「退屈」 私の生きる世界はまるで、魔法使いの来ないシンデレラのよう
「はぁー……ひーまーだーなー」
ある日の放課後、私は誰もいない教室で一人、物思いに耽っていた。というか、暇を持て余していた。
今日は掃除当番であったため、みんなで掃除をしていたのだが、その内の一人である天王寺華鈴に、なにやらトラブルが起こったらしく、それを聞いたイケメン転校生・神楽坂真が飛び出して行ったため、私が一人、この教室に取り残されることになったのである。他のみんなは面白がって後を追っちゃうし。
天王寺さんはこのクラス、いや、学年、下手をすれば学校一の美少女である。イギリス人かなんかの祖父を持つ、いわゆるクォーターというやつであり、地毛の金髪を靡かせて歩くその姿は、どこか高校生離れしているようにも感じられる。
容姿端麗、頭脳明晰な才色兼備、しかしたまに見せる子供っぽい性格にやや難あり……かと思いきや、それさえギャップとして魅力に変えてしまう、根っからのヒロイン体質である。
そしてそんな彼女のトラブルに颯爽と駆け付けたイケメンが、このクラスにやってきたばかりの転校生、神楽坂くん。
始業式から二週間も経った、かなり妙なタイミングでの転校ということで、これはこの高身長イケメン、なにかあるぞと思われたが、まあきっと、その辺りは天王寺さん達となんやかんやするのだろう。
きっと、関係のない話だ。少なくとも、私みたいなやつなんかには。
この学校に来てからずっと一緒にいるとはいえ、最近出会ったばかりの女の子のために自分のことも顧みず飛び出していってしまえる(まあ結果的に後始末をしたのは私なわけなんだけど)ということは、彼はきっと外見だけでなく、内面も素晴らしく良い人なのだろう。まさに主人公そのものだ。
そんな彼、彼女に男子も女子もときめき、憧れた。
私だって、その例外ではない。
でも、住む世界が違うって分かってるから、誰も二人の間に割って入ろうとはしない。
二人はどうやら転校初日に、曲がり角でぶつかっていたらしい。きっと、そういう運命だったのだろう。出逢うべくして出逢ったのだろう。
「ちょっと、期待してたんだけどな……」
突如現れたこの人が、私の世界を変えてくれるんじゃないか、って。
今度こそ、私は今までの私から変われるんじゃないか、って。
なんて、そんな馬鹿馬鹿しいことを考えていてもしょうがないか、と帰ろうとしたのだが、突然の尿意に襲われ(華の女子高生が使う表現じゃない)、とりあえずお手洗いを済ませてから帰ることにした。
ーーと、そして。お手洗いで用を済ませ、鞄を取りに戻ってきた私の目に飛び込んできたのは、なんとーー
さっきまで全く気づかなかった、神楽坂真の机に無造作に置かれた体操服である。
それを見た私の脳裏に、倫理的にしてはいけない行為が頭を過る。
今は放課後。みんな帰って、部活生は部活中。トラブル組だって、まだ解決はしていないだろう。
つまり、この教室に私は一人。しかも恐らく、あと数十分はそれが確定された状況。
(確認するだけ、これは確認、ただの確認……!!)
一体服屋の娘でもない私になにが分かるのか、そもそもなんの確認なんだ、という自分でも良く分からな言い訳を脳内で繰り返しつつ。
私は、ふらふらとその机の前に行き、体操服を手に取りーー
「おい、俺の体操服に、なにしてんの」
その声で我に返った。そして悟った。
ああ、終わりなのだと。私はまだなにもしていないとは言え、未遂だとは言え、現行犯で憧れの神楽坂に見つかってしまったのだと。
どうやら私の物語は、最悪な形で変わっていってしまうんだと思い、それでもどうにか弁明をするため、振り返り見上げた涙目に映ったのはやはり神楽坂まこーー
「……誰!?」
「いやお前が誰だよ!」
ーーではなかった。ただの、冴えない男子生徒Aだった。
それが、私と彼の始めての出合い。
どうやら私の物語は、良かったのか悪かったのか、今までと大して変わりはしないようです。
前回のユウマ視点の話とほぼ同じ時間の、さやか視点の話です。
ようやく五人の登場人物の内、二人が出合いました笑
これからコメディー要素が強くなってくると思いますので、彼らの掛け合いを楽しんで頂けたら嬉しいです