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ルシフェリック☆バースト!  作者: めらめら
第1章 滅びの兆し
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魔剣士見参!

 と……その時だ。

 

 突如、ぼうぼうと耳をつく風の音。

思わず振り向いた裂花の顔を、紅く揺らめく光が照らし、熱気が全身を叩いた。

愕然の裂花は数瞬佇むと、ようやく状況をのみこんだ。

風の音ではない、炎立つ音だ。

二人の少女の周囲の闇に、前触れも無く真っ赤な炎が巻きあがったのだ。

何が起きた!熱気から顔を手で庇いながら、裂花は周囲を窺う。

ああ!炎の出所を理解した少女は、怒りに口の端を歪めた。


 蝶だ。燃えているのは裂花の蝶だ。

いかなる理由か判らぬが、宙を舞っていた何百頭もの蝶の翅が一斉に炎を噴き上げたのだ。


「私の、私の蝶……!これは焔術!」

 戦慄く裂花に……


 ざしゅ!落ち葉を蹴る音。

燃える蝶たちを切り裂いて、紅蓮の円陣に何かが飛び込んできた。

紅に、橙に、揺れ立つ逆光を背負った黒影が振り上げたのは、炎を映して赤々と輝く鋼の刃。

しゅ。裂花を見舞う白刃の一閃。

「ひ……」予期せぬ斬撃に少女の身が竦む。だが、白刃の切っ先が狙うは少女に非ず、その髪だった。

はらり。刃黒髪を両断。縛めを解かれて地面に投げ出された琉詩葉が、まだ呆然のまま地に塗れ、ひくひくと体をひきつらす。

おお、琉詩葉の前に出て厳しく裂花を睨むのは、両手に真剣を構えた着流しの老人。


 冥条獄閻斎であった。

獄閻斎すかさず二の太刀。裂花に跳び寄りその体を横薙ぎに斬り払う……と……


 ふわり。


 これはいかなることか、今度は紙一重で刃をかわした裂花、大きく飛び退った彼女の体が、まるでマリオネットのように宙に浮いた。

なんという妖しい光景だろう。燃え落ちて行く黒蝶たちの、ゆらゆらのオレンジ色に照らされながら、

白い肩をはだけさせて獄閻斎と琉詩葉を闇から見下ろす少女の姿。


「理事長、お久しぶりね!」

 闇に浮んだ少女が嗤う。


「物の怪どもが騒ぎおるから辿ってみれば、お前であったか、『吸血花』!」

 獄閻斎が怒りに燃える眼で少女を睨んだ。


「理事長……琉詩葉ちゃん、本当に冥条の跡取りなの?まったく修練が足りていないんじゃなくて?」

 裂花が嘲るような口調で獄閻斎に言う。


「裂花……お前とは古い誼みだが、よもやわしの孫を手にかけようとは……死ね妖怪!」

 老人はそう言うなり、懐に潜ませていた手裏剣を何の躊躇も無く少女めがけて投げ打った。

しゅしゅ!裂花の眉間めがけ、寸分の狂いも無く飛んで行く棒手裏剣。だが……


「ふぅぅ」


 裂花が朱い唇から息吹きを漏らした。

見ろ、とたんに蒼黒い炎を噴き上げて、空中で爆発四散した獄閻斎の棒手裏剣。


「理事長、勘違いしないで、このままではいずれ、貴方も琉詩葉ちゃんも死ぬ!」

 玲瓏とした、だが冷たい裂花の声。


「私は警告にきたの、『ルルイエ学園』が動き始めた、次の狙いはこの聖痕十文字学園!」

 少女の顔から笑みが消えている。


『ルルイエ学園』!


 獄閻斎の顔がこわばった。

この世界とは1/2スピンの小さい粒子で構成された『影の世界』を潜行する、暗在系インターナショナルスクールだ。

これと定めた学校の門前に浮上しては、狂信的な生徒や教師をエージェントとして送り込み、敵校を壊滅状態にさせて吸収合併していく恐るべきバーサーカー学園である。

既に『ラウロス魔法学園』、『星辰流武術学校』、『昴星弩轟塾』、『メルキオス・グラビティスクール』、『甲賀卍谷忍法学園』といった日本有数の名校がその軍門に下っている。


「理事長、この戦、我らは既に参列の構え、貴方たちも備えなさい大冥条、来るべき『大戦』に!」

 裂花が叫ぶ。

獄閻斎は肩を震わせながら顔を伏せた。

五十年前の戦いで多大な犠牲を払って、必死の思いで退けた『奴ら』が、今またこの聖痕十文字学園を狙ってくるというのか!


「くく……面白い」

 顔を上げた老人の目は、戦火を燃やして獰猛に煌いていた。


「夕霞裂花!ぬしら『無明一族』の手を借りるまでも無い、学園は我ら冥条家夜見の衆と直参の手で守り通す!帰って『聖魔の円卓』にもそう伝えい!」

 獄閻斎がニヤリと笑い、空中の少女に言い放った。


「ふふふ……理事長、あいかわらず血気盛んだこと、五十年前のあの時と変わらない……」

 裂花が婀娜に嗤いながら、すううと闇の奥に消えていく。

「でも、凛くん……あの日の『盟約』はずっと生きている……あなたもまた我らの徒、この戦い、陰から見届けさせてもらう……」

 鈴の音のような少女の声が老人から遠ざかっていく。


「琉詩葉……」

 消えゆく蝶たちの放つ幽かな光芒を背に、獄閻斎は、痛ましげな眼で地面に伏した孫娘を見つめた。

人外の勢力から、学園ひいてはこの世界を守るのが冥条家の使命。

とはいえまだ年端もいかぬ孫を、最も苛烈な異界間学園戦争に放り込むことになろうとは……。


「瑠玖珠……お前さえ生きておったら、琉詩葉にこんな苦労をかけずに……」

 老人はしわがれた声で誰ともなしに呟いた。

そして両手で琉詩葉を抱え上げると厳しい顔で屋敷にむかって歩きだした。


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