82『S市Bブロックから』
RE・友子パラドクス
82『S市Bブロックから』
Bブロックとは、名前の通りB級の住宅街だった。
50坪ほどの敷地に、30坪ほどの似たような住宅が並び、半分近くが長引く不況で売りに出されていた。遠目には閑静な住宅街だったが、中に入ってみれば、荒廃しかけたアメリカそのものだった。
「「あの家!」」
ミリー(ハナ)とマイク(ポチ)が指差す通りにケント(滝川)は勢いよくハンドルを回した。
その家には生活感があった。庭の芝生は伸び放題だが通りから玄関までは踏みしだかれて日常的に人の出入りがあることが知れる。アプローチや玄関前には枯れ葉やゴミが散見され、ここの住人が、あまり、ここでの生活に熱意がないことが伺われた。
「中に人は居ないな」
「でも、ついさっきまで居た気配がするわ」
「「ワケあり……」」
かけられた鍵を難なく開けて、四人は家の中に入った。
一階のリビングは、義体の力でなくとも分かる。
テーブルの上には飲みかけのコーヒーがあるし、半ば開かれた新聞は今日の日付だ。
「三人居たな……ほんの5分ほど前までだ。二階に一人。いったん、ここで話して、この玄関から出て行っている」
「でも、残留思念は希薄……」
「探ってみる!」「ミリーも!」
クンクン
マイクとミリー鼻をひくつかせた。
「待って……!」
ジェシカは両手で二人の鼻を押えた。
「「フガ!?」」
「そうだ、なにか怪しい。これだけの痕跡を残しながら、読まなければ分からない残留思念……おれたちなら、読まなくても見えて当然だ……」
「……トラップかも」
ジェシカは、ソファーを一撫ですると玄関を指差した。
四人は、家を出てブロックの端まで戻った。
「じゃ、読んでみるわ」
ドッカーーーーーン!!!!
とたんに、その家は前後左右の空き家を巻き込んで吹っ飛んでしまった。
「バリアーを張れ!」
直後、大量の中性子の洪水が襲ってきた。
「……今の、まともに受けていたらやられていたわね」
「今のは、何をダミーにして読んだ?」
「ソファー……下手に義体のコピーなんか置いてきたら、リンクしているオリジナルまで影響を受けるところだった」
「どの程度の影響?」
「電脳が破壊されていただろうな」
読み取れたわずかな情報を開いてみた。
あの家に住んでいたのは、中年の女と少女……親子のようだ。
父親は……なんと、あの司教!
しかし、司教は自分の娘だとは思っていない……なんと神の子であると思っている。四人の電脳は司教が強烈なパラノイアであるという結論を出していた。
その司教が聖骸布を持っている。
出てくる結論は……何が起こるか分からないということだった。
「水道局。テレポで行くぞ!」
司教は、もう、このS市には居ない。義体であることを隠す必要もない……というか、とうに四人の正体は分かってしまっている。擬態している必要はない。
まず局長室に行ってみた。
局長は瞬間にフリーズドライされたように死んでいた。
ポロポロ……
ジャックが腕を持ち上げると朽ち木のように崩れてしまった。
「ひどい、実の弟を……」
「……司教の力は計りしれんなぁ」
「T町への水道管を!」
「そうだ、水の成分を見極めなきゃ!」
浄水装置のある建物に行き、送水管を調べた。何も出てこなかった。
「おかしい、確かに、あのモーテルの水はおかしかったのに」
「送水管を調べろ」
「もう調べた。平均的なアメリカの水道水よ。洗濯には使えても飲み水には適さない」
ポチもハナもイヌ耳イヌ鼻を出して調べている。
「こっちも!」「こっちも!」
報告すると、ピョンと尻尾まで現れた。
「T町のは純粋な水。東京の水道よりきれい……ん……だんだん水質が悪くなる……他のといっしょになった」
「証拠を隠滅した直後だったのね」
「T町に戻るぞ!」
「「ワン!」」
T町は、たった今まで人が居た気配。モーテルのオヤジの部屋で、電子レンジが任務終了の「チン」を鳴らしてビーフの良い香りがした。ジョッキの中のビールは、まだ盛んに泡を立てている。
「くそ、どこもかしこも一歩先をいかれてる!」
滝川が、珍しくいら立ちを顕わにした……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士




