それは少年少女の、夢のような夢
今回は三人称で書いています。
前回までとはまた違った、番外編のようなものです(だったら早く本編進めろ)。
このような形式の話は時々織り混ぜて行くと思いますので、よろしくお願いします。
「おい、ボールこっち渡せ!」
春の陽気に包まれたある日の放課後、グラウンドからはそんな和やかなものではない、まるで夏の猛暑のような熱気を放ったサッカー部の活気溢れる声が響いていた。
その中でも一際大きな声で自分にボールをパスしろと叫んだ少年は、ボールをもらうと相手のディフェンスを綺麗に交わしながら、見事に勢いよくゴールを決めた。
「よ……っっしゃぁぁ!!」
雄叫びを上げガッツポーズを取る彼の周りにチームメイトが駆け寄り、称賛の言葉を送りながら背中をバシバシと叩いたり、頭を掴み髪をくしゃくしゃとして喜んでいた。中には、目に涙を貯め必死に泣くのを流すのを堪えている者までいる。
それもそのはずである。
去年まで弱小呼ばわりされ、それほど部活動が盛んでもない学内でも底辺クラスにいた彼ら天布令高校サッカー部が、この地区最強の強豪校、全国区の実力を誇る天王高校に、勝利を確定させる得点を決めたのだから。
ほどなくして試合終了の笛が鳴り、歓喜の声を上げて拳を握りしめる天布令と、悔しさを露にしながらもどこかやりきったような、満足そうな顔をしている高校の両チームが整列する。
そしてお互いのキャプテン同士が握手をし、労いの言葉を掛け合う。
「あー、負けちまったー! くそー、次はゼッテー勝つかんな!」
「うちも次だって負けませんよ。必ずまた俺たちが勝って、全国に行きます!」
「おー、言うねぇ。夏の試合を楽しみにしてるよー!」
「はい! それまでに、もっと強くなりますから!」
握る手に力を込め、夏の試合での再戦と、そこでの再びの勝利を宣言した彼はとても逞しく、頼もしく、その姿はまさしくーー
ーーまさしく、主人公であった。
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「すげえな、サッカー部。マジで勝ちやがった」
夕焼けが差し込む放課後の教室。
窓側の席に座り、グラウンドのサッカー部の練習試合を見ていた少年は、驚いたようにそう呟いた。
「へー、勝ったんだ。良かったじゃん」
対して、その少年と机を挟んで向き合う形で座っている少女は、どこか退屈そうに吐き捨てる。
恐らく、彼がグラウンドの方ばかりを気にかけ、自分の相手をしてくれないことに拗ねているのだろう。
しかし鈍感なのかわざと意地悪をしているのか、少年はそんな乙女心などまるで気にせず、どこか冷めている彼女に詰め寄る。
「良かったじゃんて、お前なぁ。これがどんなにすごいことか分かんないの?」
「分かんないわよ」
「はぁー。これだから女ってやつは……あのな、天布令が天王高校に勝つってのはーー」
「そんなことよりさ、神楽坂くん」
今から熱弁しようとした話をまたもや冷めたトーンで「そんなことより」と切り捨てられたことに対して何かを言おうと少女の方を向いた神楽坂という少年であったが、彼女の目の奥になんらかの決意を見て、口を閉じた。
何も言えないでいる神楽坂に替わり、少女は意を決したように口を開き、言葉を絞り出す。
「今度の週末にあるお祭り……一緒に行かない?」
それは少女の、精一杯の勇気だった。
しかしその申し出に対する返事は簡潔極まりないものであった。
「当たり前だろ。お前以外、誰と行くってんだよ」
馬鹿にされてるのかからかわれているのか、と一瞬勘ぐったが、「そんな真剣な顔してっから何かと思ったぜー」と笑う神楽坂の様子を見て、今の言葉が嘘でも冗談でもないことを確信し、嬉しくなる少女。
彼女は彼と過ごすそんな時間が、たまらなく幸せなのだった。
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「あー、今頃この学校でもどっかの教室で、いちゃこらしてるカップルがいるんだろうなー。いいなー」
