104 透明人間の仕事はストーキングらしいです
『確認するでござるよ。サン=ジェルマン殿が外に出たら、その後ろから拙者もゆっくり外に出る。しばらく玄関を開けっぱなしにして玄関前に立ってるでござるから、その間に姿を消したお主らはハウスを脱出』
『そこからは各自逃げだな。集合場所は祈祷師の小屋の中だ。脱出組はそこに集まって透明化解除。レッドが合流してくるのを待つ』
『逃げてる途中で見つかっちゃったらどうするの?』
『そこは自力でどうにかするしかないんじゃないっぺか? だってほら、俺らも自分達の姿見えないせいで、連携のしようが無いわけで』
『最悪、他のメンバーまで巻き添えにしないように、自分だけ死ぬのが最善手になりますわね』
はぁあん。やっぱりそうなりますか~。
「そろそろ大天使が全滅ね。出るわよ」
珍しく真面目な顔でサン=ジェルマンさんがハウスを出て行った。それにタマさんも続く。
『武運を祈るでござるよ』
『レッドさんこそ!』
腐ちゃんの魔法で姿を消したあたし達は、タマさんの後ろからハウスを脱出。
「ィー!」(ふん。雑魚どもが徒党を組んで参ったでござるか。相手をしてやるのも強者の勤めよの)
「んだとふざけんな! クエストを1つお前らが無茶苦茶にしやがったのはバレてんだ!」
「ィー」(だからどうしたというのだ? 拙者たちの仕掛けた遊びすら乗り越えられないようでは、やはり雑魚であると証明しているではないか)
「ウキーっ!!」
タマさんの挑発で周囲の人達のお怒り度が上がる。
「ィー」(おっと。玄関を開けっぱなしであった。ハウスを荒されてはたまらぬからな)
普通の流れのようにタマさんが玄関を閉める。
その頃あたし達――というか、あたしはギルドハウスからそれなりに離れた所まで移動できていた。
これまでは、人にぶつからない、物音を立てない、石とかを蹴飛ばさないっていうのに気を付けていたんだけど、そろそろ、砂埃をたてすぎない程度に疾走してもいいかな。
逃げる時に見えたギルドハウスの周囲、たくさんのプレイヤーキャラに囲まれていてびっくりしちゃった。
その人達がね、むき出しの敵意をジャンヌさんや大天使さん、あとタマさんに向けてるの。
他に目がいかないようになんだろうけど、その敵意をさらに煽るようなことをするなんて、タマさん心臓強すぎる。
って、あ。
物影で休憩してる人発見。
しかもお1人様&レベル低い。
レベル低いから、ギルド戦にガチンコで参加できるわけでもなく、ミッションのクエストも手を出せるレベルのものは終わっちゃって暇を持て余してるとか?
なんで1人なのかとかちょっと気になるけど、とりあえずお命頂戴。ていっ。
え? 酷い? 油断しまくってる弱者を闇討ちとか非道すぎるって?
いやいや。
だってこのイベント、いつでもどこでも身内以外は敵なイベントですよ?
禍の種は小さいうちに詰めっていうじゃない?
今までだって、フィールドを爆走してる途中で出会った方々には昇天してもらってきてるわけだし。
それが自然の摂理。
ごめんなさいね見知らぬ人!
あたしの1ポイントになって!
レベル15の人だったからね。
その人、あたしのパンチの1撃で泡になられた。
その人の座っていた場所に赤い珠がコロンと転がっている。それも3個。
えとー。
これって、あの、各ギルドが1つずつ持ってる珠じゃないんでしょうか?
珠1つにつき何点かギルドポイントが加算されるやつ。
とりあえず回収!
って、これ、インベントリに入れられないんだった。
袋袋。
珠をゴロゴロ入れて、きゅっと縛って腰のベルトに結ぶ。
周囲には……誰もいない。
よし、あたしが珠を手に入れたことは誰にもバレてない。
珠の所持のせいで狙われる度が上がるなんてことはないはず。
ていうか、持ってるの嫌だから、あとでお姉ちゃんに押しつけよ。
それ以降は安全に倒せそうな人と遭遇することもなく、祈祷師さんの小屋に到着。
日中だからか祈祷師さんは小屋の外に立ってる。
そんな彼女の横を素通りしてあたしは小屋に入った。
中を見回してみたけど誰もいない。
って、姿消してる他の仲間がいても見えないんだけどさ。
『祈祷師さんの小屋についたんだけど、他についてる人いる?』
『いるよぉ』
『わたくしも』
『私も今つい――あいてっ! 小屋の入口にいる奴誰だ!? 奥に行け!』
『それあたし~。えへへ、ごめんね~』
また誰かにぶつかられると嫌だから、小屋の隅っこに移動。
『ていうかぁ、4人揃ったならぁ、魔法解いとく方がいいかもねぇ。姿が見えた方が色々楽だしぃ、外から見られないように注意しとけばいいだけだしぃ』
『ですわね。ドドメ、魔法解いてくれませんこと?』
『ふぁあい』
腐ちゃんがもにゃもにゃ魔法を唱えると、狭い小屋の中に4人の人物が浮き出てくる。
あたしのめっちゃ近くに腐ちゃんが座っていて、顔を見たとたんにお互いに叫びそうになっちゃったよ。危ない危ない。
『で、スカイはどうした? 到着までそんなに個人差が出るほどの距離じゃなかったと思うが』
『あ? 俺っぺか? そっちに向う途中で綺麗なお姉さんと出会ってしまってストーカーに忙しい。姿が見えないって最高だっぺな』
『死ね』『死ねばいいと思うのぉ』『最低』『しばらく近寄らない、姿を見せないでくださいます?』
『お前ら酷いわぁあああああっぺ』
透明人間状態でストーキングの方が酷いわ!