32 魔法ゲットに向けて出航!
船はすっごくカラフルで、ゴージャスな飾りつけ。
でも、色の組み合わせが俺的には絶対あり得ないって思うような配色。
「誰だよ、こんな飾りにしたのは」
俺が思わず呟くと、
「げげっ、間近でみると、なんか趣味悪ぃ飾りつけだぜ」
アルもあちこち見回しながら、げんなりしたように呻いた。
「ほんと。なんか乗っている方が恥ずかしいわね」
シャルも落ち着かないみたいだ。
岸壁からは、プロキオンやメリーリィ、グラウ爺たちが見送りに来てくれていた。他にも街の人たち、観光客や旅人が岸壁に鈴なりになって見物している。
俺たちの他には、新婚旅行らしいラブラブなカップルがひと組と、俺たちみたいな少人数のグループがふたつ、そしてひとりで来てる人男の人が4人。以外と少ないんだなあ。
そうしているうちに、船員の動きが慌しくなってきた。
期待と不安がお互い一歩も譲らない状態で、俺の心臓もヒートアップ。
ボトル持つ手に、自然と力が入ってしまう。この為に、ここまで頑張ってきたんだからなっ。
岸にいる係員が、船と岸とを繋いでるロープをほどくと、船が高らかに汽笛を鳴らした! いよいよ出航なんだ……!
見送りの人たちから、一斉に励ましの声が響いてきた。
「みんなーっ! 頑張ってこいよーっ!」
このがなり声はプロキオンだな。……っていうか、何を頑張ったらいいんだろ。俺は思わず突っ込みたくなったが、今はそれもできない。
それにしても、こんな大ボリュームの歓声の中でもよく通る声だぜ。俺は返事の代わりに、右手でボトルを掲げて、左手でVサイン。
そんな盛大な見送りを受けて、船は速度をあげて、白い波しぶきを立てながら真っ青な沖へと進んでいった。
「わああ……すっごく気持ちいいわね! あ、見て見て! 見送りの人たちがもうあんなに遠くなったよ!」
ほんとは魔法がゲットできるかどうか、今日のこのセレモニーで決まってしまうというのに、そんな事も忘れてるかのようにシャルミィがはしゃいでいる。
彼女にとって、運命の分かれ道かもしれないのに……。
「あんまり乗り出したら危ないぜ」
俺は苦笑いしながらシャルミィに注意した。
「だって、プロキオンの船も良かったけど、こうやって広い海を走るのもすっごくいいんだもの! だから……」
風に煽られる髪を手で押さえながら、シャルミィはすごく楽しそうにしていたのに、急にふと寂しげな顔で、白い鳥が船を導くようにして飛んでいく、その先の沖の方に視線を向けた。
「だから……?」
俺が聞き返すと、呟くような声が微かに風に乗って聞こえてきた。
「このままずうっと、この楽しい時間が続けばいいのに……」
「オレもおんなじ事考えてたけどさ」
舳先に行っていたアルが、いつの間にか、すぐ側まで来ていた。
「でも、やっとここまでこじつけられたんだぜ? 今は失敗する訳ねぇって、オレは信じてる! せっかく俺にかかっていた呪いが解けたんだから、あとは『本当のオレ』に戻れる魔法を絶対手にしてやるんだ」
きっぱりとアルはそういい切った。俺たちを見つめる、その瞳には微塵の疑いの色もなかった。
「そう……だよな。俺はみんなと違って、ただ魔法が欲しいだけでここまで来たんだけど、じいちゃんからのヒントを解くのには、俺だけでは絶対無理だったと思うぜ。それもこれも、アルとシャルミィに会えたからだ」
そして俺はボトルをふたりの前に突き出し、さらに続けた。
「このボトルは、最強のアイテムだぜ? これなら完璧に魔法をゲットできるはずだろ?……信じるんだ。俺たちの運ってヤツを」
「そうね。ここまで来てくよくよしてたら、運が逃げちゃうかもね」
シャルミィは笑顔に戻って明るく言った。
「そういう事! とりあえず今は、海を楽しもうぜ!」
俺はそう言って、舳先の方へ走り出した。
しばらくして、白い制服を着た船員のひとりが、メガホンを手に、甲板へとやって来た。
「え~、まもなくセレモニーの海域に着きます。ただいまよりボトルスルーの説明をしますので、よく聞いてくださいね!」
それと同時に、別の船員がみんなに紙を配り始めた。
「今、みなさんにお配りしているのは、海図です。過去の潮目での成功率を書き込んでありますので、どこにボトルを投入するかのご参考にしてくださいね。」
俺たちはもらった海図に目を通した。
「んと……1番入れやすそうなのは、この『清らかなる青き流れ』みたいだな。確率も60%で、他よりはイケそうじゃん?」
海図のちょうど真ん中に、青で帯みたいに書かれている。
今いるところがちょうど海図の中心だから、いつか魔法使いのばあちゃんが言ってたのはこの青いのだろうな。
他にも、緑の帯や赤の帯が書かれていて、それぞれに確率が同じ色で書かれている。どれも50%以下でかなり微妙だ。
そんな中、俺は他の潮目にくぎづけになっていた。
それは虹色の潮目。「幸運の虹の架け橋」だって。各色の潮が交わる、海図の左上に書かれていた。しかも確率は99%!
