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モブガタリ  作者: 釣居 螺夢
1:運命の巡り合わせ?→偶然の出逢い
19/24

アレクサンダー (山田桜) の放課後異能散策 ~二人の男女と、ヤンキーに絡まれた少年~

「変態じゃないわよ失礼ね!」


 私が張り付いているドアの教室の中で、一人の女子が一人の男子に対して、そんなことを喚いている。


 ……ああ、なんなんでしょうか、この状況。

 私は今日も、いつも通りの、"あの人"を探すための『放課後異能散策』を終わらせて、この教室の前を通りかかっただけなのに……。

 この二人は一体どういう関係で、なにをしているのでょうか。


 ……放課後の教室に、二人の男女……

 それに、先程の『変態』という言葉……


 ………………私は、ここにいるべきではないのでは?


 そう思い、そーっと気付かれないように教室の横を抜けようと、移動しようとした、その時。


「!! うひゃあ!」


 唐突に、少女の叫び声が上がった。そして、それと同時に何かが床に叩きつけられたような音がする。

 

 ……びっくりした。心臓飛び出るかと思いましたよ。

 しかしそれにしても、こんなに大きな叫び声を上げるだなんて、まさか……それに、床に叩きつけられたのは、布かなにかなようですし……。

 まずいです。これは、非常にまずいです。

 何やら事件性が高まってまいりました。

 あれ……? でも、さっきは女子の方が変態呼ばわりされていたような……


 状況が読めず、中の様子を探ろうと、ドアの窓から覗いてみると、そこに映っていたのは、床に落ちた体操服を申し訳なさそうに拾い上げる女子と、その様子を責めるような視線で見つめる男子の姿だった。


 ……いや本当、何やってるんだろう、この人達。

 っていうか私も、何やってるんだ……さっさと教室に戻って荷物を持って、家に帰ろう。

 どうせ今日も、何も得ることは出来なかったんだし。


 そう考えたところで、先程の部室棟で遭遇した、一人の少年を思い出す。


 あれは、「出会い」と呼べるのでしょうか。

 あれは、「得たもの」と言えるのでしょうか。

 そして、この人達……

 いつもは誰にも会うことも、何が起こるわけでもなく、終わっていくこの、もう私の日常とも言うべき放課後散策が。

 今日というこの日に限り、こんな立て続けに二つもの遭遇を果たすなんて。


 運命って、やつでしょうか。

 ……いや、きっとこれはそんなものじゃない、本当にただの、つまらない偶然。

 ーーでも、そのつまらない偶然にも、何か意味があるのではないかと思ってしまうのは、さすがに考えすぎでしょうか。


「……うわああぁぁぁ!!」


 なんてことを、ぼんやりと考えながら立ち尽くす私の前を、いきなり教室から勢いよく飛び出してきた例の女子が、顔を真っ赤にしてなにやら大声で叫びながら走りすぎていきました。


 なぜかはわかりませんが、どうやら彼女はそうとうテンパっていたらしく、私の存在に恐らく気付いていませんでした。

 ……彼女は一体、何回私をびっくりさせれば気がすむのでしょう。

 もしかして、同じことを繰返してる私を憐れに思って、ドッキリでもして元気づけようとでもしてくれているのでしょうか。


「おい、ちょっ……どこ行くんだ変態子!!」

「変態子!?」


 すると男子も出てきて、その女子を呼び止めるように名前を呼び掛けますが、しかし私はそのあまりにも秀逸なネーミングに驚いて、思わず反応してしまいました。

 変態子って、いくら世間ではキラキラしたネームがはまってるからって、ちょっとやり過ぎでしょう……キラキラどころか、それはもうどちらかと言うとギトギトですよ。

 ギトギトネーム。……意味わかりませんが。


「ん? 誰だ、お前?」

「へ? あ、私ですか? いや、わ、私はそんな大したものではなく……。名乗るほどではございませんよ」

「そんな答え方されるとなんか俺が助けてもらったみたいな気分になってくるのは不思議だな……そんなこと全然ないけど。……あれか? そのさすらいの侍的な言い方は良くわかんないけど、知らないやつに易々と名乗りたくはないってことか?」

