【学生:D 尋常なヤンキー】 その男の顔も声も、俺はあまりよく知らない。見えていたのは、大きすぎる背中だけ。
今回は、映画のような喧嘩を望むヤンキー 藤崎 武人視点のお話です。
よろしくお願いします。
結論から言うと、入学当初たった一人で暴れていた喧嘩しか取り柄の無かった男は、幾多の衝突を乗り越え絆を築き上げてきた仲間と共に、不良の蔓延るこの町で史上初の頂点を獲った。
ーー俺の、関係のないところで。
その男がチームの仲間たちの中でも特に信頼を置いている数人の幹部に見守られながらライバルと繰り広げた最後のタイマンの結果を、その翌日の学校で喜びはしゃぎ立てる仲間たちに教えられることで、俺は自分の所属するチームの頭がこの町の頂点に君臨することになったのだということを知った。
素直に、嬉しかった。
勝ってほしいと、願っていた。
ずっと、背中を見てきたから。
ーーでも、俺が見ていたのは背中だけで。
顔も面と向かって合わしたことはそれほどなくて。
あの人はきっと、俺の名前も覚えてない。
”藤崎武人”という人間が自分のチームに存在していることを、認識こそしていたとしても、意識なんかはしていない。
そりゃあそうだろう。だって俺は、頭とタイマンを張りその強さに惚れ込んで仲間となった幹部がそれまで作っていたチームに居ただけの奴なんだから。
それでも、俺は頭のことを心から尊敬し、信頼していた。いつか絶対、頂点を獲る男だと信じていた。
頭は強くて、仲間想いで、なにより、すげえ格好良かった。
俺もそんな男になりたいと思っていた。
けど、俺なんかがなれないこともわかっていた。
そして今は、なりたいとも思っていない。
俺みたいな半端な奴は、放課後喧嘩に明け暮れたり、抗争を起こしたりするよりも、適当な奴らと、適当にハンバーガーでも食べながら、適当な話でもして。
背中なんかじゃなくて、面を合わせて、名前を呼びあい、笑いあって。
互いの存在を意識して。
何事もない平穏な日々を過ごす方が合ってるんだって、気づいたから。
そういうしょうもねえ日常の居心地の良さを、知っちまったから。
ーーかけがえのないものって奴は、案外そういうところにあんじゃねえかって、感じちまったから。
俺がもし頭みてえなすげえ男だったとしたら多分、俺はあの日のあの時、一人で校舎裏なんかに行かなかっただろう。
そこに居たあいつの言葉に、苛立つようなこともなかっただろう。
あいつらと関わることなんて、永遠になかっただろう。
だったら、俺は強さも名誉も何もいらない。
このどうでもいい日常だけで充分だ。
ヤンキーキャラということで、セリフ回しなど、いつもよりも少し難しかったのですが、違和感など感じましたらご指摘いただければ嬉しいです。