「でもさ、他の潮目と違って、範囲狭くね?」
アルが自分の海図を穴があくほど見つめて言った。
確かに、他のは帯状になってるのに対して、そこはほんの1点と言っても大げさじゃないくらいの狭さだった。
しかも、その周りは真っ黒に塗られている。ええっと……「深き絶望への扉」だって?! 縁起悪すぎなネーミング。
さらに説明に目を通すと、「ここにボトルが入ってしまったら最後。魔法をゲットできないのは確実な上、さらなる不運が待っている……」なんて末恐ろしい事が書いてあった。
「究極の選択だな……。 率はそこそこでも確実に流れに入れるか、いちかばちかのバクチをするか」 アルは海図を睨みつけたまま、そう呟いた。
俺は……どうしよう?
でも悩んでいる時間はあんまりなかった。
ふと気がつくと、いつの間にか3人とも思い思いの場所にバラけていた。
マストにくっつけた海図に釘付けになっていたシャルは、ひとつの潮目に持っていたペンでぐりぐりっと○をつけると、よしっ!という感じで頷いた。ついに決めたみたいだ。
床に座り込んでいたアルも、海図と目の前の海を何度も指さして確認していた。
……俺もそろそろ覚悟を決めないとな。
ここまできて、中途半端な事は絶対したくない。
だったら投げる潮目はたったひとつ。そうきっぱり決めた時に、また船員からのアナウンスが。
「今から潮目に差し掛かります!みなさんの幸運をお祈りします!」
その声を合図に、俺たちはボトルを構えた。
船は初めに紫色の潮目に差し掛かった。海図とおんなじ色の水だ。
なんでこんなに不思議な色になるんだろうか?
呑気にそんな事を思ってたら、その潮目の色がだんだん明るくなって青っぽくなってきた。
これが1番無難そうな潮目かも。誰か入れるのかな……なんて思っていたら、何人かがボトルを投げ入れたのが見えた。
アルとシャルミィは、まだ手に持っている。
いくつかの色の潮目を通り過ぎ、船は、ついに最後の潮目・「幸運の虹の架け橋」と「深き絶望への扉」が同居する海域に差し掛かろうとしていた。
俺は自然と、アルとシャルミィを見た。ふたりとも、笑顔で大きく頷いた。やっぱり考えてた事はみんなおんなじだったんだ!
「オレのマネすんなよ」
アルが俺を軽くこづく。俺も負けずとアルにヘッドロックをかませた。
「そっちこそ! コントロール大丈夫かあ?」
その様子をシャルミィがくすくす笑いながら見ていたけど、急に真顔になった。
「そろそろ……ね!」
「よっしゃ!やってやろうじゃん!」
俺たちは舳先へと急いだ。
ここの潮目の上は、船は通らない。だからいきおいつけて投げ入れるしかない訳で。
幅の広い、真っ黒な円状になっている中に、ずっと見ているといろいろな色に絶えず変化している不思議な水面がほんの少しって感じだ。
俺たちはそのただ一点のみに集中した。そして船が最接近した時が最初で最後のチャンスなんだ!
「いっ」
「せー」
「の」
3人一斉に振りかぶった時、船尾の方で何か騒いでいるようだったけど、俺たちには気にしてる余裕はない。
「でっ!!!」
俺たちのボトルが手から離れようとしたその瞬間、船が大きく揺れた。
みんなは慌てて船べりや近くのマストに掴まったけど、俺だけ派手に転んでしまった。い……ってぇ。絶対どっかすりむいてそう。
でもボトルは?!痛いのも思わず忘れて慌てて起き上がって、ボトルを投げた方を見た。
俺の視界に入ったのは、黒と虹色のちょうど境目に沈んでいこうとしていたボトルだった。
それは俺だけのじゃなく、シャルミィとアルのも同じ事で。3人共同時に「あ」
と声を出したっきり、呆然と水面を見つめたまま固まりかけていた、その時。
船尾から何人かが真っ青な顔で俺たちの方に走り寄ってきた。
「たっ、大変だ!モンスターが襲ってきた!」
おいおい、よりによってこんな時に襲ってくるなよ……。
「あんたら、ASAタッグつけてるよな? だったら加勢してくれ!」
急に船員のひとりが詰め寄ってきたので、俺は思わず後ずさった。
「まさかここまできてバトルするとは思わなかったぜ。アル、シャルミィ、ここは行くしかないよな?」
ふたりを振り返って俺がそういうと、もう武器を取り出していた。
「せっかくのセレモニーをぶち壊したお礼、たっぷりきっちりさせてもらおうぜ!」
アルはそう言って船尾へとすっとんで行った。
「私もモンスターにすっごく腹立っちゃった!行こう、リベラル!」
そう言うが早いか、シャルミィも船尾へと駆けて行った。俺も慌てて後を追った。
どんなかもモンスターも気になるけど、ボトルの行方の方がもっと気になるんだけどなぁ……。とにかく今は、やるしかないな!