「は、はい……まあそんなとこです。私はただの、通りすがりのアレクサンダーですよ」

「思っきり名乗ってんじゃねえか。……通りすがりのアレクサンダーってなに!?」


 あぅ……また勢いでちょっとアレクっちゃいました……。

 それにしても、なんかこの人初対面なのに割りとグイグイきますね。


 あの走り出した女子ーー変態子さんを呼び止めようと声を掛けたこの男子は、私に話しかけてきました。

 基本人見知りな私にとって、さっきの部活棟の時もそうですが(あの時は不覚にも私の方から話しかけてしまいましたが)、こういった状況はとても苦手なのです。


「え、なにお前、ハーフなの? そんな小っこいのに?」

「小っこいとか関係ないでしょう! ていうか、そもそもハーフとかじゃありませんし」

「……じゃあ、アレクサンダーってなんだ? 実は漢字なのか? 『荒苦酸蛇亜』とかなのか?

「そ、そんなヤンキー言葉みたいな名前なわけないでしょう!」

「いや、口で言ってんだから分かんないだろ。適当に否定してんじゃねえよ」

「そう言いながらノートとペン出さないでいいです! しまってください! ……書かれなくてもわかりますよ。『夜露死苦』とか、『愛羅武勇』とかの類いに決まってます!」

「おー、良く分かったじゃないか。えらいえらい。」

「なっ……ちょっと、頭ポンポンしないでください! 噛みますよ!」

「犬かお前は。よしよし、落ち着け落ち着け。いいかー、そんなことしちゃ駄目なんだぞー?」

「だから、やめ……! ああもう、それ以上子供扱いしたら、闇の炎で飲み込みますよ!」

「急に怖! 完全に俺死んじゃうじゃん! でも大丈夫、安心しろ。俺が今してんのは子供扱いじゃなくて犬扱いだ」

「余計心外です!」

「で? アレクサンダーってなんなんだよ。本名なのか?」

「……もう、聞かないでください」


 いい加減しつこいです。

 人には、あまり他人に踏み込んでほしくないところだって、あるんですから。私たち女子高生は、尚更です。……見た目も発言も、中学生みたいだとはよく言われますが……。

 とにかく質問されるばっかりだと癪なので、こちらも言い返します。


「そんなんだから、彼女さんに走って逃げられたりするんですよ……。走って追いかけなくていいんですか?」

「なんで俺が追いかけなきゃいけないんだよ。勢いで飛び出してっただけだろうから、待ってたらそのうち出てくるだろうよ。てか彼女じゃないし」

「え、お付き合いしてたわけじゃないんですか? ……そ、それなのに、放課後の教室で二人で、な、何してたんですか!」

「なに顔赤くしてんだよ。そんなんじゃない、俺とあいつはさっき初めて会ったばっかで、別に変なことはなにも……なにも、うん、なにもなかった」

「今なんか飲み込みましたよねぇ!? 絶対なんかありましたよねぇ!? 一体何があったんですか!?」

「あいつが俺の体操服盗もうとしてた」

「……それは、お気の毒に……」


 予想の斜め上を行く展開でした。


「え、でもお二人は、出会ったばかりなんですよね……? あの方が、一方的に好意を寄せていた、とかなんですか?」

「いや、どうやらあいつは誰か俺の知らんやつと俺の席を間違えてたらしい。席どころか、クラスごと間違えてたらしい」

「もう全く意味が分かりません」

「だろ……? でもなんかあいつ、俺とどこか似てる気がするんだよなー……」

「あなたもよく体操服をお盗みになるんですか……?」

「そういうことじゃねえよ! 引いた目で俺を見るな! ……なんていうか、俺にもよくわかんないんだけど、雰囲気、みたいなのが……」

「雰囲気、ですか……」

「そう。どっからどう見ても平凡で、スポットライトなんか当たらない。でも、そんな自分や、周りに納得できてないっていうか……俺もそんな感じだから、なんとなく分かんだよ」

