44『東京異常気象・3』
RE・友子パラドクス
44『東京異常気象・3』
美麗は大使館の機密電信室に入るまで異常には気づかなかった。
自分のあとについて入ってきたのが仲間の秀麗だったからである。
「美麗、収穫があったみたいね」
「そんなふうに見える? 残念ながら坊主よ、アリバイの定時報告をするだけ」
そう言って、美麗はUSBをパソコンにかけ、気乗り薄にキーをいくつか叩いた。
「暗号化して、圧縮……」
「いつもやってることでしょ」
「左手で隠したけど、F3ボタンを押したでしょ。それは最高機密専用の変数ボタン……だわよね」
「フフ、秀麗って見かけほどバカじゃないのね」
「そうよ、美麗が谷口三佐から受け取ったのは『あかぎ』のスペックとイージス艦の配置計画でしょ」
「……そんなの知らないわ」
「エンターキーは押すんじゃないわよ。それには、とんでもないウィルスが付いてる。我が国の国防、外交に関するデータが、全部オシャカになるわ」
「やっかまないでよ、自分のノルマが果たせないからって」
カシャ
「……あ~あ、押しちゃった。親友としての忠告だったのにぃ」
「だから、定時連絡と、アリバイのカスみたいな情報だって」
「カスを入力して、コンピューターが、そんな反応するかしら?」
電信室の全てのモニターのスイッチが入り、大使館がこれまで営々として集めてきた機密情報が、現れては、すごい早さで消去されていった。
「こ、これは……(;゜Д゜)」
「だから言ったでしょ、全部オシャカになるって。同じことが、軍や外交部のコンピューターでもおこっている」
カシャカシャ!
美麗は慌てて強制終了のボタンを押した。
「あ……バカだなぁ。それ押すと消去したデータが、日本の防衛省とアメリカのペンタゴンと、世界中のプレイステーションに送られたわよ」
「こんなこと……(๑ºдº๑)」
「仲間の忠告を聞かないからよ」
「秀麗、あんた……(꒪ꇴ꒪; )」
「日本の公安なめんじゃないわよ」
秀麗は、顔のゴムマスクを取った。そこには、美麗と同じ顔があった。
「くそ!」
美麗は、ルージュ形のピストルの引き金を引き、もう一人の美麗の心臓を貫いた……が、効果は無かった。
もう一人の美麗は胸から弾をほじくり出すと、指で弾を弾いた。弾は美麗のブラジャーの右のストラップを切った。
銃声でアラームが鳴り、武装した警備員が機密電信室に向かった。
「なにをしている!? 銃を捨てて出てこい!!」
警備課長が怒鳴った。
「待って、出て行くから撃たないで」
電信室からルージュ形のピストルが放り出され、美麗が出てきた…………次々と!
「ドアを閉めろ!」
警備課長が、怒鳴ったときには、美麗は100人になっていた。そして、大使館内部の部屋からも次々に美麗が飛び出し、その数は1000人を超え、一斉に正面ゲートに殺到した。ゲ-トは、すぐに閉じられたが、大使館のゲートは、左右のフェンスごと倒された。
そう、1000人の美麗は友子の義体が変身しテレポートしたもので、大使館を出ると四方に散っていった。
「リアル美麗さんは、どうした?」
大使館向かいのビルの屋上で紀香が聞いた。
「アメリカ大使館。メイクで人相変えてるから、しばらくは分からない」
「しばらくって?」
「アメリカへの亡命が済むまでぐらい」
友子が仮想インタフェイスを出すと、C国大使館のパニックの映像が流れていた。
「こいつを、なんとかしなきゃね」
「じゃ、こんなもんで……」
シャララ~ン……
陽炎のようなエフェクト付きで散った美麗たちが消えた。
政府もマスコミも一連の事件を、むりやり、ここのところの異常気象のせいにした……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル




