召喚スキルでチーレム目指す!~呼び出したのは女体化された地球の神々!?~
俺の名前は渋沢直己。
年齢は十七歳の童貞だ。
勿論、彼女いない歴=年齢のベテラン童貞である。
さて、何でいきなりこんな自己紹介から始まったのかというと、どうやら俺の夢が叶うかもしれないからだ。俺の夢っていうのは、異世界に来てチーレムしてやるってやつなんだけど、今第一段階の異世界へ来るという条件を達成出来たからこうやって報告してるんだよ。
え? 報告って一体誰に向けてって?
……友達いねぇんだからしょうがねぇだろ、言わせんな!
とにかく、今俺は異世界に迷い込んで来たんだがそれまでの経緯を少し振り返っていこう。
それでは、どうぞ。
◇
「くそっ! またガチャ爆死だよ……」
そうスマフォを操作しながら一人で下校しているのは、渋沢直己。今年で高校二年生になるボッチだ。
別に誰かと話すことが怖いだとか、ごもってしまうという理由ではない。単純に彼が友人という存在を必要としてこなかった結果である。
直己曰く、誰かと付き合いを持つということは足の引っ張り合いと同義であるという。つまり、交友関係を持てば何かとしがらみが増え、本来自分一人ならば巻き込まれることの無かったトラブルにもいつの間にか自分がその渦中にいるかもしれなくなる。
それを嫌う彼だからこそ、人と話すことは業務連絡以外では必要以上に絡むことは無い。自分一人であれば、抱えることの出来る問題も自分のことだけを考えてプランを組み立てれば上手くいく。これまでそうしてきたからこそ、直己は必然的に進んでボッチとなったのである。そう、進んで。
……と言うのは彼の言い訳。
本当は、人と話すことが苦手で家族としかろくに喋ることが出来ない重症である。
特に女子と話すことは彼にとっては一大事であり、教師であっても女性ならば意識してしまい、最早意思疎通というものが出来ていない。
時々、女子から話し掛けられるのは日直の仕事を頼まれる時か、宿題の提出をする時、プリントを回される時のみ。しかし、童貞特有の思い込みがそこで発動してしまう。
そう、「こいつ、俺のこと好きなんじゃね?」だ。
わざわざ自分に話し掛けて来たり、頼んできたりするということは少なからず自分へ好意を持っているのではと錯覚してしまう。そして、少し経った後で「まぁ、無いか」と結論づけて現実に戻っていく。そんなイベントが二ヶ月に一回は起きる度に、直己の心は踊るのだ。
今日もそのイベントの日帰りで、女子と話せたことで少し気分が舞い上がっていた直己は、アプリゲームのガチャが爆死したことに苛立ちを覚えるが、すぐに学校でのことを思い出し気分をリフレッシュさせる。
有り得ないということは分かりきっているのだが、もしかしてという薄い希望があるのもまた確かなのだ。そして直己は今実際に現実との狭間で揺れていた。
「はーぁ、こんな世界じゃなくてどこか別の……、異世界にでも行ければ心機一転、俺も友達と彼女くらい作れるんだけどなぁ」
結局、心の中での現実と虚構の葛藤は後者の方が勝ったようだ。
肩をガックリと落として、トボトボと歩く直己。俯きながら道を歩いていると、何やら車のクラクションがうるさい。何事かと顔を上げ音のする左方向を見ると巨大なタンクローリーが、こちらに向かって走ってくる。
どうやら直己の不注意で赤信号の時に、横断歩道を渡り始めたようで直前でそこそこのスピードを出しながら曲がってきたタンクローリーが、スピードを落とせないまま突っ込んでくるようだ。
ヤバイと思うも、腰を抜かしてしまった直己はその場から動くことが出来ない。フロントガラスから見える運転手が何やら叫んでいるようだが、何を言っているのか全く分からない。
周りの音も遮断され、頭の中が真っ白になっていた直己の中に今までの思い出やらが浮かんでくる。いわゆる走馬灯というやつで、幼少の頃の懐かしいものから最近のものまでが一瞬のうちに映像として脳内再生される。
