1 掃除は辛いよ
「リベラル! ちゃっちゃと掃除を済ませるんだよっ! もうそんなに時間がないからねっ! それとこの鍵、くれぐれも失くすんじゃないよっ!」
台所からかあさんが、ぽーいっと鍵を放ってよこした。
見事俺の手の中にキャッチされた重厚な鍵には、まぁるいビー玉みたいなものの中に何かの実のなっている木が描いてあって、ビー玉に羽根がふたつくっついている絵がレリーフで刻まれていた。
かあさん曰く、これは俺んち・ファンティス家の紋章だそうで。
一応、俺んちみたいな家でも、紋章はあるんだなぁ。そんなに金持ちじゃないし、家も小さいのにな。
所々錆の浮いた重量感のある鍵をつまんで眺めながらそんな事を思いつつ家の奥にある書庫に歩いていった。
書庫のドアの鍵穴に差し込んでから半回転させると、カタン、と鍵は意外に軽く開いた。
分厚いドアを開けた途端、ずっと使ってなかった部屋独特のホコリっぽい臭いが鼻について俺は何回もくしゃみをした。。
窓は結構あるのに、本が傷むとかで締め切り状態のカーテンのせいで薄暗い。
実は、俺がここに入ったのなんて、ほんと、何年振りって感じ。
ずらっと並んだ古めかしい書庫の棚には、ほこりがうっすら積もっててどう考えてもここの掃除が楽じゃないぞ、ってのを実感させた。
とりあえず、カーテン全開にして窓も開け放ってかなきゃ。
さあどっからやっつけよう?
一番近くにあった棚を軽くパタパタとはたいてみると、予想以上のほこりが煙となって俺に襲いかかってきた!
げげっ!体中ホコリだらけじゃねぇか!
ちょっとはたいただけでコレだもんなぁ。まったく、かあさんったらいつからここ掃除してないんだよぉぉ……
ひいばぁちゃんの時代から使ってるんじゃないかって思えるほど年季の入ったハタキで、本や棚に積もりに積もったほこりをキレイにとっぱらわなきゃならないなんてさ…… はぁ。
なんでも、じいちゃんの古い知り合いが、急にうちの書庫に用があるんだとか。
なので、かあさんは「お出迎え」の料理を作るのに忙しいから俺にお鉢が回ってきちまった訳。でなきゃ、こんなとこに入ろうなんて、思いもしないもんね。
うちって、書庫はやたら広いくせに俺たちの部屋は超狭いんだぜ。弟と同じ部屋なんて、ここらへんでは俺んちぐらいなんじゃないか? 冗談じゃないよ、全く。
俺はリベラル・ファンティス。あと半年で17になるんだ。
俺の住んでいるプチラの村は、住人が100人足らずのちっぽけなとこ。
しかも何にもないとこだし、毎日がめちゃめちゃ平和。
言い換えれば、めっちゃ退屈なとこ。
だからいつかきっと、大きな街に行って好きなように生きてみるんだ。
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