アレクサンダー (山田桜) の放課後異能散策 ~ワクドナルドに居合わせた五人の少年少女~
「ハンバーガー1つと、カルピスのSサイズをお願いします。店内で。……え? スーパージャンボビッグワック? いやいや、そんなのおすすめされても私一人じゃ食べきれませんて!」
珍しく濃厚だった放課後異能散策を終え、私は予てより贔屓にしている、大手ハンバーガーチェーン、ワックで注文をしていた。
そこで店員さんに勧められた新発売の超特大バーガーは、手に持つと逆にこっちが食べられてしまいそうなほどのおぞましい巨大さでした。
私はコンプレックス、とはいかないまでも、この小柄でちんちくりんなボディに自信は持っていないのであまり言いたくありませんが、どうして店員さんはこんな私がそれを食べられると思ったのでしょう。今日一番の謎かもしれません。
「んー。おーいーしーいー」
注文を待つために並んでいると、店内から、聞き覚えのある声が聞こえてきました。
……まさか、と思って見てみると、そこには先程の男子生徒と、変態子さんが仲良くハンバーガーを食べていました。
しかも、変態子さんが幸せそうに食べているのは、先程おすすめをされた、顔を覆い尽くしてしまいそうな殺人バーガーでした。
……なるほど、彼女が頼んであんなに頬張っていたから、私にも勧められたということですか……。
1つ謎が解けたところで、しかし、男子生徒との廊下での会話と、その時に発した言葉を思い出し、申し訳なさに胸が締め付けられてしまいます。
『あなたと、一緒にしないでください』
そんな、至極偉そうなことを言って彼の言葉を拒絶した私を思い出して。
その後の、目指すヒーロー像とは程遠い、何もできずに立ち尽くすことしかできなかった自分を思い出して。
「ていうか、絶対に顔合わせらんないですよね……」
そう思い、元々小さい身体をさらに縮こめて、レジの前にある座席に身を隠すように二人の様子を伺いながら、
(あぁ、私って、つくづく小さい人間だなぁ……。身体だけじゃなくって、人間が)
と、自己分析というか、自分自身の小さすぎる器の採寸作業のようなものを終え、考える。
自分自身について。
自分の置かれた環境ーーもとい、置かれることのなかった環境の認識について。
アレクサンダーこと山田桜が、照れや恥じらいを感じつつもアレクサンダーを名乗るのは、その昔、怪物に襲われそうになっていたところを助けてくれた炎使いのヒーローに、少しでも近づきたいからです。
私、山田桜は中学生の頃、ファンタジーアニメのような事件に巻き込まれ、怪物に襲われました。
そしてそれから、その時に助けてくれた紅蓮の炎を纏う"彼"を探す私の長い長い捜索活動は始まったのです。
ですが、"彼"を見つけるどころか、その手掛かりすらも全然掴むことができないままに、一度諦めてしまいました。
ーーしかし、ある日のこと。高校に入学した、初日。
"彼"の存在を、あの『炎』の感覚を、久しぶりに私は、感じました。
そして、一筋の「希望」が生まれたのです。
"直感"というのでしょうか。
きっと多分、いえ、確実に絶対間違いなく、私の通う高校ーー私立天布令高校に。あるいは、その周辺に。
"彼"はいるーー!
それは、この数年間ずっと、どれだけ探しても得ることのできなかった彼に関する、たった一つの手掛かりでした。
実際には、手掛かりと呼べる程のものですらない、ほんの小さな、一握りの可能性でしかないのですけれど。
それでも、たとえ一握りでしかなかったとしても。
それに縋るしかないのです。
私は"彼ら"のような特別な人間ではないし、なれるとも思えないけどーーただの、モブでいるつもりはありません。
『私は絶対彼に会い、彼と話し、彼に恩返しをする』
そんな身勝手で分不相応な決意を胸に、山田桜は再び、一度捨てたアレクサンダーの仮面をもう一度被り、"彼"を探し続けると決めたのです。
しかし。
現実は、この虚構のような現実は、やはり甘くはありませんでした。私はあれから、"彼"には一歩も近づけてはいません。
それどころか、何の成果も、変化も得られていません。
そう、何もーーいや。
あった。確かに、一つだけ、ありました。
「あー、腹減ったなー。今ならなんでも食えそうだぜ」
「そうだね。僕も、今なら食べ物だとなんでも食べられる気がするよ」
「……そんな言い方されちまったら、まるで俺は食べ物以外でも食べようとしてるみたいじゃねえかよ」
と。
仲良く雑談をしながら店内に入ってきた二人の男子高校生の声によって、私の思考は一旦とまりました。
みると、そこに居たのはさっき不覚にも(アレクサンダーで)話してしまった気弱そうな覗き少年と、その少年に校舎裏で暴力を振るっていたヤンキー生徒でした。
……ていうか、なんでそんな二人が仲良さげに、まるで旧来の親友みたいに和やかに会話を弾ませながらファーストフードを食べに来てるんですか。
これはあれですか?「へ、やるじゃねえかよお前」 「そっちこそ」みたいな、拳で語り合った的なあれですか?
正直そんなの、ヤンキー映画だけの世界かと思ってましたが、男の子っていうのは分からないものです……
どうみても覗き少年の方は、そんなタイプには見えないんですけど。
「あ、ていうか、やばいやばい! 隠れないと!」
ここで顔を合わせるのはまずい(私のメンタル的に)と思い、レジから見えない奥の方へと姿を隠します。
変態子さん達からも隠れないといけないので、すごい変な姿勢で、ちょっときついです。
「だーかーらー、さっきのは俺が悪いから、ここは俺が払うって言ってんだろうが」
「それは駄目だよ。元々、怒らせてしまったのは僕のせいなんだから……。どうしてもっていうなら、武人くんが僕のを払って、僕が武人くんのを払おう」
「それだと意味ねえだろ。ったく、分かったよ、もうどっちが悪いとか、そういう話はなしだ。それでいいんだな?」
「うん。ありがとう」
「はっ。意外と頑固なとこあんじゃねえか」
…………なんでしょう、この気持ち。
『羨ましい』などと、思っているとでもいうのでしょうか。
覗き魔少年もあの男子生徒も。
おそらく、変態子さんやこのヤンキーさんだって。
他の人達とは違う存在ではあるのでしょう。ただの"モブ"ではいられない想いを、それぞれ持っているのでしょう。
でも、私と同じだとは思いません。
だって、だってだって彼らのやっていることは、ただのーー
「ただの、傷の舐め合いじゃないですか……」
ふと心中の想いを口に出してしまったのと同時に、身を隠している椅子の背中に置いていた手に、水滴が落ちるのを感じました。
ーーなんで泣いてるんですか、私。
自分の気持ちに思考が追い付かなくなった私は、とりあえずこの場から離れたいと思い、それでもやはり見つかる訳にはいかないので、こそこそと先程注文を取ってくれた店員さんにお持ち帰りに変更してくださいとお願いする。
ちょうど、私の注文したバーガーが出来上がったところだったので、そのまま袋に詰めてもらい、それを受け取ってそそくさと店を出る。
……ふぅ。誰にも見つかってはいないみたいですね。
「……ん。やっぱり、ワックのバーガーはおいしいです」
歩きながら取り出して食べたバーガーは、美味しかったですけど、なんだかいつもよりしょっぱかったような気がします。
山田桜。ファンタジーアニメのような異能を夢見る、普通の人間。
そんな私の平凡で退屈な毎日となんの成果も得ることのできない放課後異能散策は、明日からもなんら変わりはしなさそうです。