思えば本当に、何も無い人生だったなぁと感傷に浸る。そして、タンクローリーが直己の体を吹き飛ばす衝撃によって彼の意識はブラックアウトしていった。
◇
「お? ここはどこだ……?」
目を覚ますと、見慣れない景色。それも木々がよく生い茂る森の中のようだ。こんな所にいた記憶はないし、自分は事故で轢かれて死んだと思っていたが、体に怪我の類は見当たらない。
「俺、生きているのか?」
もしかしたら、ここが死後の世界かもしれないと考えた直己は自身の頬を強く引っ張ってみる。
「痛い……。ここ、現実なのか?」
いきなりこんな辺鄙な所に飛ばされてしまった直己は、どうしたものかとその場で座り込んでしまう。暫くそうしていると、草木を掻き分けて奥の方から何かがこちらへ近付いてくる。もしかして、俺の何かしらを裁く神様的な存在かもしれないと身構えた直己は、すぐに起立し姿勢を正して音の主をそこで待つ。
「か、神様! 俺、別に前世では何もしていないです! というか、何かする気概もないし、そもそも何かをする相手もいない訳で……。とにかく、俺は無実なのでどうか天国へ送ってやって下さい!」
高速で腰を直角に曲げて頭を下げる直己。
自身の身の潔白を証明しながら、切ない気持ちになるのは何故だろうか。涙も伝ってくる。
そして、頭を下げ続ける間に音の主はどんどんと近付いてくる。意外と鈍くて大きな音だなと思う直己。鼻息なのだろうか、フーッフーッという音が聞こえるのと同時に生暖かい風が直己の顔に吹きかかる。どうやら神様は、女神や子供の類ではない、巨漢の神様のようらしいと直己は仮定した。
しかし、いくら経っても言葉を掛けてくることも無くさっきからやたらと自分の匂いを嗅ぎ続けている神様に、流石におかしいと思った直己は、姿勢はそのままに顔だけを正面に向かせて目の前にいる神の姿を目に映す。
そこにいたのは、全身が赤い毛で覆われた四足歩行の獣の神。額の辺りにはこれまた禍々しい一本角が生えている。今はその強靭そうな後足を使って立っている状態であるが何故か、丸太のように太い前足をこちらに向けて振りかぶっている。見た目は熊のようなものをしており、血走った眼でこちらを睨んでいる。
「って、まんま熊じゃねーかよおおお!」
そう言いながら背中を向けて一目散に熊の反対方向に走り出す直己。しかし、野生の獣というのは背中を向けて逃げる獲物を追いかけるという習性がある。どうなら赤い角熊もその例に漏れず、逃げる直己を追ってその巨体を動かせる。
「なんであんな大きい体してこんなに速いんだよ!」
悪態をつきながらも走る速度は維持する直己。
それを追いかける角熊は、その巨体に似合わぬ俊敏さを見せ、木々の合間を抜けて逃げようとする直己を執拗に追い回す。
「死んでからも、こんなことしなきゃいけないのかよ!?」
未だにここが死後の世界と信じている直己は、自身の後ろにいる角熊は一体何なのかが分からないが、これも天国へ行くための試練なのかもしれないと思い込んでいる。
しかし、先程から聞こえる鳥のさえずり、土の匂い、草木によって擦り切れた頬の傷の痛み、どれも五感を刺激するもの。これらが果たして死後の世界にも存在するのかと、直己も少し疑問を持ち始める。
見たことのない生物に不思議な形をした植物。そのどれもが元いた地球では存在しないであろうもの。もしや、ここは地球とはまた違う世界なのかもしれないという淡い期待が心の中に芽生え始める。
ならば! 現実で言ってみたかったワードを唱えてみるしかないじゃないか、と判断した直己は後ろを振り返りこちらへ突進してくる角熊に向かって両手を翳す。
「炎よ! 敵を焼き払え!」
