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来訪者 Ⅱ




それから、しばらくして戻って来た史明に、絵里花は我慢ができなくなって毒を吐いた。



「岩城さんって、若い子が好みなんですね。女の子にあんなに馴れ馴れしいところ、初めて見ました」



いきなり降りかかってきたトゲのある言葉に、史明はビン底メガネの向こうにある目を絵里花へと向けた。



「そりゃ、真面目で熱意のある学生は育ててあげなきゃいけないし。でも、そういえば、下手に着飾ったりしてなくて可愛い子だったな」



「………!!」



史明が素直な感想を放った瞬間、絵里花の中の何かが、プツンと切れてしまった。


『下手に着飾ってない』と言う言葉は、まるで絵里花への嫌味のようにも聞こえた。

化粧も服装も髪も香りも、史明に意識してもらおうとしていた何もかもが、虚しく思えてきてどうでもよくなった。



――もうやめた!!あんなデリカシーのないヤツ、好きでいるのやめてやる……!




翌朝、絵里花は何もする気が起きず、髪も一つ括りでノーメイク、コーディネートすることない適当な服を着て、史料館直通の出入り口から出勤した。



「おはようございます!」



カラ元気を出した絵里花の、いつものように明るい挨拶が史料館の研究室に響き渡る。



「……誰?」



お茶を飲んでいた副館長の目が点になる。いつもとはまるで別人の絵里花を、絵里花だと分からないらしい。



「望月です。副館長」



絵里花がそう言うのを聞いて、副館長は驚いて息を呑み、お茶を気管に詰まらせて激しくむせた。


副館長のこの露骨な反応に、絵里花もいささか腹が立ってしまう。でも、まだ反応してくれるだけマシで、きっと史明に至っては、反応どころかそこにいることにさえ気づいてもらえないだろう。

そんなことを思いながら、絵里花は収蔵庫へと向かった。



「おはようございます」



絵里花がそこに姿を現わすと、いつもは生返事をして、まともに目も合わせない史明が、一度通り過ぎた視線を絵里花へと戻した。



「……君、なんだかいつもと違うな……」



と、つぶやく史明の反応に、絵里花の方こそいつもと違うものを感じ取る。

その〝違うもの〟を追いかけるように、史明のいつもと変わらないビン底メガネを見つめ返した。



「君がこんなに綺麗な人だったなんて、今頃になって初めて気づいたよ」



それは、史明の思ったままを語った、何も飾ることのない言葉――。


絵里花の心臓が突然ドカンと跳ね上がり、うろたえた絵里花は思わず視線を逸らしてしまう。すっぴんの顔が赤くなっていることを隠すのに必死で、古文書から目をあげられなくなった。



――……岩城さんって、ズルい……。



〝そんな気〟は全くないのに、あんなことをサラッと言ってのけてしまう。史明の素直で純粋だからこその言動に、絵里花の心は物の見事に翻弄された。





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