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1 死角から迫る黒い影

「いっやぁああ、来ないでぇえええっ!!」


 叫びながらあたしは森の中を走った。

 後ろからは「がおー」と雄叫びをあげながら熊さんが追ってきている。


 落し物を届けるため?


 そんなわけがない。

 一般的な熊さんが動くものを追いかける理由は、襲うため一択だよ(たぶん)。追いつかれた日には確実にヤバい。

 なのに、見えない壁があたしの前に現れて、べいんっと弾いてくれた。


 視界の左下にある戦闘ログウィンドウには「逃走不可」って出てる。

 あ、そうですか。逃げられないんですね。


 ……って、えぇええ!?

 こんな凶暴な熊と、可憐で非力な少女のあたしに戦えと仰りますか!?

 1話冒頭にして主人公死亡。完。になっちゃうよ!


「落ちつけよ、こはる。攻撃はお前にはいかないって先に言っておいただろう?」


 半パニックなあたしに冷静な声が飛んできた。

 声の主の方を見てみると、眼鏡をかけたサラサラ黒髪ロングのお姉さんが頭から熊さんにかじられている。

 全然痛そうじゃないんだけどね。実際、彼女のHPバーは1ミリも削れていない。


 あ、自己紹介が遅れました。

 あたしは「こはる」。

 つい数分前からこのVRゲームを始めた新人です。

 種族はね、肉球と尻尾と耳に憧れて獣人にしたんだ~。それでね、期間限定で狼の獣人っていうのが選べたから、ソレ。

 限定って聞いたら選んじゃうのは人のサガだと思うんだ。


 錬金術が体験できるゲームだよって誘われたんだ。でもさ、何か作るには材料がいるらしいの。

 だから、チュートリアルがてら、始まりの街近くの森に材料採取に行くことになったんだけど。


 街の外にはモンスターが出るらしくてさ。怖いじゃん?

 そのことをゴネてたらね、あたしをゲームに誘った目の前の眼鏡がね、敵は全部引きつけてやるから大丈夫って言ってさ。

 この人、女キャラ使ってて「ナナオ」なんて名前してるけど、リアル男なんだよね。まぁ、どうでもいいけど。


「こはる、さっき〈心をえぐる晩秋の思い出〉拾っただろ? それ、こいつに投げてみ。ダメージ入るから」


 相変わらず熊さんにかじられながらナナオサンが言ってくる。

 なんでもね、彼女が装備しているアクセサリで、モンスターの敵愾心ヘイトとかいう数値を上げられるらしくて、あっちにしか攻撃がいかないんだって。すっかり忘れてたけど。えへ。


 そんな感じで安全らしいから、あたしは逃げるのを止めた。

 所持品ウィンドウ(インベントリ)から〈心をえぐる晩秋の思い出〉を出す。

 ご大層な名前してるんだけど、どう見てもイガグリなんだよね、これ。面倒臭いから以下イガグリで。


 投げろって言われたし……。

 とりあえず普通に投げてみた。


 ぽーんと飛んでいったイガグリは熊さんに当たる。

 次の瞬間には爆発が起きた。


 ……爆発?

 見た目からは想像できなかった威力にあたしは唖然とする。そんなのおかまいなしにチャラーンとBGMが鳴った。

 レベル上がったみたい。


「忘れてるみたいだからもう1度言うけど、〈簡易爆弾製造手袋〉装備してる状態で投げた物は、下から2番目くらいの爆弾扱いになるから。ここのモンスターくらい怖くないってわかっただろ?」