格好よく決めたつもりで、そう唱えた詠唱。異世界ならばこういった中二臭いセリフを言えば魔法の類が使えるのではと思った。がしかし、現実はそんなに甘くない。翳した両手からは、目当てにしていた炎のほの字も見当たらない。グーパーさせても何も起こらなかった。
そうこうしている隙に、いつの間にか目の前に現れる角熊。その巨腕が今自身に降りかかろうとする瞬間に、直己は叫ぶ。
「くそ、誰でもいいから助けて下さいっ……!」
振り下ろされた腕による衝撃を覚悟して目を瞑った直己だったが、いつまでたってもそれは襲ってこない。
恐る恐る顔を上げる直己。しかし、その視線の先に見えたのは獣ではない。薄い純白のドレスを着た銀髪の少女が熊の一撃をその華奢な腕に握られた鎌でことも無さげに受け止めているその背中が見えるのみだ。
「大丈夫か? 少年よ」
目の前でどうやら自分を助けてくれた少女が、直己に安否の確認を取る。
「は、はい」
「そうか、ならば良かった。今、目の前の汚物を処理してしまうから少し待て」
そう言って、熊の腕を受け止めていた鎌を前に押し出して態勢を崩させる。よろめく角熊に容赦なく鎌を薙ぎ払い、上半身と下半身を両断させてしまう。
彼女の一体どこにそんな力がと思わせる程の少女。年の頃は直己と同じように見えるが、明らかに常人ではないことは直感で感じてしまう。理屈ではない本能で、彼女が人間ではないということが分かってしまう。
あまりの急展開に呆然とする直己の方を、銀髪の少女が振り返ってその素顔を晒す。
一言で言えば女神。この世のものとは思えない程の、最早生きる美術作品のようなこの美少女は一体何者なのか。自分を救ってくれたとはいえ、こんな状況でいきなり現れた少女を警戒せずにはいられない。
元の世界であれば、是非ともお知り合いになりたいものだが、どうせ地球にいても話しかけられず終わるのが関の山だろうと心中でため息をこぼす直己であった。
「君は一体?」
気を取り直して、ようやく口に出せたのがこの言葉。もう少し選ぶことは出来なかったのかと後悔に襲われるが、そんなことはあとの始末。まずはこの少女が何者なのかを知ることが先決であった。
「君が呼び出したのだろう。何事かと思いきやいきなり獣に襲われているし、驚いたぞ」
呆れたように言葉を返す銀髪少女。
「私はウラノス。召喚者であるマスターの君の呼びかけに応じ参上した」
そう言われた瞬間に、ここは自分の知らない未知の世界。つまり異世界にやってきたということを理解してしまった直己であった。
◇
初めてこの世界に迷い込んでから数年、あれからウラノスとは様々な戦場を共に駆け回り、他にも呼び出した色々な神を使役して、直己は絶賛チーレム活動実施中であった。
どうやら、直己が呼び出すのは地球で信仰されていた神のようで、ウラノスを始め神話では男とされている神も召喚される際に何故か性別が逆転してしまうという。
そして、召喚された神たちはというと自分が元の世界にいた頃の記憶は無く、ただ持っている力の行使の仕方だけは体で覚えていた。それは、自分たちが地球では男であったということすらも忘れる程で、直己は彼女たちの記憶を甦らせるヒントがあるかもしれないということで、一緒にパーティを組みこの世界を冒険している。
「ウラノス、オーディン、ツクヨミ。これからもよろしくな」
「私に頼れるのはナオキしかいない。どこまでも君に付いていこう」
「ナオくんとオーちゃんはずぅーっと一緒なの!」
「仕方がないですね。二人の身に何かあったら大変ですから、もう少し貴方にお付き合いいたしましょう」
それぞれの反応を示し、いつもと変わらないパーティだと確認する渋沢直己。
まだまだ元の世界に戻る方法は見つかっていないが、しばらくはこの世界でゆっくりとこのチーレムを楽しむのも悪くないと思う少年であった。
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