体育倉庫の三段跳び箱の上に座って、髭面の男がぼんやりと呟く。
「またお前はそんなことばっか言ってやがんのか。ケンが幹部集会から戻ってくるまで、大人しく待ってろよ」
壁にもたれかかりながら腕を組んで立っている短髪の男が、髭面の言葉を指摘する。
「てかさー、どーでもいいけどケンちゃんちょっと遅すぎじゃない? 俺今日デートあんだよねー」
気だるそうに、茶髪のチャラ男風イケメンがマットで寝転びスマホを弄りながら言う。
「お前今日もデートすんのかよ! 昨日もしてただろうが!」
「昨日はユミちゃんね。今日はマナちゃんだから」
「あー、なんでお前みたいな軽薄な奴がそんなモテんだよ! くっそ、俺にも一人くらい紹介してくれよ!」
「……別にいいけど、意味ないと思うよ」
「どーゆー意味だこらぁ!!」
「おい二人ともやめろ! うるせえな!」
小競り合いを始めた髭面とチャラ男を短髪が仲裁しようとしたその時、体育倉庫のドアがガラッと開いた。
「……ん? 何してんだお前ら、また喧嘩か?」
そんなことを言いながら入って来たのは、金髪の頭をガチガチに固めた男だった。
「ケン! お疲れ……って、どうしたんだその顔?」
短髪が労いの言葉をかけるのと同時に指を指して指摘した顔は、右目が少し腫れ上がり口元からは血が出ていた。
「ケンちゃん遅いーって思ってたけど……そっか、また誰かと喧嘩してきたんだね。そりゃしょうがないや」
スマホから目を離さず呆れたような表情を見せるチャラ男。
「がははっ、さすがはケンだぜ! で、どうなったんだよ?」
楽しそうに笑う髭面。
そんな三人の言葉を受け、金髪が切れて動かすのも痛そうな口を開く。
「あぁ。やっぱりちょっと上と揉めてな……。佐々木とタイマン張ってきた」
その言葉に驚いた顔で息を呑む三人。
佐々木と言えば彼らが所属するチームの全体の序列でも上から数えた方が早い大幹部である。
もちろん喧嘩の腕も相当なものだ。
さすがにスマホを弄るのを止め、顔を上げたチャラ男が続きを促す。
「それで……どうなったの……?」
そこで金髪はニヤっと口の端を釣り上げ、告げる。
「今回の件、俺らで片をつける」
それは、金髪の勝利を意味していた。
「ま、当然だな。で、いつ行くよ」
「今日。今からだ」
「了解」
金髪の勝利を当然として受け止め、唐突な出陣にも即決で返事をする金髪。
続けて、髭面とチャラ男も立ち上がる。
「がははっ、やっぱり喧嘩が一番だぜ!」
「やれやれ、今日のデートは中止だねー」
この四人は、固い信頼関係で結ばれている。
「行くぞ」
金髪の不良男はそんな三人を眺め、「こいつらさえ要れば他に何もいらない」と心中で思い、ライバルチームとの喧嘩へと向かうのだった。
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「あーあー、不良達は今日も元気だねぇ」
体育倉庫近くの部室棟の一室で呑気にお茶を啜り何やら真剣な表情で窓の前を通っていく四人組の不良を眺める少年。
「けっ。どいつもこいつも俺の敵でもねえってのに、よくやるぜ」
天井から吊るされたサンドバッグに拳を打ち込みながらつまらなさそうに窓の外の不良達を睨み付ける背の低い少年。
「あらあら、恐い顔をしてどこに行くのでしょう。なんならうちのリムジンで送って差し上げますのに」
気品を漂わせながら優雅に紅茶を飲みつつ、お嬢様感溢れる発言をする少女。
「ねぇ、でも一番前歩いてた金髪の子、ちょっとカッコよくなかった?」
一人キャピキャピとする、声含めどこから見ても可愛い女の子にしか見えない少年。
「まあ、彼らには彼らの『面白いこと』があるんだよ、きっと。価値観が僕達らとは違うだけで」
そんな個性溢れる彼ら彼女らを見て満足そうに微笑む、小柄で気弱そうな少年。
「おい、チビ。にやにやしてこっち見てんじゃねえよ気色悪ーな」
