駆け抜けた
走った
日差しの照りつける道路を駆け抜けた
私は聞いてない
君が居なくなると聞いてない
別れの言葉さえ、聞いてない
ふざけるな
冗談もほどほどにしてくれ
きっと君に問い詰めても
困ったような顔で笑うでしょう
言い訳を口にしながら
ずっと私はそんな君に負けてた
仕方がないな、と許してた
だって、私は君が好きだったから
怒ることもあった
悲しくなることもあった
でもそれと同じくらい
いや、それ以上に君と居て幸せになった
だから君は一番大切で
どんなことがあっても守りたい人で
その気持ちに嘘はなくて
その気持ちを伝えることも出来るのに
どうして君は
別れの言葉もなしに
消えようとしてくれるかな
急な坂を駆け抜ける
履いていたビーチサンダルが擦れて
足に血が滲む
風を体で感じて
今までにないくらいの、全力疾走
気温の高さを示すように
陽炎が道路の上を踊る
その陽炎の中にさえ
大好きな君の後ろ姿を見た
汗が止まらない
上手に息が出来ない
足が地面を蹴っているか分からない
どうしてこんなに
息苦しいか
なんで涙が
頬を伝って地面を撥ねるのか
足を血まみれにして
駆け抜けてるのか
馬鹿らしくなる
ああ、そうさ馬鹿らしい
君は何も言わないで消えるんだ
言いたくなかったんだろう
言う暇はあった筈
それでも伝えなかったのは
言う必要がなかったってこと
全力疾走して
君の背中を追いかる
汗だくの私は
人生の中で一番、必死になってるんだ
絶対に君を捕まえる
何を言われようと、知ったことじゃない
もう君の事情なんて知るか
どう言い訳しようと
必ずこれだけは叫んでやる
ほら、見つけた
私の大好きな人
痙攣を始める手足に鞭を打つ
あと少しだけ
君の手を掴めるところまで
私の体を持っていって
駅のホームを駆け抜けた
人混みに紛れる
その背中
ここまで駆けたんだ
諦めるなんて、ありえないでしょう
ほら、追いついた
大好きな君に
『よく間に合ったな』
言いたいことはあるのに
体が酸素を欲しがるから
何もいえない
ちょっと待ってよ
心の中で叫んでやった
視線が合ったとき
やっぱり君は
困ったような顔で笑って
逃げようとするんだ
ふざけんな
「ちょっと待ってよ」
「何処行くのさ」
「私はもう隣にいらないのか」
「それでも言ってやるよ」
「君の事情なんてどうでもいいね」
「叫んでやる」
大きく息を吸い込んだのに
汗だくの私を君は抱きしめた
もう、君がわからないよ
どうしたいのさ
どうしたいんだよ
何かあったんですか
教えてくれないと、分からないよ
『色々、本当に色々あって』
『君の隣に居られなくなった』
『ずっと隣にいたいけど、君がどうしようもなく愛おしいけど』
『俺はここにいれない』
そうだろうね
知ってるよ、そんなこと
君の言葉を私は疑わないよ
いいよ、そんなこと
ちゃんと納得出来ないかも知れないけど
それでも受け入れることは出来るから
人生で一番必死になるくらい
世間体無視して走り続けるくらい
汗だくのまま泣いちゃうくらい
私は君が
「「大好きだっ!!」」
困ったように笑う
最愛の君は
滑り込んできた
とても私の足じゃ追いつけない速さの乗り物に乗って
私の隣から消えました
駅のホームをまた、駆けた
道路も駆け抜けて
急な坂も駆け上がった
走りまくって
足もつれさせて
息も出来なくなりながら
君と一緒に過ごした家に向かった
確かなものがなくていい
目に見えなくていい
聞こえなくていい
でも、絶対に忘れない
君と私が一緒に過ごした
その時間だけを
それだけで、私には十分すぎるから
いろんな感情を
色鮮やかな記憶を
大好きな君を想って
私は地面を蹴った
ただひたすらに
全ての道を
駆け抜けた
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