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BOTTLE UP!  作者: 海野真水
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5 初めて聞いた武勇伝

 散らかる床の物を足でかき分けるようにして、俺はシーガルさんの為に椅子とテーブルを窓辺に寄せた。

そして一旦シーガルさんに持っていてもらっていたお茶のセットを置いた。

「ここでいいですか?」

「おお、すまんな。久しぶりだなぁ」

 シーガルさんは窓の外に広がる景色にしばらく見とれていた。

ここは小高い丘の上に建ってるし、今日は天気もばっちり。その証拠に真下の庭には、洗濯物がびっしり干してある。

 俺もこの景色、すっごく気にいってるんだ。なんか、ほっとする、っていうかさ。

自慢の景色なんだけど、これを見せる彼女、まだいないんだよなぁ。

とほほ〜。



 シーガルさんがいつまでも黙ったままなので、俺は思い切って声をかけた。

「あのぉ、シーガルさん?」

「ん?おお、すまんな。おまえのじいさんの話をしてやるんだったな」

俺は弟の椅子を持ってきて隣に座り、次の言葉を待った。

 まだ湯気の出ている紅茶をひと口飲むとシーガルさんはこう切り出した。




「ここから見えるこの景色。これはおまえのじいさん……

マイトがいなかったらなかった物だ」

いきなりの突拍子のない言葉に俺はすっかり面食らった。

「え?!いったいどういう事なんっすか?」

「これだよ」

シーガルさんは膝の上に置いてあった例の本を広げて、机の上に置くと、本に入ったままのマジカル・オーブが窓からの光を受けてきらきら輝いた。

「マイトは若い頃は魔法が使えたんだ」

「えええ?!」

俺はもう何がなんだか訳が分からないっ!

すっかりパニクっている俺を見て、軽く微笑んだ後、シーガルさんは静かに語り始めた。




 まず、どうしてマイトが魔法を使えたかを話さんとな。

 ここから川を1日かけて下ったところに、ポルトツの街がある。

【ラックマジックの街】とも呼ばれているがな。

 ここらの人間は、魔法にほとんど関心がないから、その街での【あるイベント】はここでは知られていないんだ。

 そのあるイベントというのが、魔法を授かるセレモニーでな。

儀式、といっても、お祭り騒ぎみたいなもんだからな。

魔法に興味があるのももちろんいたし、だた単にお祭り好きっていうヤツもいたしな。

 マイトがまだおまえくらいの時、親に内緒でこっそりこの祭りを見にきていた。俺も一緒にな。ははは。

 そして話しのタネに、って軽い気持ちで、そのセレモニーに一緒に参加したんだ。

 その時、マイトはミサト、おまえのばあちゃんと出逢った訳だな。ミサトも、おもしろ半分で参加したそうだ。

 それで、俺たち3人でセレモニーに参加したところ、なんと3人共魔法を授かってしまったんだ。

 他の人たちは、みんなアウトだっただったらしいのに。

 魔法が授かると、それぞれの基礎魔法能力に応じた、【マジカル・オーブ】が手に入るんだ。

 能力値が高いと小さいオーブ、反対に低いと大きいオーブを授かる。

 マイトのは、この本に入っているこのサイズ。

 ミサトのは、ビーだまサイズ。

 そして俺のはマイトのよりふたまわりでかいものだった。

 オーブを手にした時、俺たちは正直戸惑ったね。

まさか魔法が使える事になるなんて、思ってもみなかったのでな。

 マイトは、自分自身の力で何でも切り拓いていく主義だったしミサトもコツコツと努力をする事を惜しまない人だったのでふたりはとりあえず魔法は使わない事にしたんだ。もちろん、俺もな。

 それに、1度に過剰に魔法を使ってしまうと【マジカル・オーブ】を失ってしまうそうだ。

 コントロールもかなりの練習を積まないと難しい。

 実際、魔法を使っているのは、ごく一部の人だけだ、と聞いた事があるしな。

 それで、オーブをどうするか、という事になったのだが、ミサトはお守り代わりに、と、ハンカチにくるんで髪留め代わりに。

俺のはいつも持ち歩いている道具入れに無造作に放り込んである。

マイトは、どこかに適当にしまいこんでおくさ、と言っていた。

 その後、俺たちの間では魔法の話題はほとんどなくなっていき、数年後マイトとミサトは結婚した。

 俺がふたりのキューピットみたいなもんだったんだぞ。

 それからしばらくして俺は仕事の都合でこの村をしばらく離れていたんだが、マイトからのトラベラーズメールで、ミサトに子供が生まれる事を知ったので仕事を速攻でやっつけて、村に戻ってきた。




 あの日も、今日みたいに天気のいい日だった。

ちょうど、麦の刈り入れ時だったので、村の人たちはもちろん、親戚や日雇いの人が大勢で、畑いっぱいに実った穂を刈り取っていた。

 俺は一旦マイトの家に寄ってから、麦刈りも手伝うつもりだった。

寄ってみると、ちょうどマイトが遅い昼休みをとる為に帰っていたところだった。

 久しぶりのミサトの手料理を味わいながら積もる話に3人共時間の経つのも忘れてしゃべっていた。

 食事も終わり、じゃあ食後に自家製紅茶でも、とミサトが大きなお腹をかばうようにしてゆっくり椅子から立ち上がった時、村人がひとり、血相を変えて飛び込んできたんだ。

「マイト!早く来てくれ! とんでもない事が起きてるんだ!」

「分かった! すぐ行く!」

「マイト?」

 ミサトが今までにないような心配そうな顔でマイトに歩み寄った。

 マイトは、ミサトの肩をぽん、と叩き、

「なぁに、大丈夫さ。ちょっと様子を見てくるだけさ。」

と笑顔で答え、くるっと踵を返すと険しい表情になってすぐさま玄関へと突っ走っていった。


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