「ごめん掌拳寺くん。……でも、背は君の方が低いよね」
「あぁ!?」
「あの、すみませんがどなたか少しだけお金を貸してはいただけないでしょうか……? このままでは私、晩御飯を食べ損ねてしまいます……」
「宇和島さん、さっきまでお嬢様モードだったのに……。また貧乏になっちゃったの?」
「はい、今お父様から連絡がありまして……。家の高価な物は全て売り払い、それでもまだ厳しい状況のようです」
「サッちゃん、この墜ちる瞬間いつ見ても可哀想……。そしてレンレンはいつ見ても可愛い!」
「ありがとう、双子崎さん。……でも、男の子なんだよね……」
「うん、僕は男の子だよ! 心は女の子だけどね!」
「はい、雑談はその辺にして」
個性の塊のような各個人が、自由に喋り続けるのを一旦制止するお茶を飲んでいた少年。
「とりあえず、今日の議題を伝えてくれよーー会長」
そう言って、小柄な少年の方を向いた
「うん。ありがとう、潜間くん。今日の議題はーー」
こうして今日も、【面白いものを求めて、さらに自分達や一応学校、ついでに世界の面目も上げちゃう部活】その名も"面目部"の活動が始まるのであった。
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「おー、爆発した」
炎を身に纏った少年が、部室棟で突如起こった爆発を見て楽しそうに呟く。
「もう、何見てるんですか。パトロールに集中してくださいっ!」
そんな少年を叱りつける、中学生にも見える少女。
「いやいやでもよー、あっこで爆発があったんだぜ? それこそ出動対象だろ?」
「あそこは別にいいんです! いつもあんな感じですから。さ、パトロールを続けますよ!」
「はいはーい。……てか、あの爆発を『いつものこと』で見逃すのに、パトロールなんかして意味あんのか……」
炎の少年にしてはなんのことはないぼやきだったのだが、それが少女には聞き捨てならないことであったらしく、大きく振り返って声を荒げた。
「ありますよ! もちろんっ……!」
そして唇を噛み締め、涙を目に貯めながら更に語気を荒げる。
「もう、私みたいな想いをする人は、出したくありませんから……!」
言いながら震えてしまっている彼女の頭にポンポンと手を置き、その暖かな手で涙を拭いながら、炎の少年は少女にの目を見る。
「そっか、そうだったな。よし、じゃあいっちょ張り切って、パトロールすっか!」
わざと明るく元気に叫ぶところに彼の優しさを感じながら少女は頬に残る熱の温度に触れる。
(もう、あんな想いをする人は出したくない。私のことは仕方がない。どうやったって時間は巻き戻すことは出来ないんだから……でも)
その先は例え心の中であっても考えるのを憚られたことをしかし、彼女は想ってしまう。
(……でも、こうなって良かったって思ってる自分がいる。我ながら本当に最低なことだけど、彼の手が。声が。熱が。届くところにいられることが、嬉しい。傍にいられることを、幸せに感じてしまっている)
勢いよく走り出した彼の背中を見失わないように追いかけながら、ふと彼女は考える。
(もしも彼が手の届かないところに行ってしまったとしたら、私は一人でも、彼の姿を求めて放課後この校舎を歩くのだろうか。彼を思い出しては胸が締め付けられ、孤独な日々を過ごすのだろうか。それとも全く別の、新しい仲間に巡り会えるのだろうか。……そして、もし)
少女は考える。結論など出せるはずのない問いの答えを。
しかし近い未来に、どちらかを選ばなければならないことになる残酷な選択を。
(もしも時空超越の異能力者が現れて"あの事件"より以前に戻れるとしたらーー私は心地の良いこの『現在』と彼と過ごせるであろう可能性の大きい『未来』を捨てて、『過去』に戻るのだろうか)
少女は考える。答えたくもない問題の正解を。
しかし既にはっきりと、もう出してしまっている見て見ぬ振りする自分の気持ちを。
炎のヒーローの熱を感じることのできる、その場所で。




