114 贈りものは続くよ今日までも
正体不明の人からジャンヌさんが首輪を貰ってからしばらく。
驚いたことに、ギルドへの贈り物が続いてるの。
それも、ゲーム内の時間で毎日。
首輪の翌日に置かれていたのは猫缶。なんか高そうなやつ。
その次の日にはメイド服。これが4日続いてね、どうにもね、服のサイズがそれぞれ違ってね、遊び半分で着てみたら、うちのギルドの女子達にピッタリだったの。
その次の日からは男物の執事服。が2日間かけて2着。案の定、空さんとタマさんにピッタリ。
そして今日。
それはそれは豪華なドレスが贈られてきたの。
「このギルドでドレスが一番似合いそうなのといえばわたくしですけれど、これ、わたくしの趣味じゃありませんわ」
ドレスを広げてみながら姫様が愚痴る。
「私達にはさぁ、もうメイド服とかが贈られてきたじゃん~。他の人用なんじゃないのぉ?」
「他って?」
「メイドちゃんとかぁ?」
あたし、姫様、腐ちゃんの視線がメイドさんの方に向く。
メイドさんはふるふると首を横に振った。
「私のものではないかと」
「でもでもぉ。ほらぁ。けなげに頑張るメイドちゃんにこれを着て舞踏会に行ってもらいたい王子様がいるのかもしれないしぃ?」
「このゲーム、舞踏会とかあるの?」
「腐の頭の中で毎日開催されているのかもしれませんわね」
ありそう。
でもその舞踏会、腐ってそう。
現実に開かれませんように。
なんとなくあたしは手を合わせて拝んだ。
「5050801様、よくご覧ください。このドレス、私には少々大きいのです。もう少し背丈のある方向けの品かと」
「それってこういうことじゃない? このドレスの贈り先は、ずばり、ア、タ、シ」
「ない。それはないよ。サン=ジェルマンさん」
「ありませんわね」
「アンタ達そっこう否定してんじゃないわよ! この中で一番背ぇ高いのアタシよ!」
「だってサン=ジェルマンさんおっさんじゃん。贈られてくるなら男物だよ」
「言ってもあなた、体型は男ですもの。こんな細身の服、強引に着て破れる以前に入りませんわ」
「ぐぬぬぬぬ」
ハンカチを強く握りしめたサン=ジェルマンさんが勝手に泣いた。
むしろなぜ女物のドレスを着れると思ったのか。
「よろしいでしょうか?」
控えめにメイドさんが手を挙げた。
「はいメイドさん。どうぞ」
「このドレスのサイズですと、人間の姿のジャンヌ様にピッタリではないかと。先日のイベントの際にお姿を拝見した時の記憶と比べると、それくらいかな、と」
「あぁ。ジャンヌさんね」
すっかり盲点になっていて、あたし、腐ちゃん、姫様はぽんと手を打った。
言われたジャンヌさんは猫状態で目をぱちぱちさせている。
「ニャー」(私に? だが、私はもうこの首輪を貰っているぞ)
「1人1つだけなんて決まりはありませんわよ。現に、あなた、首輪の翌日には猫缶も貰ってますわ」
「ニャー」(確かに。しかし、猫缶は着飾る物ではないから別カウントかと)
「まぁまぁ。法則性なんて私たちにはわからないからさぁ。とりあえず着てみようぅ?」
「ニャー」(な、なんだ主達。その手の動きはなんだ。怪し過ぎるんだが。うわ、やめ――)
「ほーれほーれ。早く人型にならないともっと撫で撫でするよ~」
「ニャァン」(わかった。わかったからやめてくれ。これ以上続けられると腹を出して寝転がってしまう!)
あたし達の手から逃れたジャンヌさんはぼふんと人型になった。
やや興奮気味に息が荒くて肩が上下しているのは、まぁ、ごめんね?
そんな彼女の前に姫様がドレスを出す。
「では着替えてみましょうか」
「わかった。そこまで言うのであれば後で試着しておこう」
「えぇ? もちろん今だよぉ。男どもいないからぁ、生着替え問題なしぃ」
「は? 今?」
「なんなら着替えの手伝いするよ!」
あたしはジャンヌさんの方に手を伸ばす。
つい、胸をもむみたいな指の動きをしちゃったんだけど、勢いってあるよね?
ジャンヌさんには恐怖の目で見られた。
「わかった、私の負けだ。倉庫で着替えてこよう。手伝いは必要ない」
姫様からドレスを受け取ったジャンヌさんは疲れた様子でギルド倉庫に入る。
それからしばし。
どんな仕上がりになるんだろう? って喋っていたら倉庫からジャンヌさんが出てきた。
青を基調とした柔らかな布地のスカートが、ジャンヌさんの動きにあわせて優しく揺れる。
このドレスの色、色白で金髪碧眼なジャンヌさんにとってもよく似合う。
「おかしく……ないだろうか」
照れたように髪を手で梳きながら出てくる美人さん。
これは。
あたし、この作品のヒロイン枠をようやく見つけられた気がするんですが!