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BOTTLE UP!  作者: 海野真水
35/38

35 明日のその先は…… 

「ふうっ。もっ、もう食えねぇ」

 アルが椅子に身体をぐったりと預けて苦しそうに唸った。

 そりゃそうだ。

 一度にテーブルいっぱいの料理を取ってきた途端、無言ですごい勢いで平らげるとまた取りに行ってたからなぁ。

 夕食はいろんな料理があって、そこから好きな物を欲しいだけ取っていいというシステムだった。

 俺はこんなの初めてだったから、もの珍しさで目についた料理を片っ端から皿に取っていたから、アルと同じ状態になっていた。

 シャルミィはデザートにウェイトを置いていたみたいだ。

「私ね、一度でいいからこんなデザートを食べてみたかったんだ」

 ひと抱えはありそうなガラスの器に入るだけのフルーツとケーキ、それにてんこもりのアイスクリームを盛り付けて、とっても嬉しそうに食べている。

 見てる方としては「食いきれるのか?!」って量が入ってそうなんだけど、すごい事にみるみる中身が減っていっている。その間にも新しいデザートが運ばれてくるとすかさずチェックを入れているとこを見ると、たぶんお代わりを目論んでるに違いない。 俺はラストにウケ狙いのつもりで、すっげえ甘いんだけどとんでもない臭いを発しているフルーツをひとすくい小皿に取ってテーブルに着こうとした時、周りの人たちが急に顔をしかめた。これ、そんなに臭うのかな? 俺は全然平気だけどなあ。当然の事ながら、シャルミィとアルにはドン引きされたけど。

 食べながらいろいろ雑談はしてたけど、なぜかオーブの話は全然出なかった。  

 バトルの疲れもあったので、夕食が終わってからは早めだけどそれぞれの部屋に戻る事にした。

 アルはひと言「じゃあな」と言ったきり、さっさと自分の部屋に入っていった。

 そしてその隣はシャルミィの部屋で、一番奥が俺の部屋。「セレモニーではいろいろあったけどさ、明日の朝起きてみないと結果は分からないんだから、無理かもしれないけど何も考えないで休んだ方がいいぜ」

 シャルミィが部屋に入る前に、どうしても何か声をかけたくてついついそんな月並みな言葉が出てきてしまった。……俺ってボキャボラリーなさ過ぎ……っていうかもっと気の利いた事言えたら……。

 そんな俺のもどかしさを読んでいたかのように、シャルミィはにっこりと微笑んでくれた。

「ありがとう。私だったら大丈夫だよ。もしオーブが手に入らなくても……魔法が使えなくても……それで私の未来が閉ざされた訳じゃないから」

 俺はおとなしめのシャルミィからそんな言葉が聞けるなんて思っても見なかったので、俺は正直びっくりした。

初めて会った時は、魔法を手に入れる事にすごく不安を持ってて、かなり思いつめた感じだったけど、今はそんな様子もあまり感じられない。

「私って、もしかしたら冒険してきた中で、精神的にかなり鍛えられたような気がするのよね」

 シャルミィは、ちょっと考えるような仕草をした。

「……村を出るまではサバイバル検定の時しか『危ない事』なんて縁がなかったし。その検定だって、補習を何度も受けてようやく受かったくらい私ってへタレだったんだよね」

 シャルミィはそう言ってペロッと舌を出した。「そうだよな。わざわざ自分から危険な事しない限り、俺の村の中でも安全だったし。でも俺はそれが退屈だったんだけどさ」

 それを聞いたシャルミィは大きく頷いた。

 「そそ。うちの村でも男子はそうだったなぁ。こそっと村を抜け出して、低レベルなモンスターにちょっかい出して怪我してきてね。怒られる声がいつもどこからか聞こえてたわ」

 うんうん、俺にも身に覚えあるよなぁ。ペナルティで野良仕事を一週間ボランティアさせられた事もある。なんて、俺もほろ苦い過去を思い出してしまった。

「そんな危ない事だらけの村の外に、たったひとりで出て行かなければならなくなった時は、ほんと心細かったんだ……船に乗せられてからはずっと震えが止まらなかったの。リベラルに出会うまで、ずっと……」

 シャルミィはだんだん声のトーンを下げてってしまい、しばらく黙り込んでうつむいていたけど、手の甲でそっと顔を拭うと俺に微笑みかけた。

 シャルミィの目が潤んでいる……。それを見てしまったら、また言葉が出てこなくなってしまった。

「あ、あのさ……」

もどかしく口ごもっている俺の手を、シャルミィは自分の両手でぎゅっと握りしめた。ふわっと柔らかくて、あったかい手。

「いいの。何も言わなくって。リベラル、ほんとにありがとう。何があっても、これからもずっと仲間でいてね」

「う、うん」

 だぁぁ! 他にもっと気の利いたことは言えないのか! 俺!

 俺は自分の心の叫び、というかツッコミに苛まれてると、シャルミィはにこっと微笑んで自分の部屋のドアを開けた。

「じゃ、おやすみっ!」

 いつもの調子のシャルミィに戻って、ドアをパタン、と閉めた。

 はぁ。俺って励ますの、ほんと下手だなぁ……。

 言い表わしようのない脱力感を感じつつ、俺も部屋へと戻っていった。

 部屋の窓を開け放つと、海の匂いの気持ちいい風が入ってきた。

 気を取り直すために目を閉じて深呼吸をひとつ。ふっと目を開いた時まんまるの月の光に照らされた海が視界に広がった。

 青く済んだ海も文句ナシに綺麗なんだけど、夜見る海も幻想的でいい感じ。

 俺はこのまま眠ってしまうのがなんだか勿体無くって、窓辺に椅子を持って来てしばらくそのまま眺めていた。

 でもやっぱり疲れには勝てず、いつの間にか窓辺にもたれたままの体勢で自分でも知らないうちに眠ってしまった……。





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