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「今後一切、二度と、邪魔をしないでほしい。です」

「な、ななななによ………なによ、エネルの癖に生意気なんだからあああ!」

「………今回のこともどうせ、母親に頼んだのでしょう」

 静かに図星をつかれ、アムルはびくっと体を震わせる。

「またお金を積んで、雇ってもらった」

「な、なんのことよっ。知らない、知らないもん!」

「形ばかり追いかけて実力を置き去りにした哀れな人。死にたくないのなら、自分の巣に帰るのです」

「哀れって。哀れって、なによっ」

「………子供は帰ってママのミルクでも飲んでいろ、です」

 アムルの質問には答えず、背を向け、冷やかな眼差しで告げる。

 実力の差。これが、彼女の実力で。これが私の実力―――アムルは悔しさと情けなさで、声を上げて泣き出すのだった。

「クリム。博士に近づかないでください、です」

「素直にきくと思うか?」

 悪辣な笑みに顔を歪め、ライトマンの顔を踏みつけにする。

 なんとか起き上がろうとするライトマンだったが、先程の一撃が効いたのと日頃の運動不足がたたったのか、彼の足から抜け出すことができない。

「博士。とても素晴らしい姿です」

「ええー………」

 心配の言葉でもかけてくれるのかと思ったら、これだ。

 なんとなく予想はしたけれど、本当に言われてしまうとちょっと傷つく。

 ライトマンはクリムの足の下で、ぐっと泣くのを堪えた。

「私の足の下でないのが残念、です」

「い、いや………誰にも踏みつけにされたくないんだけどなぁ」

「博士の頭は私が踏みます」

 チェーンソーのバーに魔操を充填し、ギっと獣のよう眼で睨むエネル。

「だから。その足を切り落とされたくなければ早く、そこをどきなさい」

「ふん。素直に言うこと聞くわきゃねえだろ。だがそうだな、そんなに放して欲しけりゃ」

 クリムが足を離した。

 かと思うとまるでボールでも蹴るようにライトマンの頭を蹴り飛ばし、楽しげな笑みを浮かべた。

 ライトマンは呻いて頭を抱え、苦悶の表情を浮かべて顔を上げた。そこに今度はクリムのつま先が命中、鼻血を吹きながら人形のように無造作に転がる。

「クリム――――」

 エネルの魔操がゆっくりと増加し、チェーンソーのバーがバチバチと不穏な音を立てはじめる。充填した魔操の量がバーに収まりきらず暴れだしている。

「エネル、だめだよ」

 鼻を押さえつつ、エネルを止めるために歩き出すライトマン。

 だがエネルは彼の言葉も耳には入らない。ただ眼の前の敵を、いらないものを、倒すことにのみ意識が集中している。それを知ってかクリムは更に嬉しそうに表情を歪め、両手に魔操を充填させるのだった。

「お前もいっちょまえに怒るようになったんだ。面白いな、やってみろよ」

 地面を蹴り、跳躍・素早くエネルの後方に回り込んで魔操を漆黒の刃へと変えて彼女の背後に迫る。だがエネルは素早くそれを交わして宙を舞い、空中でひらりと一回転すると彼の頭上からためらいもなくチェーンソーを振り下ろす。

 そこに彼女の人間らしい感情は、一切ない。

 あるのは殺意のみ。

 いらないものは殺すという、純粋なまでの殺意のみ。

 やばい。

 ライトマンはぞくりとし、彼女の名を叫びながら駆けだす―――

 クリムは身をひるがえし刃を構えて彼女に攻撃をしようとしたが、彼女の素早さに追いつくことはかなわなかった。彼女を視界の端に捕らえた次の瞬間、彼女は眼前に迫っていた。そしてついに、チェーンソーを振り下ろし………クリムを斬りつける。が、寸でのところでライトマンが彼女の体を抱き込み、クリムの体をバーが掠めるだけで済んだ。だがそれでも服が破れ皮膚は傷つき、血が流れてしまったが。それでも致命傷と言うほどでもなかった。あのまま彼女を放っておいたら、今頃クリムの体は真っ二つだっただろう。

「なっ………なんだお前、それ」

「エネル。エネル」

 バーから魔操が消失し、ゆらめいていた彼女の髪もふわりと下がる。

 ようやく正気を取り戻した彼女は無表情でじっとライトマンを見上げて、

「無事、ですか」

「うん。無事だよ無事、だから武器をおろして」

「博士………私は」

「大丈夫。ありがとう」

 優しい笑みでそう言って、頭を撫でてやる。

 エネルは少し安心したように眼を細めた。

「………はい」

「クリム君。そこを通してくれるかな」

「………いやだね」

「ワシらも魔操の異常の原因を調べなきゃならないんだよ。これは陛下直々の命令で」

「知らないね。アカデミーはもう既に独立国みてーなもんだ、俺ら組織の人間は陛下の命令より総帥の命令を優先する」

「そんな」

「今回の件は組織の人間が解決する。テメェらはお城に帰ってそう陛下に報告でもしてろ」

「そんなことが許されるはずがない。独立国だなんて」

「許すも許さないもないんだよ。だいたいな、負けて生かされるぐらいなら俺は」

 再び両手に魔操を充填するクリム。

「――――――殺された方がマシだ!」

 駆けだし、素早く後方に回り込んで手に魔操を充填したままライトマンの背中に叩きつける。だが一瞬早くエネルが彼の足を払って転倒させ、再び魔操を充填したバーで魔操を弾く。

「エネル、行こう」

 ライトマンは素早く立ちあがると、彼女の手を引いて走り出した。

「待て!」

 クリムが二人を追う。ライトマンは振り返り、工具袋からドリルを取り出し地面に突き立てる。

 地面に突き立てられたビットが魔操を放ち、爆風とともに砂塵の壁を作る。爆風は砂塵を巻き上げクリムのめを眩ませ、その隙に、二人は時計塔に掛け込んだ。

「くそ! おいアムル、いつまでも泣いてんじゃねえよッ」

「な、泣いてなんかないわよ失礼ねっ」

 強がったところで眼が真っ赤なことも涙がボロボロこぼれていることも、隠せない。

 それについてつっこむのも面倒になったクリムは舌打ちすると、もう彼女のことは放っておくことにして二人を追って塔に飛び込むのだった。




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