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「ところで博士。神殻傀儡、というのは確か」

「ああ。二十年前の戦争で大量生産された人型兵器だよ。もちろん意思なんてない、ただ人間と言う人間―――いや、生体反応のあるものを、動物や虫や人間、全てを殺した恐ろしい兵器だよ」

 逃げながら話し、兵士を気にして振り返る。

 既にその姿は見えないが、あの素早さからして、諦めたとは思えない。恐らく先回りしているか、すでに追い付いて近くにいるのかも知れない。ライトマンは辺りに視線を巡らせ、警戒した。

「はっきりと覚えているよ」

 ライトマンは哀しげに瞳を伏せた。

「どこかの国で誰かが発見した力。それが全ての始まりだったんだ」

「力、とは」

「魔操とは似て非なる、それ以上の力さ。己の精神体に直接意識を潜り込ませることのできる能力で、それがあれば己の持つ魔操の力を最大限に生かせるって力だよ。君も知っている通り、魔操は特有の精神構造を持ち意志を持って存在しているため、才能のある者は己の精神をそこに触れさせ特殊な精神体を構築・具現化させることができる。だけどあの力は直接己の精神体に潜り込み魔操を干渉させることができた。つまり、自分の精神構造を魔操と融合させることができて、強大な力を手に入れることができたんだよ。もちろんそれを発見した男は、自分自身が使えたわけじゃない。ある男を実験体にして力を作りだすことに成功したんだよ」

「実験体………」

「まあ、その犠牲者の生死はわからないのだけど。でもその犠牲者となった男は国家の飼い犬となって、その国が世界に己の力を誇示する道具に使われたのさ。当時、世界はあの国の保有する力に屈服するしかなかった。だけど、そこに立ち向かった人達がいてね―――戦争がはじまり、神殻傀儡が多くの国々にばら撒かれ、数えきれない命が犠牲になってしまったんだ」

「犠牲、ですか」

「グレイグラウンド。世界を支配しようとした極悪非道の国王は神殻傀儡を世界中にばらまき、力で人をねじ伏せようとした。多くの人が犠牲となり、大地は血と肉に埋め尽くされたんだ」

 哀しげに瞳を伏せて、ライトマンは話す。

「………」

 話すライトマンを見上げ、彼のその哀しげな瞳を見つめるエネル。

 知っている。

 本で読んだ。学校でも習った。

 戦争経験者の話も聞いたことがある。

 世界はこれまでに幾度となく争いを繰り返し、そのたびに、後悔と反省を繰り返したという。それでも時が経てばまた争いが起き、多くの命が犠牲となる。今はこの国も平和だが、またいつ、戦争が起きるとも限らない。平和こそが仮初と、そう、思わざるをえない。それはなんだか哀しいことだけれど、でも、学んだ歴史は確かにそう言っている。

「もう戦争なんて起らなければいいけど。でも人間には、心がある」

 だからいつまた、起るかも知れない。

 話すライトマンの横顔はどこか哀しげだ。

 エネルは戦争を知らない。だけどライトマンは、知っている。直接関わったわけではないのだろうけれど、その目で、その時代を見たのだ。思い出せばどれだけ胸が痛むだろうか、きっとその時代彼も、本で読んだ戦争経験者同様に辛い想いをしたに違いない。そして大切ななにかを失ったかも知れない。

 聞いてみたかったけれど、そんなこと、エネルにはできなかった。

「心がある限り人はまた妬み恨み過ちを繰り返すんだろうね」

「そんなの、哀しいです」

「だけど人には優しさがある。心がある。だからどれだけあら追いが起ころうともいつかはまた平和を取り戻す………それはワシの勝手な希望なのかもしれないけど、そう思わなきゃ笑って生きてなんかいけないものね」

 そう言ってライトマンは優しい笑顔でエネルを見つめた。

「エネル。人は残酷な生き物かも知れないけれど、優しさは希望だとワシは思うんだ。だからエネル、優しさを忘れちゃだめだよ、なにが起きても。どれだけ世界に絶望しようとも、ね。信じてほしいんだ」

 話すライトマンの横顔はとても切なげで、見ているエネルの胸もきゅうっと締め付けられた。

「人間が永遠に生きる生き物だったら、世界はまた違う形で歴史を重ねていたのかも知れないのにね」

「でも人間の一生は短い、です」

「まあ永遠に生きてたら疲れちゃうかもしれないけどね」

 とライトマンは苦笑する。

 するとエネルは、

「ところが残念、博士は短命なのです」

 ずばりと言いきった。

「えええっ?」

「仕事に押しつぶされて死んでしまいそう、です」

「い、いやだよ。絶対そんな死に方だけはしたくない………どうせなら、短い命でも、最期は」

 言いかけて、ライトマンは足を止めた。

 ここはどこだろう。

 いつの間にか広場を抜けて路地に入り込んでいた。

 白い建物が乱立し、その間を縫って階段が続いている。平らな道はなく、階段と高低差の激しい複雑に入り組んだ建物の屋上から伸びる植物や梯子のようなものだけが、唯一まともな道と言えるようだ。

 なんとも奇妙な街だ。

 二人は手を握り合ったまま立ちつくし、街を見上げた。




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