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プロローグ:左遷

 朝早く、立派な王城と正反対に随分と寂れたオンボロの門の前に俺は長く待たされてうんざりしていた。


 やがて遠くの方から馬の足音が聞こえ、それに乗る金髪をなびかせたイケメンな男が俺の眼の前でピタリと止まる。

 男は馬から華麗に降りると、ズビシッと俺に指をさし、またしても華麗な声で告げた。


 「君は今日から辺境の辺境っ!ラシア村に行ってもらう!左遷だぁ!」

 「王子!左遷の事は内緒ですぅっ...」

 「左遷だああぁ!!」


 ドンッ!!!と某海賊漫画の効果音が聞こえそうなぐらい胸をはる。

 俺の頭は、側近の人可哀想だなぁ....とぐらいしか考えていなかったのも知らず....。



 ーーーーーー



 ガタガタ....と小刻みに揺れる馬車の中で俺は頭を抱えてうずくまっていた。


 な、なんでぇ左遷!?

 そりゃまあ異世界召喚されたのに生産職だったけどさっ!?左遷って....。




 俺達が異世界召喚されたのは3日前の出来事だった。

 そう、俺達なのだ。

 残念なことに俺だけでなくクラス全員が異世界召喚を経験した。


 そりゃ召喚当初は混乱したが、運良く某異世界転生のスペシャリスト達が集う小説サイトを見ていたおかげで俺は異世界召喚だと認識できた。

 これから俺の勇者人生始まりだぁヒャッホウ!とか思ったのもいい思い出だ。


 だが、そう。そこから俺の悲劇は始まった。そりゃもう全米が泣くぐらいのな。

 

 俺達は混乱が収まるとある部屋に通された。そこが人生の分岐点。

 ステータスを測る部屋だったのだ。

 俺達はテンプレ通りの薄透明な青の水晶に次々と手をかざしていった。

 クラスの人気者である七瀬君は原住民もビックリなトンデモステータスを叩き出していたし、クラスの紅一点な神奈ちゃんも現代の医者ビックリなトンデモ僧侶だった。


 そして問題の俺。

 俺はそりゃもう希望を持って手をかざしたさ。

 勇者かな?賢者かな?それとも剣闘士かな?とかそりゃもうワクワクしてね。


 そして残酷に浮かび上がった文字。


 【無月 康夜 なづき こうや:農家】


 なんで農家だよっ!!??

 せめて生産職なら錬成師とか来いよ!?


 と思っても時はすでに遅く、俺は突如現れた強面のオジサン達に連れて行かれ、泣きながらクラスメイト達と別行動を強いられたのであった。


 さらに思い出すは尋問の日々。

 強面のオジサンが目の前に座って「なんでぇお前農家なんじゃぁ?あ"ぁ"ん?」とかなんとか言われるんだ。

 夢にまで出てきたよあのオジサン....。



 そんなわけで憧れの異世界は俺に対して超シビアでした。

 な?全米が泣きそうだろ?少なくとも俺は泣く。


 「ギャッハッハッ!お前盗賊に襲われたって本当かよダセェなぁ!俺なら逆に襲ってやるぜぇ!ハッハ!」


 俺が馬車の隅で現実逃避しているとタクシーの運ちゃんジャイアンverみたいな男が威勢良く笑う。

 人が落ち込んでんのにうるせえ奴だ。


 うるせえな、と注意をかけようと俺は席を立ち、運転席を覗くと強烈な匂いと同時に信じられない光景に俺は目を疑った。


 「な、なんで酒飲んでんだよ?」

 「おっ、お前は噂の『残念な農家』か!お前も一杯どうだ?」


 どんな噂だよ....。と心の中でツッコンでおくと同時に差し出された瓶を押しのける。


 「おいおい、運転手が酒飲んでいいのかよ....?仮にもお前ら王城御用達だろ?」

 「ハッハ!お前さん何か勘違いしてやがるぜ?俺らは民間の馬車貸し。それも粗悪な奴らが乗るなぁ!」


 な、なんだと.....!?そういえば王子は一言もコイツと喋っていなかった。

 くっ....アイツら.....。


 「・・・乗せてやってるだけ幸運と思え」


 傍からいきなり出てきた根暗な男に一瞬ビクリとする。

 運ちゃんはこいつに喋ってたのか。てっきりタチの悪い独り言かと思ってたぜ....。


 「そうだぜ?俺らが欲に溺れてテメェの身ぐるみはがない事を幸運に思った方がいいぞ?」

 「ぐっ......」


 本当にされそうなので大人しく座席へと引き下がると前から一際大きな笑い声が聞こえたが無視しよう。無視!


 

 俺は両手で耳を塞ぐと同時に、異世界生活のお先真っ暗な状態に絶望するのであった。

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