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働かざる者食うべからず

ほとんど会話のない空間に、盛大な腹の音が鳴り響いた。


「は、腹減ったー。」


そう言って床にうずくまったのは、五十嵐彰人だった。


「そういえば、いろいろあったからお昼ご飯はまだだったね。冷蔵庫に何かないか見てみようか。」


そう答えて立ち上がったのは、枝折相馬だった。一度奥に消えた枝折は、しばらくして戻ってくると、


「食料は一応あったけど、この人数なら、もって3日ってところだね。あと、この中に料理できる人いる?」


そう言ってあたりを見回すと、誰も反応しなかった。枝折がため息を吐きかけた時、おずおずと手が上がった。その途端、四人の視線がそちらに向いた。手を挙げたのは、藍澤夏菜子だった。


「藍澤さん、料理できるの?」


枝折の言葉に、藍澤はコクンとうなずいた。


「そんなに凝った物はできないけど、一応ある程度は。」


「そっかー、良かったー。すごく頼もしいな。君がいてくれてよかったよ。」


枝折の言葉を聞いているのかいないのか、藍澤は何も言わずに立ち上がると、調理場へ向かおうとした。だが、何か思い立ったかのように立ち止まると、振り向きざまに言った。


「春宮さん、私一人じゃちょっと大変だから、手伝ってもらえない?少しはできるでしょう?」


突然自分の名を呼ばれた春宮は、慌てて飛び上がると、


「わ、分かったわ。」


と言うと、藍澤は少しだけ頬を緩めた。


「ありがとう。じゃあ、行きましょう。」


そう言って、調理場の方へ行った。







「くーーー、うっめーなぁー!お前ら、こんな美味い飯が作れるんだなー」


出来立てのご飯を一気にかきこみながら言う五十嵐に、藍澤は、全く反応を示さなかった。その反対に、春宮の方は、少し頬を赤くしてうつむいた。


全員が食事を終えると、枝折が、どこからともなく2冊の本を取り出した。


「なんだ?これ」


「これは、この部屋に最初からあったものだよ。一冊は、恐らく先生が言っていたパンフレットじゃないかと思う。でも、もう一冊はわからない。」


「ふーん、じゃあ、とりあえずわかってる方から見てみようぜ。」


そう言うと、五十嵐はパンフレットを開いた。そこには、の項目が書かれていた。


【1.自分たちの生活費は、自分たちで手に入れること】

尚、親からの仕送りは禁止するものとする。


「これは、自分たちで働けってことか?」


五十嵐の問いに、枝折も、すぐには返事ができなかった。


「うん………そう考えるしかなさそうだね。」


【2.各班の成績は、学校生活全てにおけるすべての事が、点数として反映される。】

行い次第で点数は増減し、その点数は、月に一度張り出される。


「それじゃあ、上位三班に入るには、この点数を稼がないといけないって事だね。」


枝折の言葉に、我関せずを決め込んでいた柏原の目が、少しだけパンフレットに向いた。


【3.点数は、各班に別途配布されるワークブックの指令をこなすことでも増やすことができる。】

尚、このワークブックは全10巻である。


「そのワークブックっていうのが、これなんだな。」


そう言いながら、五十嵐はワークブックの1ページ目を開いた。そこには、ズラリと指令が並べられていた。


「うわ、見ただけで気分悪くなりそうだぜ。」


「確かに、この一冊だけでも、終わらせるのはかなり困難だね。」


五十嵐と枝折の言葉に、柏原がそれまで一打も開かなかった口を開いた。


「なに甘ったれたこと言ってんだ。この指令をこなせばこなすほど、俺たちの将来は約束されるんだ。」


「お前のいい方はいちいち気に触るが、俺もどうせやるからには、他の奴らに負けたくねぇ。」


「僕は、自分のやるべきことをこなすだけさ。もちろん、君たちの足を引っ張らない程度にね。」


「私は、皆さんの意思に従います。」


「………別にどちらでも。」


全員の言葉を聞いて、五十嵐は立ち上がった。


「よし、途中微妙なのがあったが、初めて意見が一致したな。とりあえず、目標は一位!誰にも負けないぜ!!」


「ちょっと待ってよ、彰人。確かに成績を上げることも大事だけどさ、それよりも前に、生きるためのお金が必要だよ。」


「あ、そうか。」


冷静な枝折の言葉に、五十嵐は我に返って席についた。


「でもさ、バイトをするにしても校外に探しに行かないといけないってことかな?」


その時枝折の疑問に答えたのは、意外な人物だった。


「ここから校舎を通り過ぎたその先に、バイト募集の張り紙が貼ってある建物があった。多分、人数が限られてるから、行くなら早く行かないと。」


やっと聞き取れるくらいの声で、藍澤がほぼ呟くように言った。


「藍澤さん、それ本当?だったら早く行かなきゃ。でも、全員行くわけにはいかないよね?身の回りのこともしないといけないから。」


「だったらさー、日替わりで交代にすればいいじゃん。役割決めてどれかだけするって、つまらねぇよ。」


「確かに、それもそうだね。じゃあみんな、そういうことでいいかな?」


五十嵐の意見に賛成した枝折は、他の三人を見た。すると、三人とも軽く頷いた。


「じゃあ、とりあえず今回は男三人でバイトの求人を見てこようか。あの二人にはご飯を作ってもらったからね。」


「それもそうだな。よし、行こう!」


やる気満々な様子で立ち上がった五十嵐とは対照的に、柏原は、やや嫌々と立ち上がった。その態度は、感情表現が豊かな五十嵐の頭に血を登らせるには十分だった。


「おい、てめぇ。さっきから一言も話さねぇ

上に、何なんだよその態度は。」


「余計なことに労力を使いたくないだけだ。まだ付いて行ってやるだけありがたいと思え。」


「なんだと!!こっちが大人しく聞いてりゃ好き勝手言いやがって。てめぇには協調性の欠片もねぇのかよ!」


その時、二人の間に枝折が割って入った。


「まぁまぁ、落ち着いて。とりあえず行ってみようよ。じゃないと、いつまでたっても始まらないよ。」


枝折はそう言うと、半ば強制的に五十嵐と柏原を外に連れ出した。


「お、おい!何するんだ、離せ!」


「分かった、相馬、もう分かったから離してくれよー。そんなに引っ張らなくても、もう何もしないからー!」


二人の声に聞こえないふりをしながら、枝折は校舎がある方向へ二人を引きずるように歩き出した。


その様子を見ていた春宮と藍澤は、お互いの顔を見合わせると、軽く頬を緩めた。


「ねぇ、春宮さん。あなたももっと、ありのままの自分を出したらどう?私には、あなたが自分を隠そうとしているのがはっきりと分かるわ。」


藍澤の言葉に、春宮は驚きを隠せなかった。この学校に入ってから、一度も素の自分を出したことはないから、彼女が本来の姿を知っているはずがなかった。


「どうして、そんなことがわかるの…………。」

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