4話「ダーリアン」
「おはよ、シェリア」
「あ!レンおはよ~」
「怪我の調子はどう?」
「うん!痛くなくなったよ!」
「最終検査が終わったら退院できると思うわよ」
やった!ついに外に出られる! 霧の町!
……
二人で話していると病院の院長先生が入ってきた。
「あ!先生!」
「傷の検査に来たよ」
「はい!お願いします!」
私は素足をピィンと出した。
先生が私の足を触り傷口を見る。
「ふむ、傷口はふさがったようだね。しかしやはり、我らと同じ…か」
「え?」
先生が私の足を触り、無言でじーっと見ている。
えっ!?
………
「あ、あの!?」
「コホン」
レンが咳払いをする。
「あ!すまんすまん」
「先生、興味があるのはわかりますけどそれ以上しているとやばい絵ですので」
「そ、そんなことはない!」
「あはは、先生は私の事心配してくれているだけだよ!」
「そうかしら」
呆れ顔のレン。
「そうだぞ!まったく、いらん誤解を招くところだよ」
『研究熱心なのはいいですけど怖がらせちゃ駄目ですよ?』
『わかってるよ。しかし人間……』
「ん?」
今なんて言ったのかな?
「シェリアちゃん、今日で退院していいよ。ただまだ激しい運動は厳禁だ。荷物はレンに持ってもらいなさい。」
「はーい!」
「あなた小さいのによくこんな荷物持ってたわよね。運ぶ時大変だったわ」
「う、ごめん」
観測機器や私の私物がつまった。リュック。中身は奇跡的に無事だった。
「退院したら私の家にいくわよ。シェリアの部屋作らないと」
そうだった。シェリアのお店の手伝いをするんだ。
「治療費、入院費払ってもらうからね!」
「うん!がんばるね」
………
いよいよ退院だ。
「先生!おせわになりました。」
「病院の食事はお口にあったかな?また良かったら検査とか受けにきておくれよ?」
病院食は芋という少し甘い作物で作った『ガネ』という揚げ物と不思議な味がするスープだった。
レンのご飯の方が好きだけどこっちも美味しい!
「はい!美味しかったです。初めて食べました」
「そうだろうね。ここにはじめてくる人はあの芋の虜になるらしい。町ではもっと美味しいものがあるから楽しんできなさい」
「はーい!」
私の頭の中は研究よりまだ見ぬ食べ物一色になっていた。
「では!ありがとうございました!」
院長室を出る。
レンが待ってくれているから急ごう!
………
『年齢相応で悪い子じゃないよねえ、しかしウラオモテ、ポートロイヤルの歴史では……人間との接触はまだない』
院長は首に手を当て窓から外を見る。
そこにはレンに連れられて町に向かう。シェリアがいた。
『彼女も僕たちの親達のように向こうから流れてきた者なのかもしれないね』
『先生、なんだか悪役みたいですね』
看護師が苦笑いする。
『おっと僕は政治家じゃないからね!単純に種族への興味だよ。』
『役場に連絡しておいた方がよかったんじゃないですか?』
『子供を怖がらせるのはね……あの容姿だと遅かれ早かれバレるよ』
『綺麗な水色の髪でしたね』
『人間の髪の色ってあんな色になるものなんだね。実に興味深い』
『ふふふ、引き止めてたほうがよかったんじゃないですか』
まるで子供のように目を輝かせる院長であった。
………
「わああ!」
病院から出るとレンガ作りの町並みが広がっていた。
お店がいっぱいある!
窓からは見ることができなかった通りは活気にあふれて赤、赤、赤の髪の人たちがいっぱいいた。
赤?
「レン達とは違う色の髪が多い?」
「ダーリアン達の事?」
「え?」
「今は私達より多いからね。近隣の村から出てくる人が多いのよ。」
「ダーリアン?」
「うん?何か変かしら?」
レンは知らないのかな。
「彼らは奴隷なの……?」
「えっ?【奴隷】ってどういう意味?」
「ダーリアンって農業奴隷って言葉だよ。ニオ・アスケイアではもう無くなったけど」
「私のダーリアン語もまだまだね……農業まではわかったんだけど」
どういうことなの?
そこに一人の女の子が近づいてきた。
「やっほーレーン」
「あ!ニア!いいところに来たわね。紹介するわ。この子がシェリアっていうの!」
赤い髪、長い耳をした女の子、ニアっていうらしい。
「はじめましてー!ニアです!この子がレンの言ってた子か~」
私の顔をじーっと観察される。うっ。
「あ、ごめんごめん~あたしはニアって言うの!焼き芋販売のアルバイトしてるの」
「出稼ぎダーリアンね」
あっ本人にダーリアンって…
「そういうこと~よろしくね。わー水色の髪って凄い綺麗ね!」
しかも平然と会話している。
「あ…私はニオ・アスケイアのシェリアっていいます……」
「シェリア?緊張してるの?」
レンがキョトンとしている。だって…
「あのう、ダーリアンなんですよね?」
「そーだよ?ほら耳長いでしょ~?」
ニアは耳を引っ張る。
「わ、すごい」
耳が長い人って初めて見る。ビヨンビヨン。
「はっ!」
そうじゃなくって!
「ダーリアンって大変ですよね?」
「?」
「シェリア、もしかして何か勘違いしてない?」
レンが不思議そうにみている。
「ダーリアンって種族の名前よ?」
「うん。そーだよ」
「うえええ!?」
「私達は誇り高きダーリアンだよ!」
じゃじゃーんとニアがポーズを取る。
「畑作業が嫌でここに来たのによく言うわね」
レンが呆れている。
「だってさー都会って働くって憧れるじゃない。でも焼き芋売ってるから大丈夫!」
「ダーリアンってどういう意味なんでしょうか?」
「ん?土の民って意味だけど、レン、シェリアってどこの人なの?」
ニアが不思議そうにそう答える。
「それがよくわからないのよね」
「アスケイア語とはちょっと……違っていたようです…」
恥ずかしい、勘違いしてた。
「アスケイア語?聞いたことないわねえ?」
あなた達が喋っている言葉だよ~ほとんど同じなのに!
「あんまり興奮しちゃだめよシェリア、これからゆっくりと『ウラオモテ』に慣れていきましょう?」
私がプルプルしているのを察してくれたのかレンが撫でてくれた。
「……はぁい」
「お姉さんみたいだねーレン」
「ね!かわいいでしょこの娘!」
なでなでなでなで
「うー」
私が歳上とは絶対に言えなくなってしまう。
でもいいかな。