43『東京異常気象・2』
RE・友子パラドクス
43『東京異常気象・2』
劇団季節が大橋むつおの『ステルスドラゴンとグリムの森』をやっていたのが不幸のもとだった。
全ての芸術がそうであるが、演劇もインプットとアウトプットが必要である。たまには人の芝居も観て肥やしにしなければならないということで、演劇部三人娘の友子・紀香・妙子の三人は、理事長先生からもらったチケットで劇団季節『ステルスドラゴンとグリムの森』を観ての帰りであった。
帰りの地下鉄は混んでいた。
芝居帰りの乗客も多かったが、その二つ向こうの東京ドームでは、これから始まるAKRのライブがあり、そこに向かう乗客が、その何倍も乗っていたのだ。
「うわぁぁぁぁ(꒪ꇴ꒪; )!」
地下鉄に乗ったとたん、のんびり屋の妙子は、要領の良い友子や紀香とはぐれてしまい、車両の端のシルバーシートのところまで、押しやられてしまった。
妙子は、情けない顔をしていたが、車両中央で妙子のポニーテールの頂が見えている友子と紀香は、半分意地悪な気持ちで寛いでいる。
なんといっても同じ車両だ。それに妙子の周りは女の子ばかりで、痴漢の心配もなさそう……が、次の駅で若い男が緊張した顔で乗り込んできて妙子の左斜め後ろに立った。妙子は痴漢ではないかと気になったが、友子がサーチしたところ痴漢の気配はなかった。それどころか、ガラに似合わず頭の中はAKRのヒット曲がヘビーローテーションしている。
――なんだ、ちょっとイカツイけど、ただのファンじゃないの――
――しばらく妙子にはスリル味わってもらおうか――
友子と妙子は気楽に構えた。
三つ目の駅に着いたとき、事件が起こった。
「け、警察呼んで下さい( #꒪⌓꒪#)!」
妙子が震える声で叫んだ。震えていても、演劇部なので声は良く通る。
若い男は、ビックリして車両を飛び出した。妙子は男のシャツを掴んでいる。妙子はそのまま車両のドアから出てしまった。
友子と紀香は瞬時に状況を把握して行動を起こした。
――動かないで!――
友子は声を出さずに男を威圧した。
「だめじゃない、妙子、谷口さんを痴漢と間違えちゃ」
「「え……?」」
二人の口から同じ声があがった。かわいそうだが、妙子の意思を友子は支配した。
「なんだ、痴漢じゃなかったんですか」
駆けつけた駅員も、ホッとしていた。
「すみません、知り合いのお兄さんなんです」
「谷口さんだとは思わなかった、どうもご迷惑かけました」
男は、訳が分からなかったが、ひとまず安心した。
「まあ、スタバでゆっくり話でもしましょうか……谷口三等海佐」
谷口三等海佐はギクリとしたが、友子がかわいく掴んだ左の人差し指が万力で挟まれたようにビクともしなかった。
直ぐ後に来た地下鉄に妙子を乗せ、友子は谷口三等海佐とスタバに向かった。
「考えたわね、AKRの『秋色ララバイ』がアイポッドから聞こえたら女にUSBを渡すことになっていたのね」
「な、なんの話だい?」
谷口は開き直った。友子はテーブルの下で、谷口の足を500キロの力で踏みつけた。
「い……(>д<)!」
「これでしょ、あなたが女に渡したの」
友子は、スマホの画面を見せた。USBの外観が現れたあと、その中身がサーっと画面を流れていった。
「建造中の『あかぎ』のスペックとイージス艦の展開予定が全部入っている。ひっかかったのねぇ……ハニートラップに。日本人として近づいてきたけどC国のスパイだった。気づいたのは体の関係ができてからね。仁科亜紀って日本名しかしらないようだけど、あいつは宋美麗ってコードネームのスパイなのよ」
「宋美麗……?」
「日本の諜報って、この程度なのね、オニイサン」
「キ、キミは、いったい(;゜Д゜)?」
「ヤダー、へんな目で見ないでよ、ただの軍事オタク少女。たまたまヒットしただけですぅ」
そのころ、紀香は宋美麗のあとを着けて地下鉄のエスカレーターを上がっていくところであった……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル




