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ライトマンは硝子の鳥の頭にしがみ付き、なんとか体を起こした。
彼が這った後には、生々しい赤い血の跡が続いていた。
ライトマンは今にも倒れ落ちそうになるのを必死に堪えながら右手を伸ばし、再び精神偽態図を生み出した。
「大丈夫。必ず、助けてあげるからね」
傷を負って苦しいはずだろうに、彼は、優しい笑みを浮かべていた。
精神偽態図から紡がれる光の糸が花吹雪のように舞い上がる。
瞳を閉じると、水が布にしみ込むように、じんわりと、自分の意識が世戒樹に吸い込まれてゆくのがわかった。
瞳を開けるとそこは暗闇。
どうやら世戒樹の精神体に侵入することに成功したらしいが――――
哀しい、悔しい、恐怖と不安と絶望。
憎しみや嫉妬や孤独。
そんな感情ばかりが渦巻いている。
それはアムルとクリムの感情だけではない。地下室に囚われた子供達の悲鳴―――それは感情のままに肉を貪る獣のように、凄まじい勢いでライトマンの胸に襲いかかって来た。彼の心は負の感情に飲みこまれ、激しい恐怖や不安や孤独や絶望に襲われ、気が狂いそうになった。いや、狂いたいと思ったのか………彼は一瞬、そんなことを望んでしまった。
だがすぐに彼は、少女の姿を想い浮かべた。
狂うわけにはいかないと、帰るべき場所があるのだと、彼は必死に歯を食いしばる。
「必ず帰るからね、エネル」
意識を集中して、アムルとクリムの精神体を探す。
彼らはこの世戒樹の心臓のような役割をしているから、この子供達の精神体の奥底の方にいるのだろう。それを探すのは骨が折れるだろうし、心が持つかどうかも心配だった。だがライトマンは覚悟を決めて、二人を探すため意識を集中させた。
子供達の心の声が心を食らおうとするように流れ込んできて、掻き乱す。
この子供達の悲鳴の奥に、きっと二人はいるはず。
「いやだ」
ぽつりと、アムルの声が届いた。
瞬間、子供達の悲鳴は掻き消えて、彼の心の中に彼女の声だけが溢れて来た。




