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BOTTLE UP!  作者: 海野真水
29/38

29 念願のボトル・完成!


 ポルトツに戻ったのは、まだ真夜中だった。

 街のほとんどは、夢の中にいるみたいだ。

 プロキオンが船を岸につけるが早いか、俺たちは材料をグラウ爺に届けるべく全速力でダッシュした。

 ちょっと遅れてシャルミィも追いかけてくるのを目の端で確認しつつ、暗く迷路のような町並みをアルを見失わないように駆け抜けた。

 所々にあるほのかな明かりの街灯のおかげでなんとか路地は見渡せたし、だいたいの場所はわずかに覚えてたので、走ってもなんとかいけそう。

 背負ってる鉱石は肩にリュックの紐がくい込んで、めっちゃ重いはずなんだけど、そんなのはこれから始まる念願のアイテム作成への期待が忘れさせてくれていた。

 しばらくすると、一軒だけぽつんと灯りがついてる家が見えてきた。

 グラウ爺の工房だ。

 アルは着いた途端、ドアを足で思いっきり蹴飛ばしてドアを開けた。

 すげぇ! 初めて連れてこられた時は、アルは身体で押して開けてたのに。こいつもボトルへの期待は俺と一緒くらいあるんだな。

「グラウ爺! とっとと起きてくれよ!」

「もうとっくに起きとるわい。ほれ、ぼさっとしとらんと材料をはよう寄こして手伝わんか」

 テーブルの上にはいろいろな道具が置かれ、

 かまどの炎は時々縁のレンガを焦がしながら燃え盛り、すっかり準備は整っていた。

 もちろん、俺が渡したじいちゃんの割れかけたマジカルオーブも一緒に。

 シャルミィも自分のカバンからシュテルン・プルーメの露の入ったビンを取り出して、グラウ爺に手渡していた。

 グラウ爺はローブじゃなく、上半身は裸で、下はベージュの軽そうな薄手の生地でできたズボンをはいて、腰でぎゅっと紐で結わえていた。

 その身体つきは、「爺」って呼ぶにはふさわしくないんじゃ、って思うほど、

筋肉が引き締まっていたんだ。

 かまどの炎をバックに立ってるもんだから、気迫さえひしひしと感じられる。

「な、なぁ、グラウ爺っていったいいくつなんだ?」

 アルにこそっと聞いてみた。

「もう70は軽くいってんじゃねぇか? オレもはっきりした年なんて聞いた事ねぇよ」

 アルは準備の手伝いの手を止める事なくそう言った。

「ここはワシとアルに任せてもらおうかの。すまんが、できあがるまで外に出ててくれんか。久しぶりに腕が鳴るわい」

 グラウ爺、なんたがすっごく嬉しそうだ。

「分かった。グラウ爺、アル、後はよろしくな!」

「おうっ!任せとけ!」

 アルも腕まくりをしてやる気満々だ。

「グラウさん、アル、よろしくお願いしますね」

 シャルミィも頭を下げる。

「よっしゃ! 任された! 可愛いコの頼みとあらば、意地でも完成させてやるからな」

 声のトーンをふたつぐらいあげてすごく嬉しそうに言うグラウ爺の頭を、すかさずアルが持ってた「ふいご」でスパーンと気持ちいい音を立ててしばいたから、俺たちは大笑い!

「……ったく! 鼻の下伸ばしてんじゃねぇよ!」

「あいたた…… 本気で叩くとはなんてヤツじゃ! そうかぁ。おまえはボトルは要らんのじゃな。しかも作り方も見れんのじゃなぁ。残念残念。こんなチャンスもうないかもしれんのう」

