「後悔」 置き忘れられたサッカーボールのような毎日
4月下旬。冬の寒さも終わりを告げ、暖かな風が春の到来を知らせてくる。
高校二年生になって、約三週間が過ぎた。そして、サッカー部を退部してから約2ヶ月が経った。
俺はいつものとおり、放課後部室に向かうことも、グラウンドでボールを蹴ることもなく、鞄を担いで家路へとつく。
吹奏楽部の奏でる音色で溢れかえる校舎を出て、バスケ部やバレー部がボールを床に叩きつける度に振動をする体育館の横を通り、野球部の気合の入った声が飛び交うグラウンドを抜けて向かいの道路へと延びる歩道橋を渡る。
ーーそうか、そういえば今日サッカー部は隣町の強豪校と練習試合だとか言ってたな
グラウンドに馴染みのあるサッカー部の姿が見当たらないことに寂しさと安堵が入り混じったなんとも言えない気持ちを抱きつつ、俺とは違って今もまだ現役でサッカーの練習に明け暮れる元チームメートとの先ほどの会話を思い出す。
ーー俺がいたときは強豪校どころか、どこもうちなんて相手にしなかったのに。
思い出して、俯く。そして考えてしまう。
もし俺があのとき、辞めるなんて言わなければ。
もうちょっと頑張ろうと、気合いを入れ直していたならば。
あるいはそれすらも考えず、決断をずっと先延ばしにしていたら。
ーーもしかしたら俺も、みんなと一緒に、グラウンドに立っていたんだろうか。
「あ、やっべ」
そんなことを考えていたからだろうか、俺は教室に忘れ物をしてきてしまっていることに気がついた。
忘れ物と言っても、ただの体操服なので、最悪明日持って帰ってもいいのだが、汗を染みこませたまま放置しておくのは気が引けるので取りに帰ることにした。
どうせ放課後は暇だったということも、大いに影響しての判断だったのだろう。
この判断が、これからの高校生活に大きな変革、とまではいかないにしても、ささやかな変貌をもたらす出合いに繋がることなど、この時の俺には考える由もなく。
ただ、グラウンドの隅に転がるサッカーボールを見て、「……俺みたいだな」と呟きながら重い足取りで自分が先ほど後にしたばかりの、二年A組の教室に向かうだけだった。