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REトモコパラドクス  作者: 大橋むつお
65/88

65『シオリクライシス・予兆』 

RE・友子パラドクス


65『シオリクライシス・予兆』 






 フワアアアアアアア٩(*´0`*)۶



 退屈な授業が終わって大あくびすると、隣の麻子の視線を感じた。


 麻子は乃木坂に転校して最初に声をかけてくれた女子。卵焼きが上手で炭酸飲料が好きな陽気な子で、友子は転入初日で友だちになった。


「ハハ、ノドチンコまで見えてるぞ!」


「なによ、麻子の視線感じたからァァァ……」


 アクビと一緒に出た涙を手の甲で拭っている間も、麻子は笑っている。


「大あくびのまま人の顔見ない方がいいよ。なけなしの可愛さが台無しだよ」


「アフゥ~……そういう麻子も目やにがついてるぞ、あんたも寝てたでしょ?」


「えへへ、古文は苦手だし」


「……て、机の上、二時間目の社会のまんまだし」


「あはは、ほんとだ(^_^;)。じゃ、ちょっと目ぇ覚ましに行こう!」


 友子の返事も待たずに、麻子は教室を出て行った。ノロノロ着いていくと自販機の前で立ち止まっている麻子。


「まだ、四時間目の前だよ。コーラ飲むか普通?」


「友子も飲みなよ、目が覚めるから」


 ゴトン ゴトン


 自販機のボタンを、拳で叩いたら、二個出てきた。


「あ、ラッキー! ほれ」


 麻子はコーラを投げて寄こした。


「よそで飲もう、人の目に付くから」


 そう言って、校舎の階段に向かった。


 入れ違いに自販機の前を、生指の池波が通るのを感じた。乃木坂学院は、休み時間も自販機は動いているが、生指の先生は、いい顔をしない。昼休みでもないのに教室に飲み物を持ち込むのは御法度でもある。


「あれ……?」


「ドンマイ、ドンマイ」


 いつもなら施錠されている屋上への鍵が開いていた。さすがに友子は警戒した。しかし、屋上をスキップしながら給水塔の方へ行く麻子は、まったくの麻子で、脳天気さに変わりはなかった。


「プハー…………ゲフ!」


 いつも通り、顔に似合わない大きなゲップをする麻子に、友子は苦笑い……で、気が付いた。ゲップの中に義体にしか分からない、暗号が含まれていたのである。


―― お母さん、またヤツラが動き出した。気を付けて ――


「栞……」


「ゲフ――学校にスパイがいる――」


 友子も、コーラをあおった。


「ゲフ――本物の麻子はどうしちゃったのよ?――」


「ゲフ――五十分だけ、トイレで眠ってもらった。次の時間には帰すわ――」


「ゲフ――情報をちょうだい――」


 グビグビグビ……


 麻子に化けた栞は、残りのコ-ラを一気に飲み干した。


「プハー……ゲフ、ゲフ!――圧縮して送った――」


「ありがとう、コーラも、たまにはおいしいわね」


「だめでしょ、女の子が下品にゲップばかりして。屋上の使用も禁止のはずよ」


 !?


 見知らぬ女生徒が立っていた。瞬時に友子は、全生徒の資料を検索したが、こんな女生徒はいない。でも、義体特有のオーラもノイズも感じなかった。全身をスキャンしても、生身の人間である。虫歯の治療痕、二日目の便秘さえも読み取れた。


「気を付けて、こいつは新型の義体!」


 そう言ったとき、栞は本来の顔に戻っていた――自分に似ている――そう思ったとき、破壊の兆しを感じて、跳躍して給水塔の上に友子と共にへばりついた。校舎内やグラウンドから見られないためである。


「ここじゃ戦えない。ワープ……!」


 バシ


 ワープした瞬間、なにかに弾かれて、屋上に叩き戻された。


「この空間は閉じてあるの、ワープはできないわよ」


 また、破壊の兆し。


 セイ!!


 友子は母子で跳躍し、屋上のコンクリートにジャンプ姿勢のまま降り立った。


「おかしい、今の衝撃なら、給水塔は破壊されているはず!」


「新型のパルス砲、義体にだけ効果があるの」


「分子変換は……」


「効かないわよ、ちゃんとバリアーを張ってあるわぁ~」


 女生徒の義体が口をゆがめる。


 シュッ シュシュシュッ シュシュ シュシュシュ シュッ シュッ


 十秒ほど屋上で、友子と栞は逃げ回った。パターンを読まれないように、乱数ムーブにしたが、それでも読まれたようだ、二発ほどパルスがかすめていき、制服はズタボロ、髪はチリチリになってしまった。栞も派手に動き、親子でパルス砲を放ったが、バリアーに阻まれて、まるで効果がない。


――お母さん、この乱数を使って!――


 栞から送られた乱数で跳躍したが、やはり読まれている。三発目がかすめていき、ブラのストラップを吹き飛ばした。


――栞、あなたの乱数も読んじゃった。あたしは第五世代の義体だからね――


 そう言うと、敵は両腕をパルス砲に変換して、友子と栞の両方に砲口を向ける。どういう仕掛けか、手首が反り返って砲口を露出するタイプでは無くて、手首が丸々砲口に変わっている。あれなら戦闘の度に手首に傷ができることもないだろうと羨ましくなる友子。


――しまった!――


 瞬間、見とれて隙が出来てしまった。


 ドーン……!


 いきなり、女生徒の義体が、血しぶきと肉片と特殊金属のパーツをまき散らして爆発した。同時に、学校近くの空で、カラスが落ちていくのが分かった。


「危ないとこだったね」


 左腕の肘から先が無くなった紀香が、屋上に跳躍してきた。


「今の、紀香が?」


「うん……」


「左手の先をミサイル代わりにしたんですね……でも、どうやって?」


「あたしはカラスを狙ったのさ。カラスとこいつが同軸で重なったところで、発射。こいつにはロックオンできないからね。アナログにはアナログなりの知恵があるわけですよ栞くん」


「ちょっと尊敬したかもです」


「おお、娘は素直な性格のようだ」


「ちょっと危ない秋になりそうね」


「感想言ってる前に、そのナリなんとかしなよ。二人とも千切れかけのパンツ一枚だけだぜ」


「紀香の腕もね」


「それと、この義体の始末もね、お母さん」


「こいつ臭いね」


「八割、人間と同じ生体組織だからね」


 三人がかりで義体の残骸を分子分解し、親子は制服を、紀香は自分の左手を間に合わせに合成した。


「その左手、動かないんじゃない?」


「とりあえずのダミー。組成が違うんで、完全に同じものはね。昼休みにでも、ちゃんと直すさ」


「あ、カラス……」


 学校の前の道路でノビていたカラスは、やっと脳震とうが治って「アホー」と一声鳴いて飛んでいった。


 波乱の秋を感じさせる風が三人の頬を撫でていった……。

 


☆彡 主な登場人物


鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女

鈴木 一郎        友子の弟で父親

鈴木 春奈        一郎の妻

鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘

白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵

大佛  聡        クラスの委員長

王  梨香        クラスメート

長峰 純子        クラスメート

麻子           クラスメート

妙子           クラスメート 演劇部

水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル

滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

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