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「どうしたんだいエネル、ぼーっとして」
「いえ、なんでもありません」
エネルはそこら中に散らばっている部品を拾い集め、袋に詰めた。
その時、誰かの足音が聞こえた。
振り返ると、そこには小太りの男が立っていた。
「あの。どうでしょう、直りそうでしょうか?」
「神殻は直りそうなんですがねぇ。やっぱり魔操自体に原因があるみたいでして………今から原因を調べに行くんですが、とりあえずしばらく営業停止ってことになりませんでしょうか」
「ええ、そんなの困りますよ。こっちはこれで生計立ててるってのに! もしかしてアンタ、適当なこと言って金だけ分捕ろうってんじゃないだろうなッ」
「い、いやワシは」
とライトマンが弁解しようとすると、主人は壁に突き刺さった鉄パイプを抜き取って構えた。
なにやら物騒な雰囲気に、ライトマンはぎょっと腰を抜かして後ずさりした。だがエネルはといえば相変わらずの無表情で、じっと主人を見ているだけだ。
「アンタ、ライトマン博士だろう。依頼しても一向に修理してくれないって、悪い噂が流れてるよ。魔操を修理できるのが自分しかいないのをイイことにお金だけ貰って遊び呆けてるって」
「知らない間にそんな噂が………ていうかお代は後払いなのに」
「もういいよ、適当な仕事されても困る。出ていってくれ!」
店の主人は怒鳴ると、鉄パイプを振り上げた。
店がめちゃくちゃになって、生計も立てられなくなって、やり場のない不安や怒りやいら立ちが眼の前のライトマンに向けられたのだろう。今、下手に言い訳すれば、そのまま撲殺されてしまいそうである。今のこの店主は、帝国騎士団百人分くらいの威力は軽くあるんじゃないだろうかと、ライトマンは思う。
するとエネルが。
「パフェも甘すぎるはず、です」
「エ、エネル?」
「自分勝手な考え、判断。想像力の著しい欠如、噂に流されるだけの愚か者」
机に置いておいたパフェを奪い取り、
「どこかで見た盛りつけ、似せた味付け、噂ばかりに翻弄された独自性のかけらもない品物………おいしいはずが、ありません」
店主に向かって投げつけた。
パフェは店主の頬をかすめて壁に衝突・粉砕、甘ったるいパフェはどろりと床に朽ち果てる。
「お、おいエネルっ? なにしてるんだい、だめだよっ」
「行きましょう博士。放っておいてもすぐに潰れるでしょう、こんなお店は」
「な、なんなんだアンタらは! 出ていけ、とっとと出ていけ!」
店主はとうとう怒り、手元にあったガラス瓶をライトマンに投げつけた。
寸でのところで交わしたライトマンは、工具類をそそくさと片付けて、エネルの手を引いて外に飛び出した。
「ああ、もう。一体なんだい、ひどい噂が流れてるなぁ」
店を飛び出したライトマンは後ろ手に扉を閉めると、深いため息を吐き出した。
「物事がうまく運ばなければ他人のせい、悪い噂のせいにして八つ当たり。最低、です」
「ありがとうエネル。ちょっと嬉しかったよ」
そう微笑むと、エネルは頬をほんのり赤らめてそっぽを向く。
「胸やけがした、だけです」
「そうだな。ワシも胸やけがした、口直しに街を見て回ろうか、出港までにはまだ少し時間があるだろう」
エネルはこくりと頷いて、ライトマンについて定食屋を後にした。