113 正体不明の箱がありました
大きなイベントが終わって、あたしはのんびり共通クエスト消化の生活に戻ったよ。
みんなでやらないといけないことは特にないからね。
低レベルのものから順次こなしていくだけだから、クエストはぽんぽこクリアされていく。
半分惰性でクエストをこなしていたら、いつの間にか50台のクエをやるようになったの。
50台になってすぐのクエが始まりの街にあるみたいだから、そのクエを拾うために街をぶらぶら。
そうしたら、恰幅のいいおばさんに横からぶち当たられた。
「あらら、ごめんねぇ。考え事してたもんだから見えてなかったよ」
おばさんNPCはそう言うけれど、あなた今思いっきりタックルしてきましたよね?
意思を持ってあたしに突進なさってきましたよね?
まぁいいけど。
こういう時って、だいたいクエスト絡みの何かでしょ?
「いいえ気にしてませんから。それより、おばさんは何をそんなに考え込んでたんですか?」
「いやね。うちの子が昨日遊びに出てったっきり帰ってこないんだよ」
「迷子とか?」
「そこまで遠くに行くような子じゃないと思うんだけど。一応守備隊に迷子届けは出したんだけどさ」
街の外に出てモンスターにやられちゃったっていう設定の可能性が頭をよぎった。
けど、それだとあたしには何もできないし。
とりあえず、楽観的な方向で考えておく。
「それじゃぁそのうちに守備隊が見つけ出してくれますね」
「そうあって欲しいものだね。最近、よその子供も何人か行方不明になってるらしくてね。ケロっと帰ってきてくれればいいけど」
ぶつぶつ言いながらおばさんはあたしから離れて行った。
クエストは発行されてこない。
っていうことは、今のおばさんの話はイベントフラグの1つで、クエストとして成立させるにはまだ何かが必要なんだろうね。
マップを見ても、クエストに関係ありそうなアイコン表示はこの近辺に見られない。
共通クエストとは別ルートのクエストが発生しかけてるのかな?
まぁいいや。
今の会話で次に進む手掛かりをくれなかったってことは、続きは向こうから持ってきてくれるんだよ、たぶん。
おばさんとのやりとりはとりあえず忘れて、他のクエスト消化してこ。
そんなこんなで今日のゲーム時間を楽しんで、そろそろ終わろうと思ってギルドハウスに戻ってみると、ハウスの玄関前に箱が置かれていた。
きちんと包装紙でくるまれてリボンでラッピングされてるの。
リボンにくくりつけられている模様の描かれたタグみたいなのは、このプレゼント箱を用意してくれたお店のマークかな?
まぁいいや。
ここに置いてあるんなら、うちのギルドの誰か宛のものだろうから持っていこう。
「ただいま~」
ケーキ箱くらいのそれを拾ったあたしはギルドハウスに入った。
「ニャー」(お帰りこはる)
黒猫姿のジャンヌさんが出迎えてくれる。
家具の上をぴょんぴょんと移動してきた彼女は、最後にあたしの頭の上で落ち着いた。
「ニャー」(その箱は? 誰かにプレゼントでも?)
「ハウスの玄関前に置かれてたんだけど。誰か訪ねてきたりとかしなかった?」
「ニャー」(私の知る限りでは来てないな)
「そうなんだ」
ジャンヌさん、たま~にメイドさんとお散歩に行くことはあるけど、基本ずっとハウスにいるんだよね。
その彼女が知らないんじゃ、プレゼントの贈り主さんは何も言わずに置いていったのかも。
「ニャー」(誰宛だ?)
「それがさぁ、わかんないんだよね。外で見つけた時に一通り見てみたんだけど」
箱を回しながら改めて確認してみるけど、やっぱり贈り先みたいなものは書かれていない。
「ニャー」(開けてみればわかるのでは?)
「やっぱそれしかないよね~。個人宛じゃなくて、うちのギルド宛のものかもしれないし」
しゅしゅっとリボンをほといて、バリバリと包装紙を破る。
そうして御開帳。
「ネックレス?」
にしては、小さいような。
うちのギルドだとあたしと腐ちゃんが一番首が細いだろうけど、それでも確実につけられない。
「ニャー」(ブレスレットでは?)
「かなぁ? それにしては今度は大きすぎるような」
レザーの輪っかに、ハート型した水色の……これなんだろ? 宝石? ガラス? そんな飾りが付いてるネックレスかブレスレットか。
「私などが口を挟むなど差し出がましいかもしれませんが。それ、ジャンヌ様用の品では?」
奥から出てきたメイドさんがおずおずと言った。
「え? ジャンヌさん用?」
「少しお借りしても?」
「あ、どうぞ」
あたしは正体不明の品をメイドさんに渡す。
メイドさんはジャンヌさんをあたしの頭の上から降ろして、猫な彼女の首に正体不明の品を回した。
そうしたら、ピッタリではありませんか!
水色のハート型の石も、ジャンヌさんの目の色とほとんど同じでいい感じ。
こうやって着けた姿を見ていると、ジャンヌさん用としか思えないほどにはまってる。
「ジャンヌさん用の首輪が正解だね」
「そのようですね。見たて違いをしていなかったようで良かったです」
ふんわり微笑んだメイドさんは奥に引っ込んでいった。
ジャンヌさんは鏡で自分の姿を確認後、首をかしげている。
「ニャー」(誰が何のためにこんなものを寄こしてきたのだろうか?)
なんでだろうね?
熱狂的な猫好きでもいて、ジャンヌさんに惚れたとか?