「物語の主人公は君だ」
「やあ、よく来たね」
「ようこそ、この二人称小説へ」
「この小説の物語の主人公は君だ」
「どんな外見がいいかい?」
「長身のイケメンかな?」
「それとも、巨乳の美少女?」
「もちろん、長身の巨乳イケメン美少女でも構わないよ」
「ふふっ、冗談はさておき自身の姿は想像出来たかい?」
「決められない? 弱ったなぁ……」
「それなら、ぼくが君の見た目を決めてあげよう」
「心配そうな顔をしてるね。でも大丈夫、君のことはよく分かっているんだ」
「さぁ、目を閉じて想像して……って、目を閉じたらこの小説が読めなくなっちゃうね」
「ぼくとしたことが、うっかりさんだったよ」
「それじゃあ、気を取り直して……君は猫だ」
「人間じゃないのかって?」
「ふふっ、大丈夫さ。人じゃなくたって物語の主人公になれる」
「スライムが主人公の小説だってあるだろう?」
「だから、大丈夫さ」
「いいかい、君は猫だ」
「毛並みのいい白猫だ」
「今は日の辺りのいい縁側で、日向ぼっこをしている」
「そこへ、1人の人間が近づいてきた」
「その人間は君の飼い主で、とてもとても優しい」
「君が、『お腹が減ったよ〜』と鳴き声をあげると、すぐに美味しいご飯を用意してくれる」
「そんな、飼い主のことを君はとても気に入っていた」
「君のお気に入りの場所は、飼い主のお膝だ」
「そのお気に入りの場所で、今日もウトウトと目を閉じる」
「飼い主の体温と、縁側から差し込む太陽の光で、とても安らかな気持ちで君は眠りについた」
「ふふっ、どうだい? 猫になった気分は?」
「楽しかったかい? それとも退屈だった?」
「まぁ、どっちでもいいさ」
「小説を読むっていうのは、『他の誰かの物語を体験する』ってことだ」
「さぁ、次は何になりたい?」