109 そこにいる恐怖の大王
イベントに設定ミスのモンスターが配置されているという話題をネットから拾ったあたし達。
それぞれの手元にあるタブレットには、その、設定ミスのモンスターを写したスクリーンショットが表示されている。
これがさ、守護騎士さんなの。
遺跡跡から飛んでいける歪みの空間で、魔界との歪みを守っていたあの魔族さん。
その画像を見て、あたし達は頭をおさえたり、虚空を眺めたり。
『これ、あの、名前忘れましたけれど、フランス語の名前のギルドの呼びだした守護騎士ではなくて?』
『ゴールドがぁ、去り際に怪しい薬射ち込んでたやつでしょぉ?』
この設定ミスのモンスターさん――ああ、なんか長いね。恐怖の大王でいいや。
この恐怖の大王、ダメージを与えてもすぐに回復しちゃうし、その上攻撃力アップバフがありえない数スタックしてて、剣をふるうだけでフィールド破壊しちゃうバケモノなんだって。
『この、すんごい回復力って、ゴールドが射ち込んだ薬の効果まんまだよね』
『すぐに討ち取られないように、初めて使った時より薬の注入量を増やしておいた特別製だからな。だが、まさかここまでなるとは思ってもいなかった』
『そのせいで死ななくなって、攻撃力アップバフのスタック数がありえない数になってんだろっぺ?』
『しかもこれ、たまに、バフの数がドンと増える時があるとも書かれているでござるな』
バフの数がドンと増えるねぇ。
あれだよね、守護騎士さんが複数体いる時に、片方を倒すと、HP0の方にもう片方のバフや残りHPが吸収されるっていう、あの合体能力。
あたし達もさんざん痛い目にあわされたその現象だよねぇ。
『イベント最終日だからな。ミッション後半まで進んできたギルドがぼちぼち出てきたってことだろう。それより外がうるさいな。近くで戦闘してんのか』
ちょっとお姉ちゃん。
事態の原因は明らかにあなたなんですけど、なに他人事みたいに状況分析してんの。
『んで、どうするんだっぺ? 恐怖の大王を倒しに行くんだっぺか?』
『馬鹿言うな。死ぬわ。無視だ無視。そいつと強ギルドを避けて雑魚狩りが一番だな』
ですよね~。
どかーん どかーん どっかーん
『ていうか、外うるさいね。大ギルドってやっぱり戦い方も派手になるのかな?』
『確かにうるさいですわね。というか、うるさすぎるような気がしますわ。大ギルド同士が本気でぶつかりあえば大戦争ですけれど、お互いに潰しあいになるだけですから、こういうイベントでは避け合うと思いましてよ』
『そうなんだ? それじゃなんでこんなにうるさいんだろ? 中規模のギルドが大ギルドに狙われて徹底抗戦してるとか?』
あたしはコソコソ窓辺に寄って、窓から外を覗いた。
そうしたらさ、外、砂煙が凄いの。
人はね、かなり大人数が煙の方を向いて走り回ってる。
で、たまーに、煙の向こうから攻撃みたいなのが走って、攻撃線上にいた人が一瞬で泡化してるんだけど。
そのうえ、攻撃の線上のマップがズタボロになってるんですけど。
あたしは黙って窓辺から離れた。
『やばい』
そうして、口からこぼれた言葉はコレ。
『何が?』
『恐怖の大王、すぐそこまで来てる』
あたしは腕だけ動かして恐怖の大王がいる方を指した。
同じタイミングでバリバリバリって凄い音がして、あたしの指先ちょっとの所を攻撃っぽい何かが走り抜けていった。
ギルドハウスにまっすぐ亀裂が入る。
ハウス、壊れたり倒れたりはしなかったけど、包丁を入れられたみたいな感じになっちゃった。
『あのさぁ、ここに逃げ込む途中で遺跡跡あたりでドーンってやってたじゃん~。あれがぁ、恐怖の大王がフィールドに出てきた時だったんじゃないのぉ?』
『それがここら辺をウロウロしている、というか、まさか、モンスターによるPKさせるために誘導されてきたりはしていませんわよね?』
『つーか。あいつの近くにいるのってやばくねっぺか? ハウスの中にいても、ハウスなんて無視して攻撃飛んできたんだっぺが』
空さんが隙間のできた壁を見た。
その隙間は、床にも綺麗に亀裂を作って逆側の壁にも隙間を作っている。
『よし、逃げよう』
お姉ちゃんが立ちあがった。
無言であたし達も立つ。
いやだって、今逃げないと巻き込まれ事故が確定しそうだし。
『どこから逃げるの? 玄関1つしかないけど』
『そこから出る。周囲、かなり混乱してるっぽいから、私たちがうろちょろしてもあんまり気付かれない……というか、気付かないで欲しい』
『変身解けば、悪目立ちしにくくなるんじゃない?』
『それは駄目だ』『それは嫌かなぁ』『お断りですわ』『ごめんけど反対っぺ』『聞き入れられないでござる』
全員から反対されました。
なんで。
『祭りは目立ってナンボだろ』
『コスプレ楽しくてぇ』
『始めたことは最後までやり通したいだけでしてよ』
『目立つ方が女子の中での俺の知名度が上がるっぺ』
『このイベント中、拙者は戦隊のリーダーでいると誓ったのでござる。任務放棄はできぬ』
君ら、なんでこういう時だけ意見合うの?