表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REトモコパラドクス  作者: 大橋むつお
19/88

19『Let It Be……』

RE・友子パラドクス


19『Let It Be……』 





「もう! 散らかしっぱなしで!」


 春奈(お母さん)の声で友子は目が覚めた。



 友子は、なるべくリアル女子高生に見えるように調整している。


 パンケーキ屋の新装開店にも並ぶし、少しお喋りだし、軽率に噂話には加わらないが聞き耳はたてるし、そのくせ授業の集中力は25分が限度だし、教科書で隠してスマホはも観るし。


 そして、休日はなかなか目が覚めないようにしもていて、その感度は、乃木坂女子の平均値。だから、休日の朝はなかなか目が覚めないのだが、友子の頭には危機感知モードというのがあって、声の大小にかかわらず、そういう事態には目が覚める。




 今の春奈の声は夫婦の危機レベルであった。




「どうしたの、お母さん?」


 とりあえず、ハーパンにTシャツという横着な寝間着姿でリビングに向かう。


「トモちゃん。見てよ、このざま!」


「ああ、なーる……」


 リビングは、夕べ一郎が仕事のために出した資料や、サンプル、予備のパソコンや周辺機器で一杯だった。


「研究職って、これだからヤなのよ。商品開発のためなら、なんでも許されると思ってるんだから!」


 そう言いながら、春奈はテキパキと片づけ始めた。 


「顔洗ったら、わたしも手伝うねぇ」


「ごめん、トモちゃん。テスト明けの日曜だっていうのに……少しかたしといてくれる。回覧板まわしてきたら本格的にやるから」


「はーい」


 一見してガラクタだと思った。


 一郎は昔から、そうだった。


 子どもの頃、八畳間を姉弟二人で使っていた。とくに仕切なんかなかったものだから、読みかけのマンガやガラクタが、いつの間にか友子のテリトリーに進入してきて、そう言う時は泣くまで叱ってやった。少し懐かしい気持ちになって、リビングと一郎の部屋を往復する。


「あ……」


 思いがけない物を見つけた。


 一郎が三年生の夏休みのとき、少年科学雑誌に熱中し、図工の宿題を忘れてしまった。工作が苦手な一郎は途方にくれて、友子に泣きついてきた。友子は自分の宿題の分の紙粘土が残っていたので、それでピカチュウの貯金箱を作ってやった。そのずんぐりむっくりな姿と、機能性を評価され、いつにない成績をもらった。


――こんなもの残していたんだ――


 思わず、しみじみ眺めているうちに春奈が戻ってきた。


「あ、それ亡くなったお姉さんが作ったもんだって、初めてあの人が自分の部屋に呼んでくれたときに見せてくれたのよ。お姉さんには想いがあったみたい」


「そうなの……」


「研究職の資料だから、勝手に整理できないし……でも、このスペースじゃ、収まりきれないわね。よーし……」


 春奈は、腕まくりすると、床が見えなくなるほどのガラクタを片づけはじめた。


 あわ!


 ドッシャーン


 春奈は、スカイツリーほどに積み上げられたガラクタの山を崩してしまった。


「あ、もぉ(`m´#)……ああ!?」


 そして、その中に自分たちの結婚写真帳が混ざっていることに気付いた。


「こんな大事なものを、あ~あ~角が折れちゃったよ……ん?」


 春奈は、結婚写真を収めた白い写真帳のノリが剥がれて、中にもう一枚の写真が入っていることに気づいた。


「あれ……」


 と言ったときには、もう遅かった。


 それは、友子が児童劇団を受けようとして撮ったとびきりの写真だ。友子の義体化が長引くことが分かったときに当局からの指示で、友子に関する物は全て処分された。戸籍から、学校の在学記録まで、全て……でも、一郎は処分しきれなかったのだろう。この写真一枚大事にとっておいたのか、あるいはうっかり残してしまったのか、自分の結婚写真の裏に入れてしまった。しかし、もともと不器用なこととノリの劣化、そして、さっきの衝撃で口が開いてしまった。


「え、これって……トモちゃんよね?」


 募集用の写真なので、裏には、生年月日と名前まで書いてある……。


「昭和52年……どういうこと?」


「あ、あのね……お母さん(-_-;)」



 友子は観念して、義理の妹に全てを話した。



「そう……トモちゃんて、わたしのお義姉さんだったの……」


 友子は、その後に来るパニックを恐れた。


「あ、えと……」


「アハハハ…………ああ、おっかしい」


 春奈は、涙を拭きながら笑った。


 友子は後悔した。


「トモちゃんは、やっぱトモちゃんだわよ。どう見ても十六歳の高校生。ほら、そんなに涙ぐんじゃって。どう見ても思春期の女の子。今まで通りの母子でいきましょう。たとえこれから、なにが起こるか分からないけど、トモちゃんはわたしの娘だって、決めちゃったんだから!」


「……うん、ありがとう、お母さん」


 友子は、穏やかに頷いた。それが、プログラムされた能力なのか、自然な心なのか分からなかった。でも、実感としてはお母さん。


 Let It Be……


 むかし好きだったジョンレノンの曲を思い出した。




☆彡 主な登場人物


鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女

鈴木 一郎        友子の弟で父親

鈴木 春奈        一郎の妻

白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵

大佛  聡        クラスの委員長

王  梨香        クラスメート

長峰 純子        クラスメート

麻子           クラスメート

妙子           クラスメート 演劇部



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