【学生D:平凡なクラスメート】 その異様な日常はいつも、窓ガラスを隔てた向こうで繰り広げられていた
今回は学園小説のような非日常に憧れるクラスメート、中井 蓮視点です。
結論から言うと、「斬新部」は異世界転生や無限ループ、更には魔獣の撃退など、様々な超常現象を経験し、部員同士の絆を深めていった。
そして、その後もまた、何事も無かったかのように部室に集まり駄弁りながらお茶を啜るその光景を僕は窓の外から微笑ましく見ているだけなのであった。
これといった結論という結論が出ていないところも、彼ららしいと言えば彼ららしい。
僕は表紙にデカデカと『中井蓮の物語 』と書かれたノートを片手に、そそくさとその場を去る。
もう僕はきっと、このノートを開くことはないだろう。
そこになにかを書き連ねることもないだろう。
そこに並ぶ文字列を眺めて、満足したような振りをすることもないだろう。
僕はもう、逃げなくていいんだから。
自分の描く理想とはあまりにもかけ離れた現実から。
目を背けて、この白い紙片に精一杯の妄想を詰め込んで、すごいことをした気分になったり、すごい人になったような気持ちになったりする必要だってもう、ないんだから。
僕は斬新部のみんなや、物語の主要キャラみたいにはなれないけど、それでもいい。
こんな僕に本気で向き合ってくれる人間もいるんだって、わかったから。
こんな僕と真剣に付き合ってくれる人達の存在を、知ってしまったから。
あの日の放課後、僕は始めて人に本気でキレられた。
いきなり胸ぐらを掴まれて、大きな声で怒鳴られて、恐くて驚いて、なにも出来なかったけど。
きっと僕は、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、嬉しかったんだと思う。
……これじゃまるで、そういう類いの変態みたいだけど、そんなんじゃなくって。
なんていうか、"僕"っていう存在を認められたような気がしたから。
だから一つの区切りとして、もうこのノートは捨てようと思って、最後に部室を覗きに行くついでに持ってきといたんだけど、それはやっぱりやめておこう。
ーーだってこんなの、もし"みんな"に見られちゃって笑われたりなんかしたら、恥ずかしすぎるもんね。