「あー。そんな説明してたね、あはは」


 全然覚えてなかったよ。遠い目で笑いながらあたしは頭を掻いた。

 だって、ゲーム始めたばっかりで覚えないといけないこと多かったんだもん。1つ2つくらい落ちても仕方ないよね。うん。


「で、モンスターはこいつみたいにアイテムを落とすこともあるから、回収忘れないようにな」


 そう言ってナナオサンは落ちていたハチの巣を拾ってあたしに渡した。


「ねぇ、ナナオサンって呼びづらいんだけど」

「ゲームん中の知り合いは"ナナ"とか呼ぶから、こはるもそう呼ぶ?」


 ナナ? なんかそれもしっくりこないなぁ。


「んー」


 難しい顔であたしは腕を組む。何がいいかなぁ。って悩んでいたら、突然閃いた。


「お姉ちゃんにしよう! これからも色々教えてもらうわけだし。ゲーム始めた順番が産まれた順って考えれば、姉妹関係に取れなくもないよね」


 うん、これなら呼びやすい。


「個人的にはお兄ちゃんと呼んで欲しいところだが」


 お姉ちゃんが小声で「リアルで」って言ったのが聞こえたけれど、聞かなかったことにする。


「まぁ、お姉ちゃん呼びも悪くないな」


 キモ顔で悪い笑みを浮かべたのも見なかったことにしといた。

 そんな彼女のキモ顔なんだけど、意外とすぐに普通に戻る。


「まぁ、私はどうでもいいけど。くれぐれもリアルネームで呼ぶなよ」

「はーい」

「じゃ、インベントリが満タンになるまで素材拾って帰るか。モンスターが出てきたらさっきと同じ感じでな〜」

「はーい」


 2人で素材回収作業を再開したよ。


「戦闘逃げようとするなよ〜。戦わないと冒険者レベルあがらないし。レベル足りないと侵入不可なフィールドもあるからな〜。あと、戦いに慣れるのも大切だな」


 草を抜きながらお姉ちゃんが言ってきた。


「ねぇ、お姉ちゃん。さっき逃げようとしたら透明な壁に邪魔されたんだけど。このゲームって逃げられないの?」

「うんにゃ。さっきは私が逃げられないようにしといただけだ」


 それからお姉ちゃんは軽く説明してくれる。


 なんでも、レベル差がありすぎると敵さんが怖がって逃げちゃうから、逃走禁止にするアイテム装備しといたんだって。

 お姉ちゃんって冒険者レベルカンスト(レベルMAX)してる人だから、そりゃ初期エリアの敵は逃げるよね。

 でね、敵さんが逃げられなくなるついでに、自分達も逃げられなくなるんだって。


 先に教えといてよ〜。

 そうすれば、透明な壁にべいんって弾かれなくてよかったのに。


 ちょっとふくれっ面であたしはイガグリを拾った。

 それにしても、ただのイガグリに〈心をえぐる晩秋の思い出〉なんて名前を付けるだなんて、このゲームの開発者、イガグリにどんな思い出があるの。


GM(ゲームマスター)コーr――」

「そんなんでGM呼ぼうとするな!」


 頭をはたかれた。

 あれ? 口には出してないはずなんだけど、心の声読まれた?


 うー。

 これ以上内心暴露されたくないから、ちょっと離れよう。

 敵さんと会ったらお姉ちゃんを呼べばいいだけだし、ちょっとくらいなら危なくないよね。


 ってことで、心の声がお姉ちゃんに読まれないように、少し離れた所に移動してみたよ。

 おー、イガグリとか草が一杯ある〜。

 あたしはいそいそと採取を再開した。





 そうしてしばし。


「ィー」


 妙に高い声が聞こえたと思ったら、しゃがみこんでいるあたしの視界に影が落ちる。

 影を辿って視線を動かすと、人の足らしきものが見えてきて。


 目の前に全身黒タイツに覆面の変態がいた。


 えーと。

 国民的ヒーロー番組に出てくる悪の組織の下っ端に見えるんだけど。ショッ○ーのコスプレイヤーさんですか?

挿絵(By みてみん)

どうも、こはるです!

この作品の主人公なんだって!

よろしくね~

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i396991
― 新着の感想 ―
[良い点] うにーーーっ!!(投擲) ……かつて某アトリエにて、数千ダメージを弾き出し、ボスを一撃で屠る至高のうにを錬成したボンクラにとって、うには究極の投擲兵器にござる。(真顔)
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