「羨望」 なんの変化も進化もない、ただ淡々と流れていく現実と、動かない僕の心
今日もまた僕は、いつものように斬新部の部室を覗いていた。
もう、かれこれ半年は経つであろうか。僕は放課後になるといつもこうやって、窓の外から「彼ら」の様子を眺めている。
そして、十数分くらいしてから、ばれないようにこそこそとその場を離れる。
それが僕の日常。
何の変化もない、どこまでも地味な、繰り返しの毎日。
けど、窓の向こうの彼らの毎日は、変化に溢れていた。
時折何やら訳の分からない機械を持ち出してきては実験のようなことを行ったり。
またある日には、個性溢れる人達がこの部室を訪ねてきては、何やら話し込んだり、バトルのようなものが始まるときもある。
誰もいない日が数日続いたかと思えば、ひょっこり帰ってきて、まるで何事もなかったかのようにいつも通りお茶を啜りながら雑談をしていたり。
部室に集まってからすぐ、慌てた様子でいきなり外に飛び出していったり。
彼らの非現実な日常は、驚きと、輝きと、笑顔に溢れていて。
彼らの予測のつかない毎日は、革新と変貌に満ちていた。
そんな彼らを僕は、ただ見ていることしかできなかった。
しかも、ばれないようにすぐ帰ってしまうし、声もあまり聞こえないので、彼らにどんな事が起こっていたのかなんて、全貌どころか、ほんの少しも理解できていない。
ただ一つの共通点としては、彼らが全員、同じクラスであるということだけだ。……接点は、何もないけれど。ただ、同じクラスであるというだけだ。
「斬新部」とは【とにかく目新しいもの、革新的なもの、今まで見たことがないものを集め、広め、楽しむ、キレッキレでニュータイプな、どこまでも斬新な部活】のことである。
メンバーは現在五人であり、
とにかく新しいものが大好きな部長・芭生鮮音
IQ 150の隠れた天才・潜間祥
容姿も声も女の子にしか思えないオカマ・双子崎水月
身長140センチの格闘家・掌拳寺刈亜
ある時はお金持ちのお嬢様、またある時はド貧乏な娘・宇和島サツキ
で構成されている。
まだまだ募集中らしいのだが、なんだかんだ今の五人で落ち着いてしまっているため、これ以上増えることはないだろう。
発足は去年の入学式の直後で、物好きな顧問の協力の元、半ば強引に学校側の反対を押切り、創部した。
最初はスクネとショウの二人だけだったのだが、数々の騒動による騒動を重ね、五人となり、今の形となった。
部員達は、時々生徒会を始めその他、彼らと縁の在る特殊な人間達をも巻き込み、およそ普通ではあり得ない非日常な日々を送っている。
……完全に、僕のような人間の立ち入るスキはない。
僕なんてせいぜい、潜間くんの中学からの友達であるという、誰とでも仲良くなれる特技を持った宝塚くんの友達の一人で、名前すらうろ覚えなただのクラスメートDに過ぎないのだ。
いきなり生徒会長が勢い良くドアを開けて入ってくることで、なにやらただならぬ雰囲気のし始めた部室を尻目に、僕は歩き出す。これ以上は、彼らの問題で、彼らの物語だ。僕なんか見ていたって、どうしようもない。気にならないと言えば嘘になってしまうけれど、立ち入ることも叶わない非日常の傍観者になるくらいなら、ここで帰ってしまった方が、気持ちも楽になるというものだ。
これが僕の、駄目なところなんだろうなぁ……
自己嫌悪に陥り、潰れてしまいそうになる心の平静を、愛用のノートを握り締めることによってなんとか保とうとする。
彼らのような特別な人間になることなんて出来やしないことは分かりきっているのに、諦めることも、抗うことも出来ずにただ、立ち尽くすだけの日々。そうして無気力に流れていくだけの毎日。
友達や、他のクラスメートはそんな彼らとは違う「普通」の自分を受け入れ、傍観者に徹したり、無感情に流したり、各々が、それぞれの現実と向き合っているというのに。
僕は、それが出来ずにいた。
いつまでも我が儘な子供のように、自分も特別になりたいと、そんな厚かましい心情に囚われていた。
「!あてっ」
そんなことを考えていると、僕はこけてしまった。なんてついていないんだと、もう泣きそうになりながら、自分への呆れ笑いをもらしたまま地面に寝そべっている僕に、手を差し伸べたのは
ーー見るからにヤンキーな男子生徒だった。
この不良な男子生徒が差し伸べてくれた手を掴むことによって救われたのは、動けなかった僕の身体か。
それとも、立ち止まっていたままの心か。
それはこの時の僕にはまだ、何も分からない。
今回出てきたなにやら個性豊かな「斬新部」や、前回までに出てきた神楽坂や桐生などといった、『本来の主役達』もいずれ、本編に絡んできたり、番外編を書いたりしますので、そちらも楽しんで頂けると嬉しいです!