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 ライトマンとエネルは世戒樹に向かって走った。

 エネルは人を神核体にした世戒樹をどう鎮めるのか見当もつかなかったが、ライトマンは真っ直ぐに前だけを向いていた。まさか彼が人を殺める選択肢を選ぶはずがない。例えそれしか選択肢がなくても、彼ならばきっと違う選択をするはずだ。

 だからエネルに不安はなかった。

 彼を信じているから。だから彼と共に、走っている。

「エネル、はい」

 ライトマンはエネルに例のライトマン人形を手渡し、

「二人のところまで連れて行ってくれ。一か八か、魔操を操作できれば二人を解放することができるかも知れないからね」

「わかりました」

 エネルはリュックをライトマンに渡すと人形を背負い、ライトマンの体にしがみ付く。

 そして翼に魔操を充填し、一気に飛び立った。だが損傷が激しいらしく、真っ直ぐには飛べない。常に魔操を充填していなければ、一瞬でも気を抜いた瞬間に落下しそうになる。

「ごめんねエネル、もう少し頑張れるかい」

「大丈夫、です。博士こそ、傷………」

「ありがとう、ワシなら大丈夫だよ」

 優しく笑って、傷付いていない左手で優しくエネルの頭を撫でる。

 エネルはほんのり頬を赤らめて、ライトマンにしがみ付く手にきゅっと力を込めた。

 その時、上空に再びあの硝子の鳥が現れ、二人に突進してきた。

「エネル!」

 咄嗟にエネルを抱えて体を反転させるが、硝子の鳥はライトマンの体を弾き飛ばした。

 二人はそのまま急降下していき、なんとかエネルを抱え込んだもののライトマンは背中から地面に叩きつけられてしまった。

「博士!」

「大丈夫かい、エネル」

 なんとか無事だったようで、ライトマンは苦痛に表情を歪ませながらも身を起こす。

 エネルはほっとしたが、それも束の間、硝子の鳥がゆっくりと着地した。

 思わず息を呑み、振り返る。

 硝子の鳥から降りてきたのは、オンブルだった。彼は右手に剣を握りしめ、静かな眼差しで二人を見据えている。ライトマンは咄嗟にエネルを抱きよせ、工具袋からドライバーを取り出して魔操を充填する。

「無駄だ。抗って勝てるとでも思うか。この街は私が生み出した世界、望めば如何様にも動かせる」

 言った次の瞬間、どこからか魔操粒子が降り注ぎ、それが見る間に姿を変えて、白銀の鎧を身につけた兵士へと姿を変える。どの顔も兜を被っていて確認できないが、それが心を持った人人間でないことは確かだった。

 意思はなく、ただそこにある人形。

 そうとしか、感じられなかった。

「ライトマン!」

 バードックが駆けつけ、ライトマンに襲いかかろうとする兵士達を次々に殴り飛ばしてゆく。

 ライトマンはエネルの手を引いて立ち上がり、

「構うものか。この世界を護りたいのなら、いくらでも抗えばいい。だけどその度にワシらは、貴方に立ち向かってゆく。どれだけ傷ついても構わない、ワシは現実を、未来を護りたいんだ」

 そしてライトマンとエネルは、オンブルに立ち向かう。

「どうせ絶望しかない未来をか。愚かしい」

 オンブルは剣を振り上げ、ライトマンに斬りかかる。

 ライトマンは反射的に攻撃を交わして背後に回り込み、相手の体を貫こうとする。だがオンブルは姿を消し、エネルの背後に現れ剣を振り上げる。しまった、と振り向くエネルだが、気付いた時にはもう剣を振り下ろされていた。だがライトマンが彼女を抱えて飛びのき、そのすぐ後に、彼女が立っていた場所に、深々と剣が突き刺された。この硬い床に、彼の剣はまるで大地に剣を突き立てるように簡単に突き刺さった。

 爆音と共に床が破壊され、破片が辺りに飛び散る。

 その破片には淡く桃色の光を纏い、ゆっくりと地面に降り注ぐ。

「その先に希望があると、お前は言うかも知れん。だが希望の先にはまた絶望がある。喜びは束の間、後に降り注ぐ絶望のどれだけ残酷なことか。喜びさえ知らなければ、いっそ地獄に生まれていれば、こんな辛さを誰も知ることなどなかっただろうに。そんな悲鳴を何度上げたことか。そんな想いをするくらいならもう、いっそ人を幸福に満ちた箱庭に閉じ込めてしまえばいいじゃないか。安心しろ、貴様もすぐに―――」

「よう。久しいのう、オンブル」

 と、ライエンの声。

 ハっと息を呑み、オンブルはそちらを振り返る。

 大剣を肩に担いだライエンが、呑気な顔して片手を軽く振っている。

 その後ろには地面に伏した兵士達の姿。まだ数人残っているが、それらはバードックと彼が呼びだした食材の精霊が倒してくれている。

「ライエン―――まさか貴様まで来ていたとはな」


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