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 核帯から生まれた光が人の精神体を吸収し、眠りに誘う。

 逃げまどう人々、護ろうとする兵士達。しかし彼らは成す術もなく、光に打たれて次々に倒れ伏す。だが帝都に起こった問題はそれだけではなかった。

 核帯の精神体が具現化した文字や記号の羅列は人の形を生成し、それらが人々を襲い始めたのだ。その形は壊れた鎧を身にまとった傷だらけの兵士の姿で、全身から血を流しながら無表情で人々に襲いかかる。彼らは一体何者なのか、まるで戦場から帰還したかのような状態で、血を滴らせながらも機敏な動きで人々を襲う。

「怯むな、動きを止めるな! 民を護れ!」

 男は叫び、剣を握りしめて敵を斬り裂き続ける。

 歳は今年で三十九歳になる、屈強な体凛々しい顔つきが印象的な大男。手入れを怠っているのと元々癖っ毛なのとが災いして荒々しく爆発したような金の髪は、伸ばした立派な髭と一体化して、まるでタテガミのようになっている。彼は獣人であり、頭には大きな獣の耳がちょこんと生えていて、お尻にもふさふさの尻尾が生えている。だからその髭も髪も、特に違和感はない。

 元々この世界には大きく分けて人間と獣の二種類が存在するが、その中で稀に獣人と呼ばれる種族が存在する。これはその通り、獣と人間の間に生まれた存在。だが普通、人間と獣の間に人が生まれることはごく稀なことであり、その存在は極めて珍しいといえるだろう。

 ちなみに彼の名はライエン、獣騎士団・団長である。

「っていうか、斬っても斬っても減らんし死なんしああああああああああああああ!」

 ライエンは四方八方から飛びかかって来る兵士を一太刀で一掃し、殺気を感じて振り返り襲い来る敵を一突きにして、剣から振り払う。

 そして腰に携えた酒の入った瓢箪―――ではなく、中に入っているのは牛乳で、彼はそれを一気にのどに流し込むと乱暴に口を拭い、鋭い目つきで周囲を確認する。敵は、ない。けれど殺気はある。

 足元に朽ちたはずの敵も粒子に戻って煌めきながら宙に溶けて消えていく。

「一体なにが起きているというんじゃ、これは」

 と、空になってしまった瓢箪を覗きこみ、少し残念そうな顔をする。

 とそこに。

「おいライエン、無事か」

 やって来たのは、料理長のバードック。

 傍らには、弟子のロータスの姿がある。彼は背中に食べ物を大量に入れた籠を背負い、じっとライエンを見上げて立っている。

「ああ、バードック。ちょうど良かった、牛乳の追加を頼もう」

「ほざけ、今朝からどんだけ飲んでるんだ貴様は! 帝国の雌牛は貴様のために乳を出しているわけじゃないんだぞ!」

「ケチ臭いのう。ワシは牛乳がなければ力が出んのだぞ」

「だったら自分専用の牛でも飼えばいいだろう」

「ロキが反対したんじゃ」

 バードックは口先を尖らせ、両手の人差指をつんつんしていじける。

「獣騎士団の団長が乳欲しさに朝っぱらから雌牛の乳を搾る姿は部下にも見せん方がいいだろうからな」

「しかし専用の雌牛はいいなぁ………」

「まあ、乳の話はどーっでもいいんだが。さっきから街中で暴れているあの兵士、見覚えは………あるだろうな」

 鋭い眼差しが、ライエンに無駄なプレッシャーを与えて来る。

 ライエンはあまり頭が良い方ではないし、暗記と計算は特に苦手だ。けれど帝国にとって重要なことはちゃんと覚えているつもりだし、そういう方面には記憶力も人並に働いていると、自分では思っている。

「あ、ああ。たしか二十年前の戦争の――――そうだ、ワシらグリングラウンドと共に戦った【五聖団】のルベルグラウンドの兵士達、じゃよな」

 と必死に記憶を探って、人差指を立てて答えて見せる彼だったが、その視線は明らかに自信なさげに遥か彼方に逸らされている。

「貴様と言うやつは、まったく呆れた奴だ」

「あ、ああ。違ったか、ええと確か。ああ、そうじゃったそうじゃったあれはーーー」

「正解だ」

「なんじゃとおっ? 意地の悪い奴だな、髭ひっこぬくぞっ?」

「うるさい、どうせ当てたのも偶然だったんだろうが!」

「ち、違うわい!」

「まあ、いい。そうだこのグリングラウンドと同盟を結び、世界を支配しようと試みたグレイグラウンド王国に立ち向かった【五聖団】の【ルベル王国騎士団】――――彼らの中心に立ち軍を指揮した騎士団長は生き残ったらしいが、心を病んで寝たきりになったらしい」

「そのルベルグラウンドの兵士が何故」

「あの戦争で【五聖団】の多くが命を落とした。だが、この街に現れたのはルベルグラウンドの兵士のみ、なら魔操の異常の原因がそれと関係してると考えてもおかしくないだろう。とにかく陛下にこのことを報告――――」

 そこへ、一人の兵士が慌ただしく走って来る。

「大変です、皇帝陛下が―――――――!」

 


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