3話「国語とお芋」
私はイチマル レン、この町『ウラオモテ』の住民よ。
家は雑貨屋をやってます。
今は買い物途中で出会った女の子「シェリア」のお見舞いに病院に来ているわ。
あの子かなり変わってるわね、この町にボロボロな格好でたどり着いたみたいだし。
あの様子だと保護者は来ていないのかしら…
お見舞いの後、家に帰ろうと廊下を歩いていると院長先生が話しかけてきた。
『蓮ちゃん。今いいかな』
『あら?先生どうしたんですか?わざわざ国語使うなんて』
おかしいわね。病院では国語を使うことは少ないはずなのに。
私は疑問に思った。まあ私も話せるからいいんだけど。
『あの子、シェリアちゃんの事なんだが』
『シェリア?どこか悪いんですか?』
『いや、そうじゃない。あの子、エルフじゃないぞ』
『先生!今はエルフって呼んじゃいけないんですよ、ダーリアンって言わないと…えっ?』
シェリアがダーリアンじゃない?
『え…でも水色の髪が凄く綺麗でしたけど。私たちの髪とは色違いますよね?』
『そうだな、でも私はまだあの色のダーリアンは見たことがない。それにだ…』
『それに…?』
『あの子、私たちと同じ耳の形をしていたよ。』
『同じ耳…えっ!?』
髪に注目していて気が付かなかった。
ウラオモテ町辞典…『ダーリアン』
『ダーリアン』とはウラオモテ町の近隣の村落の住人の種族名である。
赤、紫、桃色など赤味がかった色の髪の色を持ち、目も同じく赤い。
その耳は我々が知るファンタジーの『エルフ』の耳の形をしている。
そのためこの町の住民から当初『エルフ』と呼ばれていたが
彼らは聞いたこともない、よくわからない種族名を嫌がり『ダーリアン』(土の民)と名乗った。
現在、ダーリアンはウラオモテにかなり定住している。
食物生産といえばダーリアンの協力抜きでは考えられないだろう。
この町では共通語としてダーリアン語の取得は必須になっている。
『先生。彼女はいったい何者なんですか?』
『わからないが確実に言えるのは、彼女はダーリアンではない。
髪、目、耳といい、ダーリアンの特徴とは違いすぎる、むしろ…容姿は私たちに近い』
『だけど彼女をこの町で見たことないわ、それに彼女はダーリアン語で話しています、たぶんダーリアンですよ』
『しかし新種族だとしたら六十年ぶりの大発見だぞ!!臓器も調べたほうがいいかもしれん』
先生が大興奮している。
ちょっとやばいので注意しておこう。
『先生あんまり、シェリアをどうにかしないであげてください、あの子さらに混乱して泣きますよ』
『うっ、これから君とシェリアはどうするんだい?』
『シェリアはうちに泊めます』
『おや、どうしてだい?』
『あの子はお金持っていませんでした。』
『この商業の町に来て無一文とは変な話だね』
『そうですね、私が立て替えたんです』
『どこの誰とわからないのにそこまでするかい』
『あ!でもちゃーんと店で働いてもらいますよ!』
『そりゃお気の毒、でもちゃんと気を付けるんだよ、正体不明だよ?』
『たぶん大丈夫ですよ、変な子ですけど…妹みたいで可愛いです』
『そうかい、呼び止めてしまって悪かったね』
『いえ、さようなら先生』
------
先生と別れて病院から出るともう夕方だった。
ふと見ると道端に移動式の屋台が来ていた。
これは石焼き芋屋だ。
おなかすいたな…
そう思って見ていると売り子が話しかけてきた。
「あ!レン!焼き芋買っていかない?おいしーよ!」
赤い髪、赤い目、長い耳、ダーリアンの少女だ。
さっき先生から聞いた話を少し思い出して私は彼女の顔を見た。
彼女は私の友達のニア。近所に部屋を借りて石焼き芋販売のバイトをしている。
焼き芋はこの町で代表的なスイーツだ。
「知ってる。ニアじゃない。いいタイミングね、一個もらおうかな」
「まいどありがと~」
お金を渡すとアツアツの芋を受け取った。美味しそう。
私は焼き芋を食べながらニアと話すことにした。
「ニア、あんた耳が短い青い髪のダーリアンって知ってる?」
「え~?知らないよ、てかそれって私達じゃなくない?
「そーだよね」
「どーしたの?見てはいけないものでもみてしまったの!?」
「そんなわけ……そうかも」
「え?マジ?」
「マジマジかなりヤバいわよ」
……
「ま。そのうちあんたにも紹介するわよ」
「紹介って何!?ちょっと怖いんですけど!」
ニアがビビってる。面白い。この子怖い話苦手だったかな。
もぐもぐ
「お芋おいし」
明日から何かが起きるのではないか、そんな不安を消してくれるような甘さだった。