「自分や周りに納得できない、スポットライトの当たらない人間……平凡な、自分」


 それはまるで、どこかで聞いたような人間。

 そっか……この人も、あの女の子も。あの少年も。

 私と、一緒なんだ。


 ーーでも。


「あぁ。で、お前はどうなんだ?」

「へ……?」

「放課後に一人で、何してたんだ?」


 彼は私に質問を返してます。


「別に、大したことじゃありませんよ。暇だったんでちょっと、ぶらぶらとしていただけです」

「暇だったからって、こんなところにいる理由にはならないだろ」

「っ……あなたに言う必要はありません」

「そうか。それならそれでいい。……なあ、もしかしてお前も、そうなんじゃないのか?」

「……そうって、なにがですか」

「いや、これも本当なんとなくなんたが……お前も、一緒なんじゃないのか?」

「え……?」

「俺達と同じで、今のこの現状に、納得できてないんじゃないのか?」


 彼は真剣な表情で、私に聞いてくる。

 その顔に、その声に、馬鹿にしたような気持ちや憐れみの感情などが一切ないことはわかる。

 でも。


「……あなたと、一緒にしないでください」


 何故か私は、認めたくなかった。


 何もしてない、しようともしてない、現実から逃げて、受け入れもせずにいるだけの彼らと私を、『同じ』であると、認めたくなかった。


「そうか……。なんか、変なこと言ったな。謝る。」

「いえ、別にそんな……」

「じゃあ、そろそろあいつ帰ってくると思うから、教室……B組の方か。戻るわ」

「そう、ですか……。では、状況はよくわかりませんが、変態子さんと、仲良くできるといいですね」

「変態子って、お前……」


 そうして彼は、なぜか今出てきたA組の方ではなく、隣のB 組の教室に入っていきました。

 別れ際、小さな声で「仲良く、ね……」と呟いていましたが、その後お二人がどうなったのかは、そのまま自分の教室で荷物を取って二年生の廊下を離れた私には、知るところではありません。ですがきっと、良い関係を築くことがてきたのではないかと思います。まあ、ただの勘ですが。


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●


 帰る前に用を済ませ、窓を見た私の目に飛び込んできたのはーー先程、部室棟で会話をした見るからにひ弱そうな少年が、見るからに怖そうなヤンキーに胸ぐらを掴まれ、持ち上げられている光景でした。


「えぇ……何やってるんですかあの人……。だ、大丈夫でしょうか……」


 相手のヤンキーがどんな人で、なぜあんなことになってるかはわかりませんが、この状況を知ってしまった以上、見過ごすわけには……。しかし、私に一体何ができるというのでしょう。

 

 こんなとき、"あの人"ならきっと、飛び出して、すぐさま助けてさだしちゃうんだろうな……


『無理なものは、無理なんだよ』


 いつもながら自分の無力さを嘆んでいると、彼の言葉が頭の中に、響き渡りました。

 まるで、何もできず立ち尽くす今の私を、廊下で男子生徒に一緒にするなと拒絶した自分を、部活棟で少年の言葉を叫ぶように否定した私を、嘲笑うかのように。


 こんなんじゃ駄目だ。

 こんなんじゃ、私は何も変わらない。

 ずっと、ずっと今のまま。モブキャラのまま。

 "あの人"になんて、到底追い付けない。

 

 私が、彼を助けるんだ。


 と、意を決して助けに向かおうとして、最後に窓の方を見てみると。

 その校舎裏では、尻餅をついた彼がヤンキーに手を差し伸べられていました。


「……なに、この状況」


 結局、彼は私の助けなど不必要だったのです。

 ……まあ、私が出ていってなにが出来たのかはわかりませんが。


 私はやはりどうしたって、『ヒーロー』になど、なることはできないのでしょうか。


「なんか今日は疲れた……。ワックでも寄って帰ろう……」


 度重なるどうでもいいような遭遇と、目の当たりにした意味の分からない状況に辟易した私は相も変わらずいつも通り、一人寂しく帰路につくのでした。

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