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REトモコパラドクス  作者: 大橋むつお
21/88

21・『あの水島さんの弟!?』

RE・友子パラドクス


21『あの水島さんの弟!?』 





 二人が不審げに戻ってくると、そいつはホコリを払って、やっと立ち上がるところだった。


 そいつは、戦前の旧制中学の制服を着ている。起き抜けみたいに目をしばたたかせ、キョロキョロすると友子と紀香の顔を交互に見た。


「君たち、僕のこと見えてる……?」


「「うん」」


「キミは、残留思念が実体化したものだね」


「ぼく、残留思念なのかい?」


「普通は幽霊っていうやつ、でしょ先輩?」


「うん、幽霊ってのは、本人は自覚してないだろうけど、一種の残留思念なのさ」


 紀香は、ロマンのカケラもない話をし始めた。


「残留思念……?」


「オナラしたら、臭い残るでしょ。あれみたいなもん」


「オ、オナラ……」


「……じゃ、かわいそうか。写真撮るでしょ。ストロボ焚いてズボッって。そしたら、しばらく光が目に残るでしょ」


「もうちょっと、ロマンチックにさ……」


「むつかしいなぁ……好きな女の子ができたとするじゃん。そしたら、寝ても覚めても、その子の姿が目について離れない……これくらいでいい? わたしの言語サーキットって、あんまり文学的にできてないの。ごめん」


「じゃ……僕って、ただの幻( ꒪⌓꒪)!?」


「そいうこと」


 しょげてきた幽霊さんに、友子がフォローに入った。


「あのう、あなたの時代でも、電話ってあったじゃない。あれって不思議でしょ。何百キロって離れたところから話しても、耳元でしゃべってるみたいでしょ。それに近いかな?」


「あ……オナラよりましかな?」


 友子は思いついて、スマホを出した。そして五目並べの無料ゲームをダウンロ-ドした。


「やってみて、ここの画面にタッチするだけでいいから」


「え……すごい。僕五目並べには自信あるんだけど……あ、負けちゃった。これ、誰かがどこかで操作してんの?」


 幽霊さんは、スマホをひっくり返したり、グッと目に近づけて見つめたりした。


「それ、中に五目並べに関する思考力が入ってるんです。これ、ちょっと近い?」


「人工頭脳?」


「まあね」


「こんなのもあるよ」


 紀香が、タブレットを取りだした。


「なんですか、この厚めの下敷きみたいなのは?」


「まあ、いいから。出会いって字にタッチしてごらんよ」


「え……うわ!」


 幽霊さんが腰を抜かした。


 タブレットの上には1/2サイズの女の子のホログラム映像が現れていた。


『わたしでよければ……お付き合いしていただけますか。名前は紀香っていいます♪』


「もっとタッチしてごらんなさいよ」


 タブレットの上には、次々と美少女が現れては幽霊さんを誘惑していく。


「紀香、キャラにお友だちの名前付けるのやめてくれる」


「ごちゃごちゃ言わないの」


「それに、紀香って子と、友子って子と、ずいぶん差があるように感じるんだけど」


「差を付けたんだもん」


 あまりの正直さに、友子はズッコケて怒る気もしない。


「それに、それに、これって現代の技術にないもんだし!」


「まあ、いいじゃん。ほんのお遊びなんだから……え、なんで、そいつ選ぶの!?」


 幽霊さんは、友子を選んでいた。


「飾りっ気がなくて、僕と気が合いそうで……」


「あ、そ(`з´)!」


 紀香はむくれたが、幽霊は落ち着きを取り戻してきてホログラムに語り掛ける。


「自分は、水島昭二っていいます。昭和四年生まれ。兄が昭一、もう成仏しちゃったけど。あ、僕幽霊なんだけど構わないかな(#^0^#)」


『あ、わたし、幽霊さんて大好きです。生きてる人間みたいにウザイこと言わないし。いつでも、お相手してくださいそうで。あ、あの……』


「なんだい?」


 幽霊さんは、あまり身を乗り出しすぎて、ホログラムの友子と被ってしまった。まるでCGのバグだ。


『ハハ、お互い実態がないから被ってしまいますね』


「ああ、ごめん」


 水島クンは、頬を染めて後ずさった。


『お名前、なんて読んだらいいですか。水島さん? 昭二さん? あ、ハンドルネームでもいいですよ』


「ハンドルネーム?」


『あ、仮名のこと。バンツマとかエノケンとかさ』


「僕は、堂々と本名だ!」


『じゃ、水島さん』


「あ、それじゃ、兄貴と区別つかなくなるから、昭二で」


『じゃ、昭二さん……』




 そこで、紀香はタブレットのスイッチを切った。




「あ、友子さん……」


「分かった? 原理的には、このタブレットの子と水島クンは同じなの。タブレットの友子は人工頭脳が作った残像みたいなもの。あなたはこの校舎や時代の空気に焼き付いた残留思念なの。でも、ちゃんとした自意識も判断力もあるけどね。それを世間では幽霊という。分かった!?」


「分かった……かな、なんとなく……でも、君たちも普通の人間じゃないね」


 そこからの説明は長くなったが、どうやら水島クンは分かってくれたようだ。非常に洞察力と理解力に優れている。旧制中学は偉い!


「あなたって、ひょっとしたら『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に出てくる水島さんの弟さん?」


「その物語は知らないけど、水島昭一なら、一つ上の兄貴だよ。そんな物語があるんなら読んでみたいな!」


 水島クンが目を輝かせた。


「あ、今は手許にないの。電子書籍にもなっていないし、そうだ!」


 友子は、紀香のタブレットをひったくり、アマゾンのサイトを出した。


「よかった、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』は一部在庫有りだって、注文しとくね」


「ちょ、ちょっと」


「これも縁じゃん。半分ずつもって、水島クンにプレゼント」




 そう決めたとき、談話室のドアを開けて、三者懇談の終わった妙子が入ってきた。




「え、どうかした、二人とも?」


 どうやら、妙子には、水島クンの姿は見えないようだ。


 友子は、謎であった『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の水島さんの名前が分かって、大満足であった。




☆彡 主な登場人物


鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女

鈴木 一郎        友子の弟で父親

鈴木 春奈        一郎の妻

白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵

大佛  聡        クラスの委員長

王  梨香        クラスメート

長峰 純子        クラスメート

麻子           クラスメート

妙子           クラスメート 演劇部

水島 昭二        談話室の幽霊

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