさんがいる率の高い場所なんだ。
猫の時の習性は人型になっても変わらないんだね。
ああしていると、深窓の令嬢って言葉がぴったりだなって思う。
そんな彼女とあたし達を見比べて、サン=ジェルマンさんが余計なことを言う。
「アナタ達も、ちょっとはジャンヌを見習って淑女分をわけてもらえばどうなの」
「わたくしは既に十分淑女ですわ」
「私以外の誰かが淑女になってぇ、あの格好のジャンヌちゃんとキャッキャウフフしてくれたらいい絵になるよねぇ」
「ていうか、出会ってすぐのジャンヌさん、淑女どころか地獄の使いって感じだったよね」
「ジャンヌ様。本日は気分を変えてミルク以外のお飲物を用意いたしましょうか?」
「ああ。そうか。たまにはいいかもな。ではカフェオレを」
「あらなにお茶するの? メイド、アタシにもお茶ちょうだい。そうね、このうるさい子たちにも用意してあげて。女子会開催よ!」
「サン=ジェルマンさんオネエじゃん」
「うるさいわよ犬コロ。犬のくせに茶会に参加できるのを感謝なさい」
「犬じゃないもん! 狼だもん!」
あたしの尻尾がぴーんとなる。
対抗するようにサン=ジェルマンさんの長いくせ毛がうねうねとした。
髪の毛うねうねさせられるって妖怪ですか?
あたしとサン=ジェルマンさんが口喧嘩している横で、姫様と腐ちゃんが倉庫から机と椅子を持ってきてる。
窓際でお茶会するのかな?
うちのギルドの家具、ほとんどがタマさん製。
木工のレベル上げの時に作りまくった家具がギルド倉庫に放り込まれてるんだって。
だから、リビング以外で何かしたい時は、そこから家具を持ってくるようにしてるらしいよ、このギルド。
そんな、わちゃわちゃしているハウスの中に、ガラスを軽く叩く音が響く。
窓辺にイケメンなおじさんが立っていて、にこにこ笑っていた。
窓の近くに手があるから、イケオジさんが窓ガラスを叩いたのかな?
「ジル?」
驚き顔のジャンヌさんが窓を開ける。
あれ?
そのイケオジさん、ジャンヌさんのお知り合いですか?
黒髪をぴっちりオールバックにして、お手入れされたちょび髭があって、隙無く中世のヨーロッパ貴族みたいな服を着こなしているイケオジさんと、ドレスで着飾ったジャンヌさん。
いやだ、めっちゃ絵になる。
あたし達庶民が横やりいれたらいけない雰囲気。
「そのドレス、着てくれたんだね。良かった、似合っている」
「まさか、これはあなたがくれたものなのか? もしかして、最近の贈りものは全て?」
「気付いてくれてなかったのかい? 箱に、うちの家紋を付けていただろう?」
家紋?
そんなのあったっけ?
えとー。
あ!
リボンにいつもついてた模様つきのタグ!
プレゼントを買ったお店のマークかと思ってたよ。
「すまない。知ってのとおり私は武骨者でな。気付かなかった」
「ははっ。君は変わらないな。自らを飾ることに興味がないのも相変わらずか」
イケオジさんが苦笑いした。
「これからも君に色々贈ろう。それを着て欲しい」
「待ってくれジル。それは困る。申し訳ない。それに、今の私はただの黒猫だ。身を飾る必要はない」
「そんなことを言わないでくれ。それに、知ってのとおり、私には金がある。君用の服を仕立てるくらい痛くはないんだよ?」
「それでもだ。私の気持ちの問題だとわかってくれると嬉しい」
「困ったな」
イケオジさんがのんびりとあごを撫でる。
「ならば、こうしてたまに君に会いに来てもいいかい? それで手を打とうじゃないか」
「それなら喜んで。昔の相棒に会えて嬉しくないわけがない」
「良かった。じゃぁ、今日のところはこれで帰るよ。また」
「また」
2人はしばらく見つめ合っていて、名残惜しそうにイケオジさんが去っていった。
なんなのこれ。
どこの安いメロドラマなの。
「何この展開」
「イベントのフラグの1つのような気がしてたのですけれど、クエスト発生しませんでしたわね」
「あのおじさんまた来るって言ってたからぁ、そのうちクエスト発生するんじゃないのぉ? たまにあるよねぇ、お寒い恋愛劇みたいなクエストぉ」
「ってことは、また見ないといけないんだ? このイチャコラ劇」
「大丈夫。聞いてなくても勝手に話は進みますわ。クエストのためですから心を鍛えなさい」
心を鍛えないと辛いクエストがあるってどういうこと。