 なんて意地悪そうにアルの背中をドアの方へと、ウリウリとこづいて移動させようとしてる。

 これにはアルも毒舌を中断せざるを得なかったみたいだ。

「ちぇ。心の狭めぇジイサンだぜ。わあーったよ! オレが悪かったよっ!」

 それを聞いて、グラウ爺はただでさえしわの多い顔をさらにしわくちゃにして得意満面になった。

「そんじゃ、さっさと作ってしまおうかの。一世一代のボトルを!」



 表に出ると、グラウ爺の工房の前に、小さな公園があったので、そこのベンチでシャルミィとふたりして座って待つことにした。

 ここからなら、工房の様子も外からだけどよく分かる。

 音はあんまりしてこないけれど、時々煙突や窓のひび割れから大量の蒸気を撒き散らして、一瞬工房とその近所が全く見えなくなるほどにもなった。

 近所から苦情が来そうなもんだけど、まわりの家は寝静まったまま。もしかしたら、もう慣れてるのかも。

 その合間に、ふたりのシルエットがひっきりなしに行ったりきたりしてる。

 時々、グラウ爺とアルのやり合う声も飛び交ってて、現場はかなり修羅場真っ只中って感じ。

「ふたりとも、頑張ってるみたいね」

 シャルミィも中の様子が気になって仕方ないって感じ。

「俺たちには何も手伝えないのが、はがゆいけどな」

「そうね。待つしかないのよね」

 夜中はこの時期でもやっぱりまだ肌寒かった。

 隣のシャルミィも、小刻みに震えながらローブの両端をしっかりと手で合わせている。

 俺は黙って、着ていたジャケットをその上からぱさっと羽織らせてあげた。

「リベラル、これじゃあなたが風邪ひいちゃうよ」

 と言って取ろうとしたけど、俺は彼女の両肩をポンポンと叩いて、

「いいよ。俺はへっちゃらだからさ。それよっかセレモニー当日に熱でも出されちゃあ大変だらかね。

こういう時はほんとに寒がってる人・優先!」

 俺は照れ隠しも兼ねてシャルミィの行動をキャンセルさせた。

「ありがとね。素直に借りちゃおっと」

 シャルミィはすごく嬉しそうに俺の貸してあげたジャケットを羽織りなおした。

 それからふたりで、いろんな事をしゃべってた。

 ほとんどは、セレモニーの事だったな。

 結構盛り上がって、工房でやってる作業の事も忘れそうになるぐらいに。

 そして、しゃべり疲れたのか俺たちはいつの間にか眠ってしまってた。



「おいっ!起きろよ!」

 誰かが少しむくれた声で俺をこづいて起こす声がした。

「ったく……誰だよぉ・・・まだ眠いん……」

 そう言いかけて目を開けたら、ふくれっつらのアルが立っていた。

 空はもう明るくなり始めてて、鳥があちこちでぱたぱたと忙しく飛び回っている。

 肩には誰がかけてくれたんだろ? 毛布がかかっていた。

 シャルミィはというと、俺にもたれかかって、まだ寝息を立てていた。

「あ゛! アル、おはよ」

 げっ!声がガラガラだぁ……。

「おはよ、じゃねぇよ!……ったく人が夜通し作業してんのに、ふたりして気持ちよさそうに寝てんだもんな」

 さらにふてくされて、ぶつくさと文句たらたら。

「ご、ごめん。そんなつもりはなかったんだけどさ。シャルミィ、起きてよ。アルが来てるぞ」

 俺は言い訳しながらシャルミィを起こした。

「ん……あ、アル、ごめんね。寝ちゃったんだ。」

 アルは、肺の中の空気を全部吐き出したような大きなため息をつきながら、がっくりと肩を落とした。

「でもアルが出てきたって事は…… 出来たんだな!」

「ったりめぇだ! 仕事は手早く。これがオレのモットーさ」

 アルは鼻高々な顔で胸を張った。

「すげぇ! シャルミィ、見に行こうぜ!」

「うん!」

 工房の分厚いドアをよいしょ、っと身体をねじこませてこじ開けると、グラウ爺が後片付けをしてるとこだった。

「お、来たな」

 すすだらけの顔をほころばせて俺たちを振り返った。

「ボトルは!?」

 グラウ爺はあちこち火傷した指で、窓の近くの机を指差した。ちょうど朝の光が窓から差し込んできて、3つのボトルをわずかに虹色にキラキラときらめかせた。

 俺とシャルミィは、しばらくその光景に見とれていた……。



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