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REトモコパラドクス  作者: 大橋むつお
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60『友子の夏休み グータラ編・3』

RE・友子パラドクス


60『友子の夏休み グータラ編・3』 





 リビングのテレビは、共に5000メートルの噴煙を上げている桜島と西之島新島の映像を流している。桜島は鹿児島を始め近隣自治体の交通をマヒさせ、火山灰による被害が憂慮され、西之島新島は日本の国土と排他的経済水域が広がると喜ばれた。


 政府は、この二つの火山噴火とその影響のシミレーションCGをゲーム会社に作らせ、国民に警戒と希望の両方を喚起させている。要は両火山に対する予算措置や特例法の成立をやりやすくするための国家的宣伝だ。


 友子は、これだと思った!

 

 友子は、起こりもしない極東戦争のために開発された義体である。その開発には大手家電メーカーや自動車メーカーが義肢メーカーやバイオメーカーを新たに立ち上げたり買収したり、産業構造を変化させるほどのムーブメントを起こした。そのことが、利権化してしまい。友子は存在し続けなければならない。ストレスはハンパではない。従って、並のグータラでは、発散のしようがない。思い切ったガス抜きが必要だ。




「でぇ、なにしようってのよ?」




 二日続けて遊びに来た紀香が、気乗り薄げに聞く。


「極東戦争のシミュレーションやってみよう!」


「起こりもしないのに?」


「だから、面白いんじゃない。これくらいのことやらないと、あたしたち義体には息抜きにもならないわよ」


「でも、電脳のバーチャルでやっても……ん……ひょっとして、本当にやってみるつもり!?」


「ガハハハハハ」


 返事の代わりに、友子は身に合わない豪傑笑いで応えた。



――大変であります。尖閣諸島東方海域に、旧ソ連軍の大艦隊が出現いたしました。アドミラル・クズネツォフ級空母3隻を中核とした機動部隊で、総数60隻に及び……いま、関連のニュースが入ってきました。ロシア政府は、この旧ソ連軍の艦隊は、ロシアとはなんの関係もないと周辺諸国に通達いたしました。続いて……尖閣諸島の西南に旧日本海軍そっくりの大艦隊が出現しました。これが映像であります……海上自衛隊の発表によりますと、大和型戦艦2隻……どうやら、特徴から、前が大和、後方が武蔵のようであります。続いて、長門、陸奥……高速巡洋戦艦、榛名、金剛、比叡、霧島と続き、その周囲を巡洋艦、駆逐艦が続いております――


「なんで、空母出さないのさ」


「作戦よ、作戦」


――中国政府は、日本の陰謀であると非難し、周辺海域の中国の艦船を避難させました。日本政府も、この旧帝国海軍の艦隊は日本政府が関わったものではなく、全くの不審艦隊であると発表いたしました。双方の艦隊の距離は50キロに迫り……あ、今ソ連艦隊の空母群から次々と艦載機が発艦しております!――


「スホーイ33の対艦ミサイルで、ドッカン、ドッカンやっちゃうからね!」


 紀香の鼻息は荒い。友子はおもむろに高速戦艦4隻を艦隊の前方に展開した。まともに勝負しては、友子に勝ち目はない。なんと言っても亜音速で飛んでくるミサイルである。


「全機、ミサイル発射!」


 合計120発の対艦ミサイルである。現代のイージス艦でも、飽和攻撃で、全ミサイルの撃破は難しい。

 友子は、それまでに弾着観測用の零式観測機と零式三座水偵を12機発艦させていた。


「なに下駄履き飛ばしてんのよ、砲戦になる前に、そっちは全滅よ」


「どうかなぁ……」


 なんと、12機の下駄履きは、120発のミサイルを撃ち落としはじめた!


「そんなバカな(;゜Д゜)!」


「見かけで判断してはいけません」


「機銃の弾に自動追尾装置つけるなんて反則だ!」


「勝てば、なんでもありよ!」


 そうこうしているうちに、ソ連艦隊は日本艦隊の射程に入ってきた。


 傲然と火を吐く大和・武蔵の46サンチ砲。高速で接近した巡洋戦艦4隻も主砲を撃ち始めた。


 ソ連艦隊も対艦ミサイルで反撃するが、そのほとんどが高角砲に撃ち落とされる。


「アナログの高角砲が対艦ミサイル撃ち落とすなんて不合理だ!」


「でも、こっちの主砲はアナログのままよ」


 下駄履きが、本来の任務である弾着観測をし始めたので、日本艦隊の弾は確実に当たり出した。


 結果は、旧日本艦隊の一方的勝利、旧ソ連艦隊は、ほとんどが撃沈された。


「どうだ、庭でバーベキューでも……」


 一郎が、呼びかけると、二人はスホーイ33と零式水偵でドッグファイトの真っ最中であった。二機の背後には沈み行くソ連艦隊。


「お前ら、こんなの国際問題になるぞ……」


 一郎の声に一瞬気を取られた隙に、スホ-イの30ミリ弾が水偵に当たったが、複葉機であるために、主翼の間をすり抜けてしまった。


「今だ!」


 水偵の後部座席の7・7ミリ機銃がスホーイのコックピットをぶち抜いて勝負がついた。


「負けたあ!」


「勝ったあ!」


 次の瞬間、ソ連艦隊も日本艦隊も分子にまで分解され、その姿がきれいに消えた。


 友子たちが、バーベキューをしている間に、周辺諸国は、居なくなった相手に非難のしまくりであった。


 なんの痕跡も残さなかったので、アメリカと日本のゲーム会社が一時疑いの眼で見られたが、技術的に不可能であるといわれ、国際的なハッカー集団のせいにされて決着した。


 友子のウサバラシも、かなり人迷惑ではあった。




☆彡 主な登場人物


鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女

鈴木 一郎        友子の弟で父親

鈴木 春奈        一郎の妻

鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘

白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵

大佛  聡        クラスの委員長

王  梨香        クラスメート

長峰 純子        クラスメート

麻子           クラスメート

妙子           クラスメート 演劇部

水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル

滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

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