ふたりの朝
ベッドで彼女と夜を過ごした。
朝になりボクが目を覚ましたとき、となりの彼女はまだ夢の中にいる。
起こさないようにベッドから抜け出る――が、床に足がつかない。
床がなくなっているのだ。
気がつくのが早くどうにかベッドに踏みとどまるが、直後になにかに背中を突き飛ばされる。
ボクはベッドから底のない奈落へと転落していく。
瞬間、全身を襲う落下の感覚でボクはベッドから跳ね起きた。
さきほどの転落は夢だったようだ。
となりをみると、夢の中と同じように眠る彼女がいた。
シーツに包まり小さく丸まるようにして穏やかな寝息を立てている。
ベッドから足だけを出して床を慎重に確認する。
床は、ある。
足先で何度か床を叩き、目視しながら床へと足をおろした。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
足の裏に感じられるじゅうたんの毛並みにおもわず一安心をする。
両腕を挙げ、のけぞり大きく伸びをする。そして、大きなあくびをした。
と、ボクの胸から竹やりが生えた。
後ろから、背中から右胸にかけて貫いているのだ。
痛みはなく血も出てはこない。
そのぶん、カラダに穴があいているという事実があまりにも鮮明に感じ取れた。
全身が恐怖に凍る。
首から先だけでどうにか振り返ると、不満そうな表情でボクを見る彼女がいる。
手にした竹やりでボクを刺している。
彼女が握った槍の柄を反時計回りにひねったとき、ボクはふたたび目を覚ました。
上半身を起こし、自分の胸に手を当てる。
穴は開いていないが心臓が激しく脈打っている。
血ではなく脂汗で全身がべたついている。
ふたりでかけているシーツの中を手探りで確認する。
竹やりは、ない。床も、大丈夫。
立ち上がりつつも、今度は彼女から目を離さない。
起きだす気配は感じられない。
そのまま後ろ向きに歩き、洗面所の扉の前までたどり着く。
後ろ手に扉を開く。
――ここまでくれば大丈夫。
洗面所へはいろうと身をひるがえしたとき、
パンッ、
背後で乾いた炸裂音がした。
右肩を強く殴られたような衝撃をうける
熱い塊が肩の中に残っている。
振り返ると彼女が寝たままの体勢でこちらに右腕を伸ばしていた。
その手には、両手ですっぽりかくせる程度のデリンジャーが握られていた。
縦に並んだふたつの銃口。
上の銃口から白く煙が立ち上っている。
下の銃口がボクのヒタイを狙っている。
ふたたびの炸裂音のあと、ボクが最後に見たものは、やはり不満そうな彼女の顔だった。
ヒタイに強い衝撃をうけるように目を覚ました。
肩とヒタイをさするが、なんともなってはいない。
痛みはないが、熱くうずく。
横を見ると、眠る彼女がいる。
手を開かせてみるがなにもない、シーツの中もなにもない、床もきちんと存在する。
だが、彼女は洗面所の先にもなにかボクの計り知れないものを用意しているかもしれない。
あきらめてボクも横になり、彼女が目覚めるのを待つことにした。
彼女がクチモトだけでちいさくにやりと笑